日立製作所は家庭用エアコンの開発、製造から撤退すると発表しました。日立は家電などの製造業から社会インフラやIT事業を中核に据える構造改革を進めていて、今回の撤退もその一環とみられています。パナソニックホールディングス(HD)は子会社が手がけるプロジェクター事業をオリックスに売却する方針を固めています。こちらも全社的な事業領域の見直しの一環だとしています。
日本の電機メーカーは、発電機、エレベーターなどの大型製品を製造する重電メーカーと家庭や個人が使う電気製品を製造する家電・映像音響メーカーに分かれていましたが、最近は家電などの分野を縮小し、かわりに半導体、電池、ゲーム、システムなどの分野に進出する動きが目立っています。日本の電機メーカーは20世紀後半には世界の先頭を走っていましたが、社会のIT化に出遅れたり、中国などの海外勢との価格競争に敗れたりすることで、事業構造の変革を迫られてきました。変革はすでにかなり進んでいて、今や電機業界とひとくくりにできない業界となっています。今後も時代の流れをいち早くつかんで変化したところが勝ち残る時代は続くものと思われます。
(写真・日立製作所のロゴ/写真はすべて朝日新聞社)
日本を代表する大企業がずらり
電機メーカーといわれている会社には、日本を代表する大企業が多く含まれています。2024年3月期の売上高で見ると、ソニーグループがもっとも大きく、13兆207億円です。次いで日立製作所が9兆7287億円、パナソニックホールディングス(HD)が8兆4964億円、三菱電機が5兆2579億円、富士通が3兆7560億円、日本電気(NEC)が3兆4772億円などとなっています。このうちソニーグループとパナソニックHDはかつて家電・映像音響メーカーといわれ、日立製作所と三菱電機は重電メーカー、富士通と日本電気は情報・通信機器メーカーと呼ばれていました。
ソニーグループは今や独自のジャンル
各社とも事業内容は時代につれて変化していますが、もっとも大きく変わっているのはソニーグループといえます。ソニーグループの2024年3月期の売り上げの内訳をみると、ゲーム&ネットワークサービスが32%を占め、次いで映像や音響に関するエンタテインメント・テクノロジー&サービスが18.5%、金融が13.5%、音楽が12.3%、イメージング・センシングソリューションが11.6%、映画が11.4%などとなっています。いわゆる電機メーカーのイメージはすでになく、独自のジャンルの会社になっています。最近のソニーグループの成長率は高く、早めの成長分野への進出が成功しているといえます。
(写真・ソニーグループ本社)
EV関連や半導体事業に力を入れる
今後、各社が力を入れようとしている分野のひとつは自動車分野です。電気自動車(EV)や自動運転の流れが強まっており、電機メーカーが参入できる分野がたくさんあるとみられているためです。たとえば、電池です。電気自動車が主流になると、リチウムイオン電池や全固体電池などの需要が飛躍的に高まることが考えられ、日本メーカーで世界的競争力のあるパナソニックHDが力を入れています。ソニーグループはホンダと共同でEVそのものの開発を進めています。自動車分野以外では、生成AIの急速な普及などで半導体需要が大きくなることを見越し、ソニーグループは熊本県で台湾積体電路製造(TSMC)と共同で半導体の製造をおこなうほか、北海道千歳市で国家プロジェクトとして建設される半導体製造工場ラピダスにも参加します。日立製作所や三菱電機は原子力発電所の増設や洋上風力発電などの社会インフラ事業を狙っています。また、三菱電機は予算額が大きく増える防衛産業の拡大も見込んでいます。
(写真・電気自動車での提携を発表するソニーグループの吉田憲一郎社長(左、肩書は当時)とホンダの三部敏宏社長=2022年3月)
国際化が進んでいるのが特徴
電機メーカーは国際化が進んでいるのも特徴です。市場は全世界にあり、製造も販売も世界各地でおこなっているためです。ソニーグループの海外売上高比率は約7割、日立製作所は約6割、パナソニックと三菱電機は約5割、富士通と日本電気は約3割となっています。このため、入社すると海外拠点に赴任する可能性も高く、英語がある程度できることや海外生活を楽しむことができることなどは資質として必要になってきます。
理系が多いため女性の管理職比率低い
女性の役員や管理職がまだ少ない業界との指摘もあります。中でも、パナソニックは6月の株主総会で株主から「ひな壇にいる人の中に女性が非常に少ない。(一定割合を割り当てる)クオータ制を取り入れてほしい」との要望が出されました。パナソニックの取締役・執行役員19人のうち女性は4人です。管理職における女性の割合は6.1%(2023年調査)で、社員の男女比は8:2です。電機メーカーが採用する人には理系が多く、採用自体が男性に偏りがちです。ただ、時代の要請は女性活躍なので、女性の昇進や採用拡大に力を入れることが迫られています。
(写真・パナソニックHDの株主総会で質問に答える楠見雄規社長=2024年6月)
有望分野への挑戦で成長余地がある
電機メーカーは時代の変化を見越しながら世界のライバル企業を相手にしのぎを削っています。今後、生成AIの発達、バーチャルリアリティー(VR)技術の活用、画期的な電池の開発、宇宙ビジネス、洋上風力発電など再生可能エネルギーの開発、映画や音楽などコンテンツ産業の育成、などが有望分野で、そこには電機メーカーが関わっていくはずです。競争の激しい世界ですが、かつては日本人が得意とされていた分野ではあります。成長余地はまだまだありますので、理系の人だけでなく、時代の先を読むことのできる文系の人も挑戦してみてはどうでしょうか。
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