一色清の世の中ウオッチ 略歴

2014年04月15日

「アナと雪の女王」から映画産業を考える (第41回)

拡大する世界市場に日本のエンタメを

 週末、小学3年生の娘と一緒に、郊外の映画館でディズニーのミュージカルアニメ映画「アナと雪の女王」を観ました。公開後一カ月近くたっても入場者が増え続けていて、日本での大ヒットの目安である、興行収入100億円、観客動員数1000万人の達成は間違いないという評判は聞いていましたが、確かに映画館はほぼ満員でした。子ども連れが目立ちますが、若いカップルや中高年の観客も少なくありません。周りの会話を聞くともなく聞いていると、「2回目」とか「3回目」とかリピーターが多いことも分かります。

 内容はというと、年甲斐もなく、ちょっと感動しました。原作はアンデルセンの童話「雪の女王」です。ただ、脚本家が「今を感じられるように」大幅に手を入れ、様々なメッセージが込められたものになっています。心を解き放って自由に生きていいんだよとか、愛の強さが氷をも溶かすんだよとか。
 ストーリーに加えて、映像と音楽の素晴らしさも特筆ものです。主人公の一人エルサが主題歌「レット・イット・ゴー」を歌う場面は、アメリカでは観客が一緒に歌うほど盛り上がるそうで、日本でも一部の映画館では4月下旬から「みんなで歌おう」企画が実施されることになっています。私と娘も、家に帰ってユーチューブで「レット・イット・ゴー」を何度も聞く羽目に陥りました。
 「アナと雪の女王」は世界的に大ヒットしています。アメリカでも、ヨーロッパでも、中国でも。世界の映画市場は、ここ5年で25%も大きくなっていますが、「アナ」の好調も寄与して2014年もさらに伸びそうです。
 映画市場の伸びを引っ張っているのは新興国です。特に中国の伸びは著しく、2012年には日本を抜いて、アメリカに次ぐ世界第二の映画市場になりました。ここ4年で倍以上の伸びを示しています。映画製作にも力を入れていて、中国・青島に総工費8500億円をかけて「中国版ハリウッド」を建設中です。

 映画はこれまで何度も「危機」が言われました。テレビの登場で「映画はなくなる」といわれたのが、1950年代です。ビデオやCDが普及する80年代には「映画館に行く人が減る」といわれ、ハイビジョンテレビとインターネットが普及する2000年代には「家が映画館」などと言われました。こうした危機説に負けず、ここにきても大きく伸びているのは、コンピューターグラフィックスなどを使った映像技術の進歩と新興国の発展によるものです。

 「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、「衣食足りてエンターテインメントを知る」というのも事実です。生きることに精いっぱいの時代は、エンターテインメントどころではありません。お金は食べることや着るものに使われます。エンターテインメントは、ある程度の豊かさが必要です。世界は、21世紀に入って、この「ある程度の豊かさ」を享受できる人を増やしました。中国やインドで映画市場が大きくなっているのは、そのためです。
 でも、まだまだ映画を観る余裕のない人々は世界にたくさんいます。これからアジア、アフリカ、南米などの貧しい国々がうまく成長していくことができれば、世界の映画市場はもっと大きくなります。エンターテインメントは映画だけではありません。音楽や演劇、スポーツなどの市場も大きくなります。

 日本のエンターテインメント産業のレベルはとても高いと思います。世界で戦うには言葉の壁はありますが、いいものは言葉の壁を乗り越えて評価されるはずです。それに、翻訳技術の進歩が言葉の壁を突き崩す日も遠くないと思います。産業としての将来性はたっぷりあります。日本発の世界的大ヒット映画に関わってみたいと思う人はいませんか。
 
 

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