一色清の世の中ウオッチ 略歴

2013年09月26日

LCCの先物買いも悪くない (第15回)

わがふるさと愛媛への往復1万円割れに感動した夜

 世の中の変化に気づかず、ある時ハッとすることがあります。
 私のふるさと愛媛県松山市から友人が上京してきたというので、東京・新橋にある愛媛県と香川県合同アンテナショップ2階の居酒屋で会いました。友人は開口一番、「今回の旅は安上がりなので、たっぷり飲めるぞ」と言います。どういうことかというと、格安航空会社(LCC=ロー・コスト・キャリア)の「ジェットスター」を使って往復するので、これまでの大手航空会社を利用していた時より何万円も旅費が安くなったのだそうです。

 ジェットスターはオーストラリアのカンタス航空の子会社で、日本では、カンタス航空と日本航空、三菱商事の3社が共同出資してジェットスター・ジャパンを設立して、昨年7月に就航しました。成田空港と松山空港を結ぶ路線は、今年6月に開設されました。料金は、予約の時期や曜日などによって違いますが、一番安いチケットは片道4590円です。友人は、往復とも4590円がとれたそうで、往復で航空機代は9180円です。全日空や日本航空なら、早割などを利用しても片道で1万数千円から2万円かかるのが普通ですので、2,3万円は安くなることになります。

 もちろん不便もあります。空港は成田ですので、羽田に比べて遠くなる人が多いでしょう。しかも、便数が一日2~3便と少なく、午前中は成田空港発8時5分だったりします。(時期によって変わります)。でも友人は、「空港近辺のホテルは朝早く出発する便のために安い宿泊料を設定している。ホテル代とあわせてもずっと安いから前泊すればいい」と言います。彼が予約していた成田ビューホテルは午前6時半までにチェックアウトすれば一泊3000円だそうで、確かに、前泊しても安上がりです。

 これまで無料だと思っていたサービスが有料であることにも気をつけないといけません。座席を指定すれば有料です。飲み物や食べ物も有料です。機内持ち込みしない荷物は有料です。ただ、1時間から2時間くらいの国内の旅で、こうしたものが有料か無料かはたいしたことではないように私は思います。
 リスクと言えば、もっとも安い料金の場合、予約の変更ができないことです。まあこれは、確率の問題として利用者が割り切るしかありません。

 少々の不便やなじみのなさはありますが、これだけの料金差は魅力だと思います。私の母親は松山で一人暮らしをしています。時々顔を見に帰りたいと思っていますが、家族4人で往復すると15万円くらいの航空運賃を覚悟しないといけませんでした。ジェットスターなら、帰る回数を増やせると思います。世の中の変化を教えてくれた友人に感謝です。

 LCCは、ちょっとしたイノベーション(新たな価値の創造)だと思います。飛行機が庶民の足になった時代を見据え、飛行機はA地点からB地点への移動手段に過ぎないという位置づけをはっきりさせました。移動手段に過ぎないのなら、快適性にコストをかけるのではなく、料金を安くすることに力を入れるというのは、分かりやすいポリシーです。

 LCC業界の名物経営者であるオリアリー会長(アイルランドのライアンエアー)は、人を驚かせるコスト削減案を時々、打ち上げます。「立ち乗りを考えたい」「トイレを有料化したい」「荷物は航空機まで乗客に運んでもらう」「パイロットは一人でいい」などなど。いずれも実現していませんので、話題作りの感じがしますが、常識に挑戦する発想は見習うべきところがあると思います。

 今の政権の合言葉は「デフレからの脱却」です。LCCはそんな脱デフレ時代の敵だと思う人もいるかもしれませんが、私はそうは思いません。私が帰省する回数をもっと増やそうと思ったように、これまでの料金なら移動しなかった人が移動するという新しい需要を生み出すからです。

 国内線に本格的なLCCが飛ぶようになって、1年余。ジェットスターの他にも、ピーチ・アビエーションとエア・アジア(12月ごろからはバニラ・エアに)が飛んでいます。LCCには分類されていませんが、スカイマークやエア・ドゥといった料金安めの国内航空会社もあります。空の旅の選択肢は、私などが気づかないうちに、ずいぶん増えています。
 就職戦線では全日空や日本航空は狭き門です。航空会社に就職したい人だったら、将来性も考えてLCCなどを先物買いするのも面白いと私は思います。

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