SDGsに貢献する仕事

王子ホールディングス株式会社

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王子ホールディングス〈後編〉世にないものつくるのが「王子精神」【SDGsに貢献する仕事】

2025年10月15日

  SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第27回目。製紙業を中核とする王子ホールディングス(HD)の後編をお届けします。製紙業が逆風のなか、酵素や微生物などの力で木からプラスチックや燃料をつくる「バイオものづくり」に取り組む王子HD。本格的な量産化に向けて試行錯誤を続ける研究員は、世の中にないものをつくりだす「王子精神」の最前線にいられることに大きなやりがいを感じています。就活当時の話や、就活生へのメッセージもうかがいました。(編集長・福井洋平)

【お話をうかがった方のプロフィル】
王子ホールディングス
イノベーション推進本部バイオケミカル研究センター 髙木惇生(たかぎ・あつき)さん
2020年北海道大学大学院農学院修了、同年王子HD入社。戦略企画部インキュベーション推進室にて、酵素糖化・発酵生産の基礎研究に従事。2023年にバイオケミカル研究センターへの組織変更を経て、2025年に大阪大学大学院工学研究科で博士号を取得。現在はポリ乳酸のパイロット設備導入の推進に関わる業務に従事。
(前編はこちらから

会社が中核事業として後押し

■量産化に向けて
 ──前編では、木の主要成分であるセルロースから酵素によって糖液をつくり、発酵によってエタノールや乳酸、さらにそこからプラスチックであるポリ乳酸を精製する「バイオものづくり」研究について伺いました。現在は、量産化に向けて研究を進めているところですか。
 実験室の100倍程度の規模をベンチプラント、ベンチプラントを100倍程度にしたものを一般にパイロットプラントと呼んでいます。糖液とエタノールのパイロットプラントは鳥取県の米子にあり、今年稼働しました。2030年度の量産・事業化に向けて、実証試験を行っている段階です。乳酸とポリ乳酸は、東京都江戸川区の研究拠点にベンチプラントで、事業性評価を進めています。

 ──ここまで生産規模を拡大できた要因は何ですか。
 やはり、会社が後押ししてくれたことです。技術自体があっても、研究資金に加え、大型設備導入に必要なお金を投資してもらえなければ、プロジェクトは前に進みません。次世代の中核事業として期待してもらっています。

 ──江戸川の拠点でベンチプラントを立ち上げたのはいつですか。
 2023年です。ポリ乳酸はベンチプラントで年間0.5トン、さらにスケールを上げたパイロットプラントによる実証設備の導入を目指しています。ポリ乳酸のパイロットプラントは2028年度に稼働させ、さらに2033年度までに年間数万トンつくる体制にしたいという計画です。

 ──今、ベンチプラントではどういう研究をされていますか。
 ベンチプラントでは量産に向けての技術的な検証に加え、連続的にプラントを動かせるかも見ています。生産規模が大きくなると、ラボでは見られなかったような現象が起きることもありますし、期待しているような製造量に至らないこともあります。ポリ乳酸は分子量が90の乳酸を多数連ならせて、数十万という分子量にする必要がありますが、条件によって、そこまで届かないこともあります。

 ──何が理由なのですか?
 木質由来の発酵乳酸を精製する技術に課題がありました。そのほかにも酸素や空気のコンタミネーション(混入)によりどうしても分子量は下がるので、理由は一概には言えないんですが…。

いろいろな会社と協力して量産化すすめる

■残る課題
 ──コスト面では課題はありますか。
 市販の酵素(セルラーゼ)が高いです。様々な点でコスト圧縮は検討していますが、例えば酵素を回収して、再利用することなどが上げられます。酵素は生体触媒とも呼ばれていますので、回収すれば何回も触媒的に反応できます。高温などで変性してしまうと使えないんですが、変性しない条件を技術的な視点で確認しています。

 ──ほかに、工業化へのボトルネックはありますか。
 石油化学製品の代替を目指しているので、技術的な知見が圧倒的に足りません。我々だけで立ち上げるのは難しいので、いろいろなメーカーやエンジニアリング会社と協力しています。バイオ、ケミカル、合成などの技術を総動員していく必要があります。
(写真=鳥取県米子市のパイロットプラント/王子HD提供)
■髙木さんの現在のテーマ
 ──髙木さんの今の研究テーマを教えてください。
 今は研究というよりは、量産化に重心をおいて取り組んでいます。パイロットプラント立ち上げ時期が2028年度と決まっているので、立ち上げのためにどんなプロセスにするか、どんな設備を入れるかを検討しています。プラント特有の用語や化学工学特有の用語など、専門用語が飛び交うので、その都度勉強しないと話にもついていけません。

 ──チームメンバーはいろんな研究をされているんですね。
 そうですね。パルプの糖化、有価物の発酵生産、ポリマー合成、パイロット設備の推進、設備のオペレーション、新規用途の探索など様々な業務に取り組むためのチームメンバーがいます。

 ──王子HDのポリ乳酸のアピールポイントはどこになりますか。
 海外には競合メーカーはありますが、「国産のポリ乳酸」というところをうまく押していきたいですね。また、既存のバイオマスプラスチックはトウモロコシ、サトウキビを原料に量産化されていますが、トウモロコシやサトウキビは食料ですので、さらに量産化すると食料と競合してしまう可能性があります。我々の木質由来のポリ乳酸は食料とは競合しないので、そこも武器にしていきたいです。
 日本の7割が山ですから、資源がないと言われてきた日本にあって、唯一の豊富な資源が木なんです。原料をたくさん保有しているというのはどう考えても我々の強みですね。最近、ほかの会社と話していても、「そこは王子HDのすごいところ」と共感してくれます。

自由な研究も援助してもらえる

 ──前編でお話されていた、海洋での分解性を高めるというのも強みになりますか。
 そうですね。プラスチックのリサイクル技術も進んでいますが、どうしても発展途上国を中心に、海洋に一般ゴミが流出しています。ウミガメの鼻にストローがささっている衝撃的な写真を見た人もいると思いますが、海洋ゴミはなかなか減らず、分解しやすい材料をつくるという視点も大事ですので、海洋分解性に関する技術開発も重要だと思います。まずは、木質由来のポリ乳酸を商業ベースに乗せることが目標です。森林資源を使ってプラスチックをつくる、そういう時代を当たり前にしたいです。
 プラスチックは品質とコストともに優れた素材です。今はこれだけ地球温暖化が進み、「石油資源を使うのはどうなのか」「枯渇するのでは」と問題になっていますので、石油に依存せず、木からプラスチックがつくれて、かつ生分解できるとなれば、置き換えていくことが必要だと思います。

 ──セルロースを分解するセルラーゼは、量産できるものですか。
 我々がつくっているものではないのですが、量産されているものです。セルラーゼの原料はいろいろあるのですが、糖を発酵させてつくります。ものによっては、セルロースを原料にしてつくることもあります。製造コストや酵素の能力には、まだ改善の余地があると考えています。

 ──発酵の力はすごいですね。
 日本は食品を中心に古くから“発酵”という手法を使ってきました。微生物の力を借りて、バイオマスをベースにした「バイオものづくり」の技術を確立していく。それは最先端の取り組みと言っても過言ではないと思います。
 実は製紙業界は斜陽じゃない、とPRしたいですね。

■髙木さんの就活
 ──髙木さんはもともと研究者の道に進もうと思っていたのですか。
 はい、研究職に就きたいなと思っていました。ただ、大学に残るか、会社に行くかは迷っていまして、モノづくりに興味があったので、メーカーに行きたいと思っていました。

 ──就活はされたんですか?
 はい。10社ぐらい受けました。食品系が多かったですが、王子HDから内定が出ました。大学でやってきた研究のことと、新しい素材開発に関わり、事業化に貢献したいという熱意をアピールしました。

 ──就活の際に、研究室からの推薦はあったのですか?
 研究室の推薦はなかったです。前編でもお話ししましたが、就活する中で、大量のセルロースをもっている製紙メーカーは面白いなと思っていました。ペーパーレスになって行くという転換期にあるので、新規事業というか、研究所の重要性がすごくあるんじゃないかと思いました。

 ──王子HDに決めた最終的な理由は。
 日本最大級の森林資源を持っているということは揺るぎない事実です。そこは強みだと思います。製品をつくるだけでなく、そのもととなる原料も枯渇しない地盤があるメーカーは珍しい。新たな研究の種がたくさんある会社だと思いました。

■王子HDの働きやすさ
 ──王子HDでは働きやすさを感じますか。
 すごく感じています。私は研究職ですので、研究したことを論文や特許にしたり、学会に発表したりするチャンスももらえて、しかも成果として認めてもらえます。

世の中にないものをつくる「王子精神」の最前線にいる

■王子HDで働くやりがい
 ──王子HDで働くやりがいを教えてください。
 チーム全体でバイオのモノづくりに突き進んでいるところにやりがいを感じています。学生時代は1人で研究することが多いですが、やっぱりチーム全体で、数十人で一緒に目標に向かって進んでいくのは、すごく充実感があります。
 ラボの研究にとどまらず、それをパイロットや実用化の実生産につなげていくというところも、大学の研究との違いですね。世の中にないものをつくり続けるのは、王子精神そのもので、ワクワクします。

 ──これからの目標は。
 先ほども述べたように、2028年度のポリ乳酸製造パイロット設備の導入に向けて尽力したいです。

 ──そのためにご自身では何をしていこうと思っていますか。
 日々、仕事に追われていますが、前向きに楽しみたいなと思っています。パイロット設備の導入についても新しいことを学びながら進めていくことが多いので、好奇心を持ってやりたいなと。
 プレッシャーもありますが、そこも楽しみたいです。パルプと紙をつくってきた会社が、いまこうして新しいチャレンジをしています。その最前線を走らせてもらっているので、誇りをもって取り組んでいきたいと思っています。

(写真・大嶋千尋)

SDGsでメッセージ!

 1920年代に社長を務めていた藤原銀次郎が「木を使うものには木を植える義務がある」と説いており、王子グループにはそのような社風が古くから根付いています。 私もそのような理念や社風に共感し、会社を選びました。学生のみなさんにも、これから就活をしていく中で、会社に共感できるポイントを見つけていただき、就活を進めてもらいたいと思っています。
学生時代の経験にすべて価値があると思いますし、海外に行って、日本との文化の違いや環境意識の違いを肌で感じたり、全力で遊んだり、全力で研究やゼミに取り組んだり、すべてのことに価値があると思っています。 これからも学生の皆さんにはチャレンジを続けてもらいたいですし、私自身も研究を通じてチャレンジを続けていきたいと思っています。

王子ホールディングス株式会社

【製紙業】

 王子グループは、祖業である紙にとどまらず、バイオエタノールや環境に配慮したサステナブルパッケージといった木質バイオマスビジネスを次世代の中核ビジネスとし、さらなる成長と進化を目指しています。  事業の根幹である森林を健全に育て、再生可能な森林資源を生産すると同時に、生物多様性の保全や水源涵養、CO₂の吸収・固定、土壌形成といった森林の持つ多面的機能の最大化を図っています。