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2025年08月21日

トランプ関税、EV、自動運転など課題山積の自動車業界【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 アメリカのトランプ大統領による関税政策が、日本の自動車業界を困惑させています。今春まで2.5%だった関税率が4月から27.5%になり、日米交渉の結果、15%になることになりました。この関税率がいつから適用されるかはまだ決まっていません。

 日本の自動車メーカーの最大の輸出先はアメリカです。関税が上がるということは、アメリカでの販売コストが上がることにつながり、自動車メーカーの業績にはマイナスの影響が出ます。日本の自動車メーカー大手7社の営業利益(2026年3月期)に与えるマイナス影響は、合計で2兆6千億円を超える見通しになり、メーカー各社は生産体制や販売体制の見直しに迫られています。加えて、世界の自動車業界は地球環境問題への対応としての電気自動車(EV)化や、人工知能(AI)の発達などによる自動運転化という大きな課題もあります。こうした大きな変化にどう対応していくのか、自動車メーカーは正念場を迎えています。
(写真・大黒ふ頭に並べられた輸出用の自動車=2025年4月8日、横浜市鶴見区/写真、図版はすべて朝日新聞社)

乗用車メーカー7社、トラックメーカー4社

 日本の自動車メーカーは大きく乗用車メーカーとトラックメーカーに分類できます。乗用車メーカーの大手は、売上高の多い順にトヨタ自動車ホンダ日産自動車スズキマツダスバル三菱自動車の7社があります。軽自動車メーカーのダイハツ工業はトヨタ自動車の完全子会社なので、大手7社という言葉を使う時には入っていません。トラックメーカーは、いすゞ自動車日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの4社があります。このうち日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは2026年4月に経営統合することになっています。UDトラックスはいすゞグループに入っています。

トヨタの売上高はとびぬけて大きい

 トヨタ自動車は世界一の販売台数を誇る巨大メーカーです。48兆円(2025年3月期)の売上高は日本のメーカーの中でとびぬけて大きい金額です。ホンダは二輪車メーカーから四輪車メーカーに進出した会社で、二輪車メーカーとしては今も世界最大の販売台数となっています。また、飛行機やロケットも製造しています。日産自動車はかつてはトヨタ自動車と並んで二大メーカーといわれた名門ですが、経営の失敗によりトヨタに大きく引き離され、今は2万人の人員削減や工場閉鎖などのリストラにとりかかっています。スズキは軽自動車を中心とするメーカーで、海外ではインドに強いのが特徴です。マツダは広島に本社を置く会社で、エンジン技術などが評価されています。スバルは四輪駆動車に強みを持っています。マツダとスバルは、ともにアメリカ市場の比重が大きい会社です。三菱自動車は日産自動車と提携していて、EVに積極的に取り組んでいます。
(写真・トヨタ自動車の社旗=2025年2月17日、愛知県豊田市)

日本が相対的に有利になる可能性も

 トランプ関税の影響は各社とも大きいとみられます。トヨタ自動車は1兆4千億円、ホンダは4500億円、日産自動車は3000億円の影響があるとみていて、各社とも2026年3月期の決算では大きな減益となるという見通しを示しています。ただ、アメリカ市場でのライバルであるドイツや韓国のメーカーも同じように高い関税が課されるので、対応次第では日本メーカーが相対的に有利になる可能性があるという見方もあります。日本メーカーは、アメリカでの現地生産を強化したり、インドや東南アジアなど伸びゆく市場での販売に力を入れたりするといった対策にさっそく乗り出しています。

EV化も自動運転化もゆっくり進む

 EV化も業界の課題ですが、普及スピードは想定より遅くなっています。日本や欧米のメーカーはEVの欠点である航続距離の短さや充電時間の長さを完全には克服できず、今伸びているのは、ガソリンと電気の両方で走るハイブリッド車(HV)です。ただ、中国は国策としてEV普及を進め、いまこの分野で世界のトップを走っているという状況です。運転の自動化についても、普及スピードは想定より遅くなっていますが、アメリカや中国では自動運転タクシーが実用化されるなど、徐々に普及は進んでいます。EV化も自動運転化もいずれは広く普及するとみられ、各メーカーとも研究や開発を進めています。
(写真・中国・武漢市内を走る自動運転タクシー。一般の車やバイクと並走していた=2024年12月24日)

「ものづくり日本」の最後の砦

 日本は「ものづくり」が得意な国とされ、かつては家電、半導体、造船などいくつもの分野で日本メーカーが世界の頂点に立っていました。しかし、韓国、中国、台湾、アメリカなどに追い越されていき、今や自動車が「ものづくり日本」の最後の砦になっているといってもいいでしょう。自動車市場は世界に広がっており、まだ十分に普及していない国も多く、市場はさらに大きくなることは確実です。こうしたことから、日本の自動車メーカーは世界市場を相手に仕事をしています。人口減の国内市場はこれから伸びそうにないことを考えれば、今後はより世界市場が重要になってくると思われます。自動車メーカーを志望する人は世界を相手にする仕事ということをしっかりと自覚して、国際性を身につけてほしいと思います。

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