業界研究ニュース 略歴

2023年07月27日

脱炭素、自動運転、激変期に慎重に対応を進める日本の自動車業界【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 日産自動車はフランスのルノーとの資本関係を見直し、ルノー傘下から脱することになりました。日産はルノー傘下から脱することで、経営の自由度が増すことになり、自動車業界が迎えている100年に一度といわれる大激変期への対応を急ぐことにしています。

 自動車業界に大激変が起こる要因は大きく二つあります。ひとつは、地球温暖化問題に対応するためにガソリンエンジン車から二酸化炭素(CO₂)を出さない電気自動車(EV)などの脱炭素車に転換すること。そしてもうひとつは、人間を運転から解放する自動運転技術の開発が進んでいることです。脱炭素や自動運転へ向けての動きは、もう後戻りはしないでしょう。しかし、変化のスピードは予想よりやや遅くなっています。脱炭素の道がEVだけなのかどうかの見極めが完全にはつけられていないこと、自動運転については技術的信頼性や対応する法律がまだ十分に整っていないことがその原因です。中でも日本の自動車業界は、中国や欧米の自動車メーカーより変化への対応を慎重に進めている印象があります。

(写真・横浜市の日産自動車本社)

日本の自動車メーカーは14社

 自動車メーカーの業界団体である日本自動車工業会 に加盟している会社は14社あります。普通乗用車を中心とするのがトヨタ自動車本田技研工業(ホンダ)、日産自動車、マツダスバル三菱自動車の6社。軽自動車を中心とするのがスズキダイハツ工業の2社、トラックを中心とするのがいすゞ自動車日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックの4社、二輪車を中心とするのがヤマハ発動機、カワサキモータースの2社です。このうち、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは2024年中に経営統合する予定です。

(写真・トヨタ自動車の社旗)

それぞれのメーカーには特徴が

 それぞれのメーカーには特徴があります。トヨタは日本を代表する大企業です。世界トップクラスの生産台数を誇っています。2023年3月期決算の売上高は37兆円余、純利益が2兆5千億円近くもあります。ホンダはフォーミュラワン(F1)レースに参戦するなどして技術を磨き、経営は独立独歩を貫いています。アメリカでビジネスジェット機の製造販売をしているのも有名です。日産は1999年に経営危機に陥り、ルノーの資本を受け入れ、危機を脱しました。今回、ルノーとの出資比率をお互い15%ずつの対等にすることができ、念願の「不平等条約の改定」を果しました。日産は三菱自動車の筆頭株主で、三菱自動車はルノー・日産グループの会社になっています。日産も三菱もEVに力を入れています。マツダは広島に本社を置くメーカーで、北米やドイツなどに強みがあります。スバルは4輪駆動車や衝突防止装置などに特徴があります。スズキは古くからインドに進出していて、インド市場で4割近いシェアを持っていす。ダイハツはトヨタグループの一員で、日本の軽自動車市場をスズキと二分しています。

日本のEV比率は中国欧米に及ばず

 世界の自動車メーカーが急いでいるのが、脱炭素車の開発です。脱炭素車には、EVのほか、燃料電池車水素自動車合成燃料車などがありますが、本命とされているのがEVです。2022年の新車販売に占めるEVの比率(マークラインズ調べ)は、中国では18.6%、西ヨーロッパでは13.1%、アメリカでは5.6%になっています。一方、日本ではまだ1.3%にとどまっています。日本メーカーはガソリンエンジンを得意としてきたことやガソリンと電気の両方で走るハイブリッド車に力を入れてきたことなどから出遅れています。最大手のトヨタがEVに絞らない方針をとり、燃料電池車や水素自動車にも力を入れていたことも影響しています。ただ、世界の市場でEVシフトが強まる中、トヨタもアメリカでEVの現地生産を始めることを明らかにしており、EVにかじを切りつつあります。

(写真・路線バスとして運行を始めるEVバス=2023年7月26日、大阪市)

EUは合成燃料のエンジン車を認める

  それでもまだ、業界がEVに向けて一直線に進むとは言い切れないところがあります。今のリチウムイオン電池に代わる「航続距離が長くて比較的安価な電池」の開発が見えていないためです。全固体電池という、電解質を固体に置き換えたものが有力候補ですが、まだどこも開発に成功していません。欧米や中国、アメリカの一部の州などでは2035年にガソリンなどで走るエンジン車の新車販売を全面禁止するとしていましたが、欧州連合(EU)はこのほど環境に負荷がかからない合成燃料で走るエンジン車は2035年以降も認めることにしました。ドイツやイタリアが自動車メーカーの雇用を守るためとしてエンジン車の存続を求めたためで、世界のEVシフトにややブレーキがかかるきっかけになることも考えられます。

一般道での自動運転はまだかなり先か

 自動運転については、高速道路で自動トラックを走らせる取り組みが本格化しています。政府は来年度中に新東名高速道路に自動運転車両用の車線を設ける方針です。また、バスなどでも自動運転の実証実験が始まっています。ただ、一般道で運転する人がいない状態で走ることのできる「レベル5」といわれる自動運転の実現はまだかなり先になりそうです。様々な道路環境がある一般道では、事故や渋滞を起こさない無人運転の技術的ハードルは高く、また事故が起きた時の責任をだれがどうとるかの法的な整備が進んでいません。レベル5になると自動車の概念が一気に変わることになり、業界へのインパクトはものすごく大きいのですが、ここ数年での実現は難しそうな流れです。

(写真・埼玉工業大学が開発した自動運転バス。狭い交差点でも運転士が触れないまま、ハンドルは勝手に回る=埼玉県)

世界を相手にしていることを肝に銘じよう

 日本の自動車業界はとても大きな業界です。日本自動車工業会によると、自動車製造品出荷額等は約60兆円(2019年)で、全製造業の18.6%を占めています。働いている人の数は、自動車製造業だけで約89万人います。こうした大きな産業なので、志望する人も多いと思います。そこで知っておかないといけないことが、自動車メーカーは世界を相手にしているということです。日本だけでなく世界で生産し、世界で販売しています。国際性に富んだ業界なので、海外での仕事や海外との仕事がある可能性が高いことは肝に銘じておきましょう。加えて、業界が激変期にあることを念頭に置いておかなければなりません。さらにつけ加えると自動車が好きであるのが望ましいと思います。

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