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2025年07月25日

政治

反グローバル主義は主流となるのか? 外国人問題をファクトチェック【時事まとめ】

参政党が15議席に伸長

 7月24日の「就活ニュースペーパー」でも触れましたが、今回の参議院選挙では参政党が選挙前の2議席から一気に15議席まで勢力を伸ばす結果となりました。参政党がスローガンとして掲げていたのが「日本人ファースト」。参政党が打ち出した外国人問題は選挙の中心争点にまでなり、参政党躍進にもつながったとされています。

 グローバル化の進展が避けて通れないなか、こういった反グローバリズムというべき流れが強まっていることを、どのように考えればいいでしょうか。大切なことは、ファクトに基づいて未来を見すえた冷静な判断をすることだと思います。新聞報道などから、外国人問題を考えるうえで重要なトピックをまとめました。(編集部・福井洋平)
(写真・最後の訴えをする参政党の集会で、盛り上がる支持者たち。参政党の政策に反対する人たちも集まった=2025年7月19日/朝日新聞社)

外国人めぐり不確かな情報流れる

 外国人問題が急激に争点化した背景には、コロナ禍を経て再び日本に外国人がたくさん訪れるようになり、オーバーツーリズムの問題など外国人との摩擦が身近になってきたことがあげられます。日本政府観光局によれば、1~6月の訪日外国人客は前年同期比で21.0%増え、約2152万人に達しました。もちろん過去最高の数字です。

 善教将大・関西学院大教授(政治行動論)らの研究チームは今回の参院選と2024年10月の衆院選で、有権者約3万2千人に「外国人労働者(移民)をもっと受け入れるべきだ」という意見についてたずねました。結果、衆院選と比べ、「賛成」「どちらかといえば賛成」「わからない」を選んだ人が減り、「反対」「どちらかといえば反対」を選んだ人は約5ポイント増えたといいます。参政党は「移民に反対する人が支持する傾向は強い」という分析結果も出ています。

 一方で、選挙期間中、外国人をめぐり、本当かどうかわからない不確かな情報が街頭演説やSNSで多数出回りました。たとえば、
生活保護高額療養費制度国民健康保険で、外国人が優遇されている
・中国人留学生に1千万円が支援されている
・日本政府が参院選直前に75歳以上の中国人高齢者へのビザ要件を緩和した

 といった言説です。不法滞在者が増えている、外国人のせいで治安が悪くなっている――という声も、多く聞かれるようになりました。
(写真・築地場外市場で食べ歩きを楽しむ外国人観光客ら=2025年4月30日)

ファクトチェックの結果は「誤り」

 そもそも、これらはどの程度事実なのでしょうか。

 まず生活保護や高額療養費制度、国民健康保険については、福岡資麿厚生労働相が15日の記者会見で、いずれについても国のデータを示し、「外国人を優先していることはない」と否定しています。厚生労働省のデータによれば、2023年度の国民健康保険に加入している外国人の割合は4.0%で年々増える傾向にありますが、かかった総医療費に対する外国人の医療費の割合は1.39%。また、高額療養費支給額の割合も1.21%です。加入率にくらべ、支給されている医療費は低いのが現状です。生活保護については厚生労働省が朝日新聞に対し、生活保護の受給に関して外国人が日本人より有利になる要件があるかについて、「ない」と回答しています。日本に住む外国籍の人が受給するには、日本人と同様に、その資産や困窮度が調査されます。

 中国人留学生に1千万円が支援されているという言説もSNSで広まり、参政党の複数の候補者が取り上げました。文部科学省の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)は、国籍の区別なく各大学が優秀な後期博士課程の学生を選抜し、在学の3~4年間で計平均780万~1040万円を支給する制度です。文科省によると、昨年度の中国人留学生の受給者は3151人で3割だったそうです。国籍に関係なく優秀な学生に支援をする制度であり、中国人だけを優遇しているという表現はミスリードと考えられます。

 中国人高齢者へのビザ要件を緩和したという情報についても、外務省によると、現時点で緩和したという事実はないとのことです。

外国人数増えているが犯罪数は横ばい

 外国人により治安が悪くなっている――という言説はどうなのでしょうか。

 SNSで外国人をめぐるデマが氾濫している状況を受け、移民・難民政策を専門とする国際基督教大の橋本直子准教授は、SNSで外国人問題を考えるうえで重要なデータをSNSにアップしています。それによると、
・不法滞在者の数は2025年1月1日現在で74,863人。ピーク時の1993年と比べて約1/4まで減少している。
・短期入国者も中長期在留者も急増しているのに、外国人犯罪は近年ほぼ横ばい。
 ということがわかります。データ上は、外国人増加が治安悪化につながっているとはいえなさそうです。ただ、外国人が増えることで文化の違いによる摩擦を感じる日本人が増えていることもおそらく事実でしょう。「外国人が増えて不安」という声をまったく無視するのではなく、どう文化的な摩擦を減らしていけばいいのか考える必要性もあると考えます。

 また、外国人が土地を買い占めているという言説については、中長期の包括的データはないようです。参政党が外国人対策を掲げて勢いを伸ばしていることをうけ、政府は選挙期間中の15日、出入国在留管理の適正化や社会保険料などの未納防止、土地取得の利用管理などに取り組む司令塔組織を内閣官房に設置しました。

日本語や社会のルールを教える仕組み作りが後手に

 橋本准教授は2016年、EUから離脱を決めたイギリスにいました。ある政党は「EUに加盟しているから外国人が入ってきて、あなたたちの仕事が奪われている」と主張し、労働者層の多くがそれを信じて、国民投票で離脱に賛成する票を投じました。しかし、離脱が決まった日、英国で非常に多く検索されたのは「What is the EU?」だったといいます。「終わってからファクトを知るのでは遅い」と橋本准教授は語ります。

 日本は移民受け入れ政策をとらないとしながら、実質的に外国人労働者の受け入れを進めてきました。このため、日本にくる外国人に日本語や社会のルールを教えるという仕組み作りが後手に回ったまま、外国人労働者だけが増えてひずみが生じていると橋本准教授は指摘します。「西欧諸国の多くでは原則的に、中長期に在留する人には一定程度の現地語習得や『社会統合コース』への参加を義務づけています」といい、日本でも今後こういった教育に政府が責任を持つことが必要ではないかと橋本准教授は提案しています。

 参政党が伸びたことでクローズアップされた外国人問題ですが、グローバル化の流れは止められるものではなく、また少子化のことを考えると外国人受け入れをやめるのも現実的ではありません。では今後、日本はどうすべきなのか。複合的にニュースをチェックして、今後の国のあり方や自分のスタンスを考えるきっかけにしてほしいと思います。
(写真はiStock)

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