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2025年07月03日

ネットによってサバイバル時代に突入した証券業界【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 政府の「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、証券業界には資金が流れ込み、業績の追い風となっています。2024年から始まった新NISAは、株の売買で利益が出ても税金がかからないうえ、旧NISAに比べて使い勝手もよくなりました。それにより新しい顧客が増え、市場が広がっているのです。その中でも、新しい顧客を多く獲得しているのは売買手数料無料のネット証券です。対面営業を基本としていた従来の大手もネット対応に力を入れるようになっていますが、ネット取引の拡大につれて危うさも表面化しています。証券口座が不正アクセスで乗っ取られ、株式などが勝手に売買される被害が拡大しているのです。金融庁は事態を重く見て、証券会社に指紋認証や顔認証などの強いセキュリティー対策を必須化するなどしたうえで、不十分なら業務改善命令を出すことも検討しています。顧客の争奪戦を勝ち抜くためにもネットの利便性と安全性の両方を兼ね備えることは絶対条件となっており、証券業界の生き残りはネット対応に左右される時代に入りました。
(写真はiStock)

本社は東京の会社が多い

 証券会社の集まりである日本証券業協会によると、2025年6月時点で協会に加盟している会社数は264社です。東京に本社がある会社が202社と多く、名古屋が18社、大阪が17社などとなっています。このほか、福岡や札幌などに本社を置く証券会社もあります。証券会社が全国にあるのは、証券取引所が東京、名古屋、福岡、札幌と、少し前までは大阪にもあったためです。

大きく分けると対面型とネット型

 証券会社は大きく分けて、対面での取引を中心としている会社と、ネット取引に特化している会社のふたつのタイプがあります。対面取引が中心の会社では、野村證券大和証券三菱UFJモルガン・スタンレー証券SMBC日興証券みずほ証券などが大手です。対面型の証券会社は伝統のある会社が多く、顧客に会社や富裕層を抱えていることが特徴です。海外の株式や債券の売買も仲介するなど、国際的な仕事もあります。人と人とがコミュニケーションをとりながらおこなう仕事がいろいろとあるわけです。
(写真・株価を表示する証券会社のボード=2025年6月27日/朝日新聞社)

口座数競うSBI証券と楽天証券

 ネット取引に特化している会社としては、 SBI証券楽天証券松井証券、マネックス証券、三菱UFJeスマート証券などがあります。このうち現時点では、SBI証券と楽天証券が2強とされています。楽天証券が2025年1月に1200万口座を超えたと発表すると、SBI証券は2カ月後の2025年3月に1400万口座突破を打ち上げるなど、両社が獲得口座数を競っています。口座数を増やすことで、株の売買以外の事業で収益につなげるビジネスモデル。売買手数料無料を売りにして、新NISAを始める若者層を取り込んでいます。
(写真・ネット証券のイベントでは新NISA向けの投資信託などをPRする資産運用会社のブースが並ぶ=2024年7月7日/朝日新聞社)

携帯、証券、銀行のグループ化

 携帯電話会社が証券会社を設立したり、既存の証券会社を子会社化したりする動きがあるのも、ネット証券拡大の流れにあわせたものです。NTTドコモはマネックス証券を子会社化し、ソフトバンクはPayPay証券を、楽天モバイルは楽天証券を設立しました。楽天証券は、みずほフィナンシャルグループと資本提携して連携を強めています。また、KDDIはauカブコム証券を設立しましたが、2025年1月にauカブコム証券は三菱UFJフィナンシャルグループの完全子会社となり、2月に「三菱UFJ eスマート証券」に名称変更。一方のKDDIはauじぶん銀行を完全子会社としました。携帯電話会社と証券会社と銀行がグループとなる動きの一環です。
(図版は朝日新聞社)

不正アクセスの被害は対面型でも

 目下の業界の最大の課題は不正アクセス問題です。証券会社をかたったフィッシングメールによりログインIDやパスワードを盗み取り、口座を乗っ取るという手口で、乗っ取られた口座の株式が無断で売られ、利益が抜き取られる被害が多発しているのです。被害にあう口座はネット証券のものが多くなっていますが、対面型証券でも被害は出ています。顧客に過失のない場合は、証券会社の負担で元に戻す対応をとることになりそうです。今後の対策としては、IDやパスワードだけでなく二つ以上の手段を用いる「多要素認証」を取り入れることがあげられます。

資本主義を支える業界

 証券会社はお金を必要とする会社と投資家をつなぐことがおもな仕事です。そのために投資家への営業をしたり、資産運用の相談に乗ったりします。また、証券取引所に上場したい会社があれば、上場の手続きの手伝いをします。自前の資金を株や債券で運用する仕事もあります。また、会社の売買(M&A)の仲介をする仕事もあります。さらに経済や企業の動向をリサーチする仕事もあります。そうしたすべてが顧客である会社と投資家がお金を増やす手伝いをすることにあり、そのため資本主義を支える業界と言われます。

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