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2024年08月08日

本気のEVシフトに動き出した自動車業界【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 日本の自動車業界は性能のいいガソリンエンジン車を生産し、世界トップクラスの自動車生産大国を築いてきました。ただ、地球温暖化が進む中、温室効果ガスである二酸化炭素を排出するガソリンエンジン車から二酸化炭素を排出しない電気自動車(EV)へのシフトが求められる時代になっています。その流れにいち早く乗ったのが中国で、EVの生産台数で世界をリードしています。アメリカやヨーロッパの自動車メーカーも流れに乗ってEVシフトを進めています。

 日本はやや出遅れていますが、ここにきて出遅れを取り戻そうという動きが出ています。ホンダ日産自動車三菱自動車は8月1日、EVの研究や開発や生産で協業していくことを発表しました。トヨタ自動車はすでにスバルマツダスズキダイハツと資本提携しており、EVでの協業も進めています。日本のEV開発は3社連合とトヨタ連合のふたつに分かれて進んでいくことになります。このほか、自動車業界では自動運転の開発にもしのぎを削っています。世界の自動車メーカーは、EVと自動運転というふたつの大変化の真っただ中にいて、今後の優勝劣敗を決める正念場を迎えています。

自動車工業会に加入しているのは14社

 自動車メーカーの業界団体である日本自動車工業会(自工会)には、14社のメーカーが加入しています。このうち乗用車を事業の中心としているのは、業界トップのトヨタ自動車をはじめ日産自動車、ホンダ、マツダ、スバル、三菱自動車、スズキ、ダイハツの8社です。スズキとダイハツは軽自動車が中心です。トラックを中心とするのは、いすゞ自動車日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの4社です。二輪車(オートバイ)を中心とするのは、カワサキモータースヤマハ発動機の2社です。二輪車はほかにホンダとスズキも生産しています。
(写真・会見の冒頭に握手する日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長=2024年8月1日/写真はすべて朝日新聞社)

海外生産が国内生産の2倍以上

 自動車産業は本体の生産だけでなく、販売や整備や輸送など幅広い関連産業があります。こうした関連産業も含めた就業者数は日本の全就業人口の約8%を占めています(自工会ウェブサイトより)。製造品出荷額は全製造業の製造品出荷額の約17%、機械工業の約38%を占め(データはいずれも2021年)、まさに日本を代表する産業だといえます。また、輸出も多く、2022年の自動車の輸出金額は17兆3千億円に上っています。海外での現地生産も多く、2022年に日本メーカーが4輪車を海外現地生産した台数は1696万台と、国内の生産台数の2倍以上になっています。海外メーカーと提携することも多く、自動車産業は国境を感じさせない地球規模の産業になっています。

遅ればせながらトヨタもEVに本気

 自動車メーカーが直面している最大の課題はEVへの対応です。EV開発には巨額の費用や新しい知見が必要で、一社での開発には限界があります。そのため、ホンダはソニーと提携してEV開発を進めていますが、それだけでは十分でないと考えて日産自動車と三菱自動車の3社連合をつくりました。日産自動車は「リーフ」というEVで、三菱自動車は「アイミーブ」というEVで先行した実績を持ちます。両社が持っているEVの生産ノウハウとホンダの開発力を結集しようという狙いです。トヨタ自動車はガソリンエンジンと電池・モーターを組み合わせたハイブリッド車や水素を使う燃料電池車で先行したことから、EVへの取り組みが遅れました。しかしここにきて本気になってきたようです。アメリカにEVの生産拠点を2か所つくっているほか、電池の生産拠点も建設し、EV生産を急いでいます。

(写真・2023年のジャパンモビリティーショーでトヨタ自動車が出展した電気自動車には多くのメディアが関心を寄せた=2023年10月25日)

日本のEVの販売台数はまだ数パーセント

 ただ、EVは中国が先行し、ヨーロッパやアメリカが続いています。国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年に販売される新車は中国では2台に1台が、ヨーロッパでは4台に1台がEVあるいはEVに近いプラグインハイブリッド(PHV)になると予想されています。また、EVメーカーとしては中国のBYDとアメリカのテスラが世界の2強となっています。一方、日本国内のEVの販売台数はまだ全新車販売台数の数%にすぎません。日本では価格が高いとか1回の充電で走ることができる距離が短いといったEVのマイナスイメージが消えず、充電設備が普及しないといった悪循環になっています。

アメリカや中国では無人タクシーが走る

 もうひとつの大変化として注目される自動運転でも、日本はアメリカや中国にリードされています。アメリカや中国の一部では、すでに無人タクシーが走っています。タクシーに乗りたい人がアプリで呼べばやってきて、後部座席にある乗車開始ボタンを押すと目的地に向けて走り出す仕組みです。日本でも地方のバス路線で無人バスの運行が始まっていますが、まだごくわずかです。ホンダがアメリカの無人タクシー運航会社と提携して2026年に東京で無人タクシーの運行を始めると発表しています。今後は高速道路でのトラックや地方のバスから無人運転が広がり、都市部でのタクシーが続くようになりそうです。ただ、事故を起こした際の責任の範囲などが明確になっておらず、無人のクルマが一般道を走り回るまでにはまだかなりの時間がかかりそうです。

(写真・サンフランシスコの無人タクシー/2023年)

志望企業は先を見て手を打っているかを確認

 自動車業界には日本の製造業を代表する大企業がそろっています。現時点では、どこも業績は好調で、給料などの待遇はいいはずです。また、魅力的な自動車をつくったり売ったりする仕事はクルマ好きでなくても喜びのある仕事だと思います。ただ、大きな変化の時代を迎え、将来がやや不透明になっている面があります。自動車業界を志望する人は、志望会社が変化に対応できるように先を見て手を打っているかどうかを確かめるようにしてください。

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