日本の造船業界の再編が最終章に入りつつあります。業界トップの今治造船(愛媛県今治市)と業界2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市)が共同で船の設計や営業をする新会社を立ち上げました。国内の2強が手を組み、市場シェアで先を行く中国勢や韓国勢に対抗する狙いです。日本の造船業界は20世紀後半には世界でトップの地位を占めていましたが、安い価格で建造する韓国勢に抜かれ、その後さらに価格競争力のある中国勢にも抜かれました。その間、国内でも構造変化と再編が進みました。最盛期には三菱重工業など造船・重機メーカーと呼ばれる大手7社が業界を引っ張っていましたが、人件費の高い大手の競争力が徐々になくなり、今治造船のような造船専業メーカーが主導権を握るようになりました。今回1位と2位が手を組みましたが、日本の造船メーカーは今回の新会社を核にした「日の丸造船」に集まって、中韓に対抗するしか生き残る道はないのではないかという見方があります。一方で、別の見方もあります。地球温暖化問題によって船も二酸化炭素の排出を抑制しなければならなくなっています。技術力のある日本メーカーが画期的な技術を開発して二酸化炭素の排出をおさえることができれば、中韓に対抗できるという見方です。限りない縮小再編の道を歩むのか、技術力で生き返るのか、造船業界は正念場を迎えています。
(写真は、JMUのばら積み船=同社提供)
かつての大手はどこも縮小
日本の造船会社で建造量の最も大きいのは今治造船で、2位がJMUです。JMUはJFE(元日本鋼管)、日立造船、IHI(石川島播磨重工業)、住友重機械工業の4社の民間造船部門が一緒になってできた会社です。かつてはこの4社に加え、三菱重工業、川崎重工業、三井造船が業界の大手でしたが、三菱重工業は長崎造船所の香焼工場を国内造船3位の大島造船所に売ることにし、造船業を大幅に縮小する方向です。川崎重工業は国内ではガス運搬船に集中し、三井E&Sホールディングス(元三井造船)は国内での造船はやめることにしています。つまり今では、造船重機メーカーはどこも造船事業を縮小する方向で、勢いのあるのは今治造船、大島造船所、常石造船といった一部の造船専業メーカーだけです。
その中で今回、トップ2の今治造船とJMUが、船の設計や営業をする新会社「日本シップヤード(NSY)」を立ち上げました。今治が51%、JMUが49%を出資し、社員510人は両社から出向します。限られた人員を1社に集中させることで、タンカー、コンテナ船、鉄鉱石や穀物を運ぶばら積み船などの「商船」で環境規制に対応する新型船の設計などを効率よく進められるようにします。
(写真は、NSY設立の記者会見。右から今治造船の檜垣幸人社長、NSYの前田明徳社長、檜垣清志副社長、JMUの千葉光太郎社長=6日、東京都港区)
経営統合進める中国と韓国
一方、中国勢や韓国勢は日本より一足先に大手の合体を進めています。中国では2019年にトップの中国船舶工業集団と2位の中国船舶重工集団が経営統合しました。韓国でも現代重工業と大宇造船海洋が統合を決めています。造船はスケールメリットが重要です。大きい造船所ほど多くの受注をとることができ、費用を抑えて安く造ることもできます。こうしたスケールメリットと人件費の安さを生かして、2019年の商船建造量の世界シェアは中国が35%、韓国が32%、日本が24%となっています。日本政府は2018年、韓国が自国の造船企業に国際ルールに違反する過剰な公的支援を行っているとして世界貿易機関(WTO)に提訴し、協議が始まっています。日本造船工業会の斎藤保会長は昨年末の記者会見で「中国、韓国なみに(国に)支援してほしいという思いは、本当はある」と苦しい胸の内をもらしました。
(写真は、三菱重工・長崎造船所香焼工場=2020年3月17日、長崎市、朝日新聞社ヘリから)
技術革新で脱安値競争
一方で、環境問題への対応は造船業界でも課題になっています。多くの船は重油を燃やして動いていますので、たくさんの二酸化炭素を排出しています。国際海事機関(IMO)は2050年に国際海運分野からの温暖化ガスの排出量を2008年比で半減させる目標を掲げています。このため、造船にはさまざまな技術革新が必要になっています。燃料をアンモニア、水素、バイオディーゼルなどに変えて二酸化炭素を出さないようにするとか、太陽光パネルを甲板に敷き詰めて電気を作り蓄電池と組み合わせて燃料にするとか、デジタル技術で燃費効率をあげるなどの技術革新です。船については長い間、画期的な技術革新はなく、それが安値競争になった一因でもあります。技術革新を迫られれば、日本勢にもチャンスが生まれ、安値競争から抜け出せる可能性が出てきます。
(写真は、川崎重工が造った世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」=2019年12月11日)
グローバル時代に船は必要
今、造船業界は就職先としてはあまり人気がありません。衰退産業のイメージがあり、待遇や採用人数も成長産業に比べると劣りがちです。ただ、モノの動きがグローバルになればなるほど船は必要になります。実際、世界の船舶量は長い目で見ると右肩上がりです。日本のような成熟した国が造るものではなくなったと思われていますが、技術で勝負する時代になると再び戦える可能性が出てきます。
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