一色清の世の中ウオッチ 略歴

2013年10月03日

社会貢献の志 「品格のある会社」が生き残る (第16回)

福島で盛り上がった「公益資本主義」の議論

 「人は何のために生きるのか」なんていう根源的な問いについて、考えたことはありますか。時間と体力と感受性がたっぷりある若いうちに、こんな哲学的な悩みを抱えることは結構あるのではないでしょうか。私もそんな時期がありました。答えは見つからないのですが、ものごとの本質について考えたことは無駄ではなかったような気がします。大人としての軸を作ることにつながる気がします。

 最近、「会社は何のためにあるのか」といったテーマの議論を聞きました。9月末、福島市で開かれた「ふくしま会議2013」での議論です。「ふくしま会議」は大震災のあった2011年の秋に「福島の復興のために福島の声を福島から発信しよう」という趣旨で開かれ、今年で3回目になります。今回、私が聞いたセッションは、「未来セッション」と題して「福島を最も社会起業家が生まれる街にしたい」ということについて議論しようというものでしたが、議論は「そもそも今の会社のあり方が間違っている」という「根源的」なやりとりになりました。

 議論をリードしたのは、基調講演をしたベンチャーキャピタリストの原丈人さんでした。原さんは、シリコンバレーでベンチャービジネスを成功させた後、ベンチャービジネスにお金を貸すベンチャーキャピタルを運営してきた国際的ビジネスマンです。日本政府によばれて意見を聞かれることも多い人です。原さんは今のアメリカ型資本主義を激しく批判します。アメリカ型資本主義は株主資本主義のことで、「会社は株主のためにある」という考え方です。この考え方は、利益は株主に分配するもので、会社はせっかちな株主のために目先の利益を最大にすることに力を注ぐことになります。

 原さんが主張するのは、「会社は、経営者、従業員、仕入れ先、顧客、株主、地域社会、環境、地球全体のためにある」という考え方です。「公益資本主義」と名付けています。会社がもうけた分は、こうした関係者全部に還元するべきで、「社会に貢献することが会社の目的でないといけない」と言います。
 かつて近江商人の心得に、「三方よし」という考え方がありました。「売り手よし、買い手よし、世間よし」、つまり、会社もお客さんも満足し、社会にも貢献しないといけないという意味です。日本の会社は、もともとどちらかというと「公益資本主義」でやっていたのです。それが、ここ20年くらい、日本の会社も目先の利益を追うアメリカ型になってきています。原さんが嘆くのもよく分かります。

 原さんの基調講演に続き、福島のパン屋さんである銀嶺食品工業会長の大橋雄二さんが、「健康という軸で福島に新しいビジネスを立ち上げようと、色んな起業家が集まって準備を始めている」と報告しました。また、今年5月に、福島の子どもたちに運動と教育の機会を提供する会社「プレイノベーション」を立ち上げた26歳の菅家元志さんは、「子どもたちの運動不足は、福島だけでなく日本全体、あるいは世界の問題でもあると思うので、それをビジネスとして解決していきたい」と話しました。二人とも、福島の課題を解決したいという社会貢献の強い志をビジネスと両立させたいという意気込みを持っていました。

 公益資本主義を「きれいごとだ」と思う人はいるでしょう。確かに会社はお金を儲けないと続きません。ただ、お金を儲けることだけが目的の会社は、長い目で見れば、続かないことが多いように思います。社会との摩擦が大きくなったり、社員の士気が落ちたり、優秀な人材が集まらなくなったりして凋落していった「それらしき会社」をたくさん見てきました。

 逆に社会に貢献するという志を持った会社は、長い目で見れば社会に支えられて時代の荒波を乗り越えられる場合が多いように思います。いわば「品格のある会社」が生き残るということです。原さんは、「20年後にはすべての私企業が社会貢献型企業になっている」と言います。私はそこまで楽観的にはなれませんが、方向性については同感です。
 会社選びの際には、そうした社会貢献の志も見てはどうでしょう。会社のホームページを見たり、先輩訪問したりすれば、ある程度分かると思います。