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2025年05月22日

利上げで好業績の銀行業界、ネット企業との提携に動く【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 銀行が好決算に沸いています。三菱UFJフィナンシャルグループ(FG)、三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほフィナンシャルグループ(FG)の3メガバンクグループの2025年3月期決算では、最終的なもうけを示す純利益が3社とも過去最高になりました。2026年3月期も最高益を見込んでいます。地方銀行も、上場する73行・グループの純利益の合計が過去最高となりました。

 最高益となったおもな理由は、日本銀行がおこなっている利上げによって貸出金利と預金金利の差である「利ざや」が拡大したことによるものです。ただ、古くからある銀行にとっては、キャッシュレス決済が浸透していくことで、ネット銀行に顧客を奪われることが脅威となっています。そのため、ネット企業との提携やネット銀行を設立して、キャッシュレス決済に対応することが目下の課題になっています。
(写真・3メガバンクの看板=東京都内/写真、図版はすべて朝日新聞社)

メガバンクが規模で抜きんでる

 今の日本の銀行業界は3つのメガバンクが中心となっています。20世紀終盤のバブル経済でできた不良債権に多くの銀行が苦しみ、大銀行同士が合併して規模も影響力も抜きんでたメガバンクが誕生しました。この3つに加えて、信託銀行を中心とする三井住友トラストグループとりそなホールディングスをあわせて5大銀行グループという呼び方もあります。金融庁によれば、このほかに銀行免許を持つ銀行は信託銀行で13行、ネット銀行などが18行、地方銀行第二地方銀行が97行、外国銀行の支店が54行あります。

金利が上がるともうかる仕組み

 銀行の仕事をひとことで表すと「金融の仲介」です。お金を集めて、お金を必要とするところへ貸すのが仕事です。お金を集めるために預金金利をつけ、お金を貸し出すときには貸出金利をつけて回収するのです。預金金利より貸出金利を高くし、その差である利ザヤが銀行の主な収益になります。金利の目安を決めるのは、中央銀行である日本銀行です。物価が上がらない状態が長く続いたため、日銀は景気をよくしようと金利をゼロ近辺に維持してきました。しかし最近になって物価が上がってきたため、景気が過熱しないように金利を上げ始めています。金利が上がると、預金金利も貸出金利も上がりますが、貸出金利の上がり方が預金金利の上がり方より大きくなるため、金利が上がれば銀行はもうかるのがふつうです。金利水準はまだ低いため、今後も金利は上がる傾向にあるとみられています。しかし、アメリカのトランプ関税が与える経済への悪影響が大きいと、金利を下げる動きが出ることも考えられ、先行きはまだ不透明でもあります。
(写真・日本銀行本店=2025年5月)

キャッシュレス決済への戦略が重要に

 今、メガバンクにとって重要なのはネットやカードを使ったキャッシュレス決済への戦略です。ネット銀行利用に流れる若者の取り込みや、ポイントを通じた経済圏づくりをするためです。最近では2024年11月に、みずほFGが楽天グループ傘下の楽天カードに約1600億円を出資する資本業務提携を結びました。楽天カードは楽天ポイントを売りに顧客を自社サービスに囲い込む楽天経済圏の中心になっています。ただ、個人のクレジットカードとしては成長に限界があり、みずほFGと提携することでクレジットカード事業を強化できると期待しています。みずほFGもクレジットカード事業は「弱み」となっていましたが、「強み」に変えられると考えました。2025年5月には、三井住友FG傘下の三井住友カードとソフトバンクがデジタル分野で包括的な業務提携を結びました。三井住友FGの総合金融サービス「Olive(オリーブ)」とソフトバンクによるPayPayのスマートフォン決済とを連携させるのです。この業務提携により、キャッシュレス決済のナンバーワン連合ができたと意気込んでいます。三菱UFJFGはインターネット専業で完全子会社の新銀行を2026年度中に立ち上げることにしており、若者の取り込みを狙っています。
(写真・記者会見した(左から)PayPayの中山一郎社長、ソフトバンクの宮川潤一社長、三井住友フィナンシャルグループの中島達社長、三井住友カードの大西幸彦社長=2025年5月15日)

地方銀行は合従連衡が進む

 地方銀行は、人口減少などで経営環境に厳しさが増しており、経営統合やグループ化の動きが進んでいます。2025年4月には、第四北越銀行を傘下に持つ第四北越フィナンシャルグループ(新潟市)と群馬銀行(前橋市)が2027年4月をめどに経営統合すると発表しました。これにより全国5位の地銀グループが誕生します。すでに、福岡銀行や十八親和銀行などがグループとなったふくおかフィナンシャルグループ、横浜銀行や東日本銀行などがグループ化したコンコルディア・フィナンシャルグループなどの大きな地方銀行グループができています。さらに千葉銀行千葉興業銀行の株式を20%以上取得したり、静岡銀行八十二銀行山梨中央銀行の3行が包括業務提携を結んだりするなど、地方銀行の合従連衡はこれからも進むとみられています。

やる気と成果が求められる時代

 社会の人手不足は銀行にも及んでいます。三井住友銀行は2026年春に入社する大卒の初任給を、現在の25万5千円から30万円に引き上げます。また2026年1月以降、年齢が高いほど給与が上がる年功賃金を廃止し、役割や成果を重視した仕組みに変えます。20代でも貢献次第で役割が重くなり、年収2千万円を超えるケースもありうるそうです。三菱UFJ銀行は2025年度中に行員の賃金を実質9%程度引き上げることにしました。2026年春に入行する大学新卒の初任給も30万円にします。優秀な人材を確保することや仕事の成果にみあった賃金とすることを狙っています。銀行の仕事といえば、固くて安定しているというイメージがあったと思いますが、今はやる気と成果が求められる時代になっています。

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