日本の家電メーカー、バルミューダが12月16日、東証マザーズに上場しました。買い注文が集中し、初日はストップ高で終わりました。バルミューダは2003年に創業したベンチャー企業ですが、スチーム機能のついた高級トースターなどがヒットし、感度の高い消費者に人気になっています。日本の家電メーカーは20世紀後半、世界を制覇したと言っていいくらい世界でよく売れました。しかし、その後、韓国、台湾、中国などの東アジア勢に追いつかれ、アメリカやヨーロッパのメーカーも特徴のある製品で盛り返し、日本の家電メーカーは徐々に市場を失ってきました。ただ、最近は、従来の家電メーカーにない品質とデザインを持つ新しい企業が国内で頭角を現してきています。業界の新陳代謝が始まりつつあるようです。
(写真は、バルミューダのトースターと寺尾玄社長=2020年12月16日、東京証券取引所)
雨にヒントを得たトースターが大ヒット
バルミューダは、元ミュージシャンの寺尾玄社長が2003年に設立した会社です。2010年に羽根を独自の二重構造にした扇風機がヒットしました。ほかにない形や構造で、性能の良さとかっこよさがうけ、3万円以上という扇風機としては高めの値段でも累計50万台以上を売り上げました。さらに2015年に出したトースターが100万台を超す大ヒット商品になりました。土砂降りの日のキャンプの時、炭火でパンを焼くと外はカリッとして中は軟らかい焼き上がりとなりました。トーストがどうしてこんなにおいしくなるのだろうと考え、たどり着いたのが適当な水分でした。このトースターは焼くときに少量の水を入れるようになっています。デザインも焼き窯をイメージしました。値段は2万円以上するのですが、長く売れ続けています。バルミューダの売上高は108億円(2019年度)、従業員は103人とまだ規模は小さいのですが、市場では将来性を見込んだ高い株価になっています。
(写真は、そよ風を再現した扇風機「グリーンファン」と寺尾社長=2016年5月、東京都武蔵野市のバルミューダ本社)
日本勢で10位内はパナソニックだけ
日本の家電メーカーは、20世紀後半には松下電器(現パナソニック)、日立製作所、東芝、ソニー、シャープ、三菱電機、三洋電機(現パナソニックの子会社)などがひしめきあい、テレビやオーディオでは世界市場の多くを日本製が占めるほどでした。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの白物家電も、日本製と言えば品質がいいとしてよく売れていました。しかし、今の世界の家電メーカーを売り上げ順に見ると、韓国のサムスン、中国のハイアールがトップ争いをし、日本勢で10位以内に入っているのはパナソニックだけのようです。シャープは台湾メーカーの傘下に入りましたし、東芝の家電部門は中国メーカーに売却されました。どこまでを家電部門とみるかは難しいので厳密には言えませんが、日本メーカーが世界市場で存在感を大きく落としているのは間違いありません。
(写真は、パナソニックの事業所=大阪府門真市)
アイリスオーヤマは家電に参入
こうした中、日本市場ではバルミューダ-以外にも活躍している新しい企業があります。たとえば、cado(カド-)は空気清浄機、加湿器、除湿器、ヘアドライヤーといった空気関係の家電メーカーとして伸びています。2011年創業の新しい会社ですが、「空気をデザインする」をキャッチフレーズに範囲を絞っておしゃれな製品を生み出しています。アメリカの新興メーカーも日本市場で存在感を出しています。高性能ワイヤレスヘッドフォン・イヤホンが主力製品「Beats」やアクションカメラメーカーの「Contour(コンツアー)」などがそれです。外国メーカーの家電が日本で有名になった例としては、ダイソンの掃除機があります。ダイソンは1993年にイギリスで創業されたメーカーで、紙パックのいらないサイクロン方式の掃除機を開発しました。1998年には日本に進出し、性能とデザイン性で、日本でトップクラスの人気商品になりました。ベンチャーとは言えませんが、業態を変えて伸びている日本の家電メーカーもあります。アイリスオーヤマは、もとはプラスチック製品を作る会社でしたが、2009年に家電に本格参入しました。今はテレビ、エアコン、洗濯機、掃除機、調理家電など幅広く家電製品をそろえ、値段の安さと独創的な発想で伸びています。船井電機は、かつては他社ブランドで売る電気製品を下請けとして作る(OEM)メーカーでした。つまり黒衣役だったのですが、FUNAIブランドのテレビなどの製品に力を入れています。価格競争力があるのが強みです。
(写真は、アイリスオーヤマが展開する液晶テレビ=2019年9月、東京都港区)
画期的、独創的、おしゃれ…可能性あり
かつて隆盛を誇った家電メーカーは、家電の比重を落とし、通信、自動車部品、住宅、再生可能エネルギー分野、ゲームなどに力を入れています。国内では家電はおおむね行き渡り、海外では値段の安い中国など東アジアのメーカーに勝てなくなっているからです。ただ、画期的だったり、独創的だったり、おしゃれだったりすると、家電もまだまだ売れる余地があります。家電ベンチャーの成功例などをみると、日本の家電市場をあきらめることはないと思わせます。家電に興味のある人は、大手メーカーだけでなくベンチャー組や新規参入組、外資系組などにも広げて、研究してみてはどうでしょうか。
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