SDGsに貢献する仕事

日本郵船株式会社

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日本郵船〈前編〉ゼロエミッションをアンモニア燃料船で実現する【SDGsに貢献する仕事】

2025年07月30日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」。第25回は海運業界最大手の日本郵船が登場します。創業140年を迎える伝統ある企業ですが、「これまでを極め、これからを拓く」というキャッチフレーズのもと、業界の先端を行くチャレンジを続けています。なかでも、温室効果ガスであるCO₂を排出しない「アンモニア燃料船」開発に向けた取り組みは世界的な注目を集めています。これまでにない海運の姿をつくりだそうとする、アンモニア燃料船プロジェクトの社員2人にじっくり話を聞きました。(編集長・福井洋平)
【お話をうかがった方のプロフィル】
次世代燃料ビジネスグループ アンモニア燃料船開発チーム 高野貴帆(たかの・きほ)さん〈写真右)
2013年慶応義塾大学理工学部卒、同年日本郵船入社。タンカーグループ、貨物航空事業グループ、自動車事業統轄グループ、バルクエネルギー事業統轄グループを経て現職。
次世代燃料ビジネスグループ アンモニア燃料船開発チーム 雨宮大朗(あめみや・ひろあき)さん(写真左)
2020年東北大学法学部卒、同年日本郵船入社。燃料炭グループ(現・燃料炭ソリューショングループ)を経て現職。

アンモニア燃料船開発で温室効果ガス削減を

■アンモニア燃料船開発チームのお仕事
 ──まず、お2人がいまかかわっている「アンモニア燃料船開発」とは、どういうお仕事か教えてください。
 高野貴帆さん これは、アンモニア燃料で走る船を開発しているチームです。今までの船舶は一部を除き、重油を燃料としています。しかし現在、環境を破壊する排出物をできるだけなくそうと世界中が動いており、弊社も「2050年までにゼロエミッション」の宣言を行っております。そうした中、どうしたら船会社としてGHG(温室効果ガス)を削減できるだろうと考えていくなかで始まったのがこのビジネスモデルで、最終的には重油の代わりにアンモニアを使って船を走らせることが目的です。アンモニアを燃料にすると燃やしてもCO₂を排出しないのですが、今まで誰もやったことがありませんでした。

 ──アンモニアを燃料にするのは、何がネックなのですか?
 高野 実はアンモニアは燃えにくく、単体では燃やすことが技術的に難しいです。そのため、アンモニア燃料船は「混焼」といってアンモニアを重油など燃えやすい物質と一緒にエンジンの中で混焼しています。それからアンモニアは毒性も強く、安全確保の面に気をつけなくてはいけません。

 ──アンモニアは取り扱いも大変なのでしょうか。
 高野 毒性以外については、取り扱い自体はそこまで難しくありません。LNGや水素のほうが爆発する危険があったり、発火性が高かったりするので、取り扱い自体は大変です。

 雨宮大朗さん アンモニアは液化する温度が約マイナス33度とLNGよりも高く、そういう意味でも取り扱いやすいかと思います。アンモニアを燃料として扱うのは初めてですが、貨物としての取り扱いはあります。今は年間約2億トンぐらいの生産量に対し、その10分の1の約2000万トンが国際的に輸出入されています。

■アンモニアについて
 ──主なアンモニアの生産国はどこですか
 雨宮 生産国としては中国やロシアなど、輸出国としてはトリニダードトバゴなどが挙げられます。多くは、天然ガス由来の水素と空気中の窒素を反応させてアンモニアを生成しています。利用法は肥料用などですね。

 高野 実は今、「魁」が利用しているアンモニアは「エコアン(ECOANN)」といって、都市ガス由来ではなくプラスチックから生成され、都市ガス由来よりも環境に優しいアンモニアです。レゾナックという、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合した会社が開発した技術です。

世界初のアンモニア燃料商用船を2024年に竣工

■開発のきっかけ
 ──御社がアンモニア燃料船開発にターゲットを定めたきっかけは何でしたか。
 高野 「2050年までにゼロエミッション」という目標にコミットしようという意識が大きいです。そこから逆算してどうしたらGHGをゼロにできるのかと考えたとき、従来の燃料と比較し、GHGの排出を大幅に削減できる代替燃料を導入することが不可欠であり、その中でもアンモニアに注目しました。先ほど申し上げたように物質として取り扱いやすいということと、燃やしてもCO₂を排出しない物質というところが大きいですね。

 雨宮 弊社は代替燃料として水素やメタノールなどの可能性についても模索していますが、例えば外航船はかなりの距離を走らなくてはいけません。水素を燃料にすると、液体密度が低く非常に大きな燃料タンクを搭載する必要があり、その観点においてはアンモニアのほうが現実的か、と考えています。また、アンモニアは国内の電力会社をはじめ発電用途として、需要が増える見込みです。水素を取り出せる水素キャリアとしての役割もあり、アンモニアの需要が急拡大する見込みであることもアンモニアにより注目している理由の1つです。

■世界初のアンモニア燃料商用船
 ──もともと御社に、アンモニアを燃料にするというアイデアや技術はあったのですか。
 雨宮 我々は海運会社ですので、アンモニアをエンジンの燃料とする技術は持ち合わせていませんでした。今、我々が取り組んでいるアンモニア燃料船開発はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のGI(グリーンイノベーション)基金から助成を受け、アンモニアエンジンを開発するジャパンエンジンコーポレーション、IHI原動機、本船の設計を担当する日本シップヤード、船舶の検査・認証機関である日本海事協会とコンソーシアムを組んで展開しています。

 ──開発はいつスタートしたのですか。
 雨宮 コンソーシアムを組み、応募してGI基金の採択を受けるという流れで、採択を受けたのは2021年です。
 弊社は2024年、世界初のアンモニア燃料商用船である「魁」というタグボートを竣工させました。取り組みのスタートは他社と比べても早く、その分、知見もあると自負しています。

 ──なぜ、世界で初めて「魁」を竣工できたのですか。
 高野 これは弊社一社だと成し遂げられなかったことだと思います。メーカー、エンジンメーカー、造船所とコンソーシアムを組んだからできたことです。
 弊社には「これまでを極め、これからを開く」というフレーズがあります。伝統的な会社でありつつ、新たに発生するであろうビジネスを、どんどんパイオニアとして切り開いていくという力強いメッセージが、社員全員に広がっていると思います。

安全設計と法令づくりにかかわる

■AMFGC
 ──雨宮さんはアンモニア燃料船開発チームで、具体的にはどういった仕事をしていますか?
 雨宮 私は現在開発中のアンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC)という外航船、それからそれに付随するN₂O(酸化窒素)リアクターの開発に関わっています。アンモニアは燃やしてもCO₂は出ませんが、CO₂の265倍の温室効果影響があるN₂0が出ます。少量であっても環境にインパクトがあるので、N₂Oを処理して無害な物質に変えるようなリアクター装置の開発をしています。

 ──AFMGCはいつ竣工予定ですか。
 雨宮 2026年11月に竣工予定で、熊本県にあるジャパンマリンユナイテッドの造船所で建造します。今年(2025年)はエンジンの陸上試験など、一番の山場の年ですね。竣工すれば世界初と信じたいですが、いま中国、韓国でも開発が進んでいるようです。日本国内では、間違いなく一番ですね。
(AFMGCのイメージ画像=日本郵船提供)
■AFMGCの技術的ハードル
 ──技術的なハードルは?
 雨宮 アンモニアの難燃性を克服して、極力重油の投入量を少なくしなくてはいけません。そして、アンモニアと重油の割合で、アンモニアを高くする必要があります。また、毒性のあるアンモニアが配管を通って機関室に入ってくるので、漏れないように設計し、万が一漏れてしまったときの安全対策についても徹底的に検討しています。

 ──N₂0リアクターはどこで開発しているのですか。
 雨宮 カナデビア(旧日立造船)です。もともとNOxという人体に影響がある物質を処理するためのSCRという脱硝装置があり、その製造・販売をカナデビアが行ってきました。その知見や経験を生かして、今回はN₂Oを処理するような触媒や装置をつくってもらっています。

 ──技術的な課題が多いようですが、日本郵船としてはどのように関わっていますか。
 雨宮 弊社としては本船の安全設計・運用の部分に関して、造船所・エンジンメーカーと一緒に、普段船に乗っている弊社海上職社員を交えて「こういうリスクがあるから、こういう安全設計を取り入れたらいいんじゃないか」といった形で、実際に使う人の目線でのフィードバックをしています。実際に運航するのは我々なので、竣工後の実証、そこで得たデータをしっかり検証してフィードバックすることも会社としての非常に大きな役割だと思います。

 高野 技術以外に、法令づくりの面でも関わっています。船は設計やルールに関する法令がたくさんあるのですが、アンモニア船は誰もつくったことがないので、まだ法令がありません。認証機関とガイドラインを定め、どういう法令にしたら、今後みんなが安全に運航できるかを協議しています。

完成後もアンモニア燃料船普及のためPRを

■現状と今後の課題
 ──今年(2025年)夏では、AFMGC竣工に向けてどの段階まで進んでいますか。
 雨宮 今年は、エンジンなどの陸上試験を実施して、本船建造を本格的に開始する年です。主機はジャパンエンジン、補機はIHI原動機、N₂Oリアクタはカナデビア、と各社がそれぞれ陸上試験に向けて、鋭意取り組まれています。各社と密にコミュニケーションをとりつつ、課題に一緒に取り組んでいるところです。いまは国内のエンジンメーカー、造船所に足繁く通っています。

 高野 法令から技術的なところまで一から全部つくり上げているので、新しい会社で仕事しているみたいな感覚ですね。

 雨宮 船が完成したら、泣いてしまうかもしれません。

 ──今後、越えなければいけないハードルはありますか。
 雨宮 技術的な部分に加え、やはり2026年11月に竣工させるというスケジュールに間に合わせることが最大の使命です。また、船を竣工させておしまい、ということではなく、アンモニア燃料船をPRしていくのも非常に重要なテーマです。手前味噌ですが、日本郵船は伝統的な会社で「日本の海事クラスターのために活動する」という使命感もあります。だから2050年にゼロエミッションを達成するため、アンモニア燃料船を普及させるために社内外の人に理解してもらう必要があると考えています。中期経営計画では、アンモニア燃料船を2033年までに15隻運航するとしています。

東京湾内をタグボートとして活躍中

■アンモニア商用船「魁」
 ──高野さんは課長代理として、いまの部署の仕事全体を見ているのですか。
 高野 そうですね。 私はこの部署の広報や「魁」のPR活動、社内外の人を「魁」にお連れする仕事などしています。アンモニア燃料船の建造管理は課長代理として全体を見ています。ただ、「この人の下にこの人がいる」というピラミッド型のチーム形態ではなくて、みんながみんなで力をあわせてやっていく形です。「魁」は昨年の2024年8月に竣工、11月に実証航海が終わり、今は東京湾内をタグボートとして活躍しています。

 ──「魁」のすごいところはどういうところでしょうか。
 高野 やっぱり一番は、世界初の商用アンモニア燃料船というところです。いま造っているAFMGCよりもかなり小さくて、大きさは40メートルぐらいで5分の1程度です。タグボートは大きい船が港の中を走るときに押したり、引いたりする作業を行うので、小さく小回りがきく形です。

 ──タグボートを最初に開発した理由はあるのですか。
 高野 「魁」はもともと、日本初のLNG燃料タグボートとして誕生しました。そのときも最初は本当に小さいタグボートである「魁」をつくり、そこで出た課題を参考に大きい船にどんどん技術を拡大していきました。そのときに得た知見を、アンモニア燃料船の開発にも生かしたいと思っているのです。タグボートのような内航船は、外航船ほどの重装備が必要ありません。例えば、外航船でオーストラリアから日本まで往復しなくてはいけないとなると、その分の燃料タンクが必要だったり、法令も海外と合致していなければいけなかったりするので、時間がかかるのです。

 ――もともとはLNG燃料商用船だったのですね。
 高野 「魁」の改造にあたってはもともとの船を半分に切り、中のエンジン機関などを全部はずし、アンモニア燃料に必要な機関を入れました。言葉で言うと簡単そうに聞こえるんですけど、実は大変難しい作業で「あれ、入らない」となることもあります。こちらももちろん、クルーがいる居住区にアンモニアが入らない設計にしなくてはいません。万が一、アンモニアが漏えいしたときに、どれぐらいの被害があるのか、コンピューターで念入りにシミュレーションをしています。

最大95%程度のGHG削減したが、課題も

■「魁」への反応
 ──「魁」は、AFMGCで組んでいるコンソーシアムと同じ会社で取り組んでいるのですか?
 雨宮 アンモニア燃料船プロジェクトは弊社とIHI原動機、ジャパンエンジン、日本シップヤード、日本海事協会の5社で進めています。コンソーシアムでは外航船とアンモニア燃料タグボートの2隻を手がけていますが、外航船は全社が関わります。アンモニア燃料タグボートは弊社とエンジンを供給・納入してくださるIHI原動機、日本海事協会、京浜ドックという造船所、実際の運航は新日本海洋社という5社で取り組みます。

 ──実際に「魁」には乗られましたか。
 高野 入社13年目にして初めてタグボートに乗りました。停まっているときには機関室の中にも入りました。PRのため、お客様をお連れして見学会を開催することもあります。

 ──「魁」が完成して1年ぐらいですが、業界からのリアクションはいかがですか?
 雨宮 「魁を見てみたい」という声や、世界で初めての商用船ですので、「実際のところ環境性能はもちろん、安全性のところどうなの?」といった声をいただいています。もちろん安全です。
■今後の課題
 ──実証実験の結果、目的であるCO₂削減効果はどうでしたか。
 高野 最大95%程度のGHG削減を達成しました。ただ、アンモニア燃料は重油とくらべると正直、現状はコストは高いですね。

 雨宮 基本的にいわゆるグレーアンモニア(天然ガス由来など通常の方法でつくられたアンモニア)に関しては、コストに大きな差はありません。ただ、ブルーアンモニア(生産時に排出されるCO₂を回収・貯留してつくられたもの)、グリーンアンモニア(CO₂を全く出さずにつくられたもの)になると、現状では値段が跳ね上がります。

 ──アンモニア燃料船航行にあたっては、アンモニアを安定に供給する仕組みの整備も必要ですね。
 雨宮  アンモニアをバンカリング(船舶燃料供給)する体制は具体的に「いつまでに整備する」というのは難しいのですが、国内外で検討が進んでおります。現在開発を進めるアンモニア燃料船は貨物としてのアンモニアを燃料としても使用するため、アンモニアバンカリング船を必要としない設計となっています。アンモニア燃料船普及への黎明期においては適した船と思います。

(8月6日掲載の後編へ続く)

(インタビュー写真・山本友来)

SDGsでメッセージ!

 日本郵船は既存のインフラを支えることを前提に、アンモニア燃料船開発など日本と世界に貢献するような事業もしています。私は今6年目ですが、私以外のもっと若い年次の社員が多く活躍をしています。ぜひ、弊社に興味を持っていただけたら、大変ありがたく思います。まずは学生時代を満喫して、就活も悔いのないように頑張ってください。(雨宮さん)

 就活生のみなさん、今は今後の人生の大きな岐路に立っていると思います。まずは就活をする際に、自分軸で自分が何をしたいかを強く考えて就活をしていただけたら、きっといい結果につながるのではないかと思います。弊社にも興味を持って、入社していただいたら大変嬉しく思いますので、よろしくお願いいたします。
I look forward to working with you in the future!(高野さん)

日本郵船株式会社

【海運】

 日本郵船は1885年の創業以来、日本の輸出入の99%以上を担う海上輸送を中心に、「Bringing Value to Life」を企業理念に掲げ、主にモノ運びを通じて人々の暮らしや生活を支えています。  約900隻の船舶を世界中で運航し、脱炭素などの地球規模の課題にも積極的に挑戦しています。海上・陸上輸送を手掛ける多くのグループ会社と共に、総合物流企業として未来に必要な価値を創造し、社会に貢献し続けることを目指しています。