業界研究ニュース 略歴

2023年06月30日

ANAとJALの就職人気が回復した航空業界、課題は人手不足とSAF【業界研究ニュース】

運輸

 航空業界がコロナ禍前の好調を取り戻しつつあります。日本の2大航空会社(エアライン)の ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)は2023年3月期決算でともに3年ぶりの黒字となりました。2024年3月期はさらに大幅な増収を見込んでいます。それに伴い、両社とも2024年の新卒採用人数を大きく増やしています。学情の「就職人気企業ランキング」によれば、コロナ禍前はANAとJALはランキング上位の常連でしたが、コロナ禍で採用を極端に減らしたこともありここ数年は100位内から消えていました。しかし最新の2024年卒学生を対象にしたランキングではANAが49位に、JALが77位に順位を上げてきました。国際線が回復してくると、来年以降さらに人気は上がりそうです。

 ただ、課題もあります。空港での地上業務にあたる従業員が不足していることや、持続可能な航空燃料(SAF)への切り替えを迫られていることです。コロナ禍前のように上位の常連になるかどうかは、こうした課題を解決できるかどうかも関係してくるでしょう。

(写真・ANAとJALの機体=2022年6月、羽田空港)

ANAとJALの2グループに分かれる

 国土交通省が「本邦航空会社」としている日本の航空会社は2021年冬時点で24あります。国内線も国際線も持ち、多くのグループ会社を抱えるのはANAとJALの2社ですが、そのほかにも大手2社に対抗する「第3極」を築いたスカイマーク、地域航空会社の AIRDO ソラシドエアスターフライヤーなど、格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションジェットスター・ジャパン、スプリング・ジャパンなどがあります。地域航空会社や格安航空会社の多くは、ANAやJALと提携関係や資本関係があります。日本の航空業界はおおむねANAとJALの2グループに分かれていると見ることができます。

(写真・JALが出資する「ジェットスター・ジャパン」などLCC3社の機体=2021年6月、成田空港)

売上高は大幅に増えるが、まだ回復途上

 ANAHDの2023年3月期の決算は、売上高が1兆7074億円、純損益は894億円の黒字でした。2022年3月期と比べると、売上高で67.3%増、純損益は1436億円の赤字から黒字に転換しました。JALの2023年3月期の決算は、売上高が1兆3755億円、純損益が344億円の黒字でした。2022年3月期に比べると売上高が101.5%増、純損益は1775億円の赤字から黒字に転換しました。人の往来が回復してきたことが要因で、2024年3月期はANAが売上高で15.4%増、JALが20.5%増を見込んでいます。ただ、これでもコロナ禍前の売上高を下回っているので、まだ回復途上ということになります。

経営内容や社風に大きな違いなくなる

 ANAHDとJALはかつて国内中心と国際中心という形で棲み分けていました。そのため、両社の経営内容や社風には大きな違いがありました。JALは政府が出資している会社で「ナショナルフラッグキャリア」といわれていました。主力は国際線で、社風はよく言えばおっとり、悪く言えば官僚的と言われていました。ANAHDは純粋な民間会社で国内線が中心、JALに追いつこうと成長を追求する野心的な社風と言われていました。そうした違いが変化したきっかけとなったのが、2010年のJALの経営破綻です。JALは経営再建のために不採算な路線やビジネスを切り離す必要に迫られ、ANAが肩代わりするケースが増えました。このため、ANAの国際線が充実し、国内線と国際線の比率はJALと変わらなくなりました。全体の売上高ではANAがJALをやや上回るようになりました。社風も経営破綻したJALが野心的になったため、大きな違いはなくなったと言われます。

(写真・2012年に再上場を果たしたJAL。上場通知書を手にする経営陣(当時)=2012年9月、東京・兜町)

グラハン不足でインバウンド取り逃がす?

 航空業界が直面している課題のひとつは、空港の人手不足です。航空機の誘導やカウンターでの受付などの空港業務を<グランドハンドリング(グラハン)といいますが、このグラハンにあたる従業員が不足しているのです。コロナ禍で仕事が減ったため、離職した人が多く、仕事が増えても戻っていません。国交省の聞き取りでは、コロナ禍前より2割ほど減っています。年収が相対的に低く就業時間が変則的なグラハンの人手を確保するのは簡単ではありません。グラハンの人手不足が原因で運航できない国際線もあり、このままではインバウンド(訪日客)を取り逃がしてしまうとの声が出ています。グラハンは都市部の空港では、ANAやJALのグループ会社が担っているケースが多いのですが、地方空港では地場企業が請け負うケースが多く、待遇改善は一気には進みません。

(写真・グラハンの実習を受ける学生=2020年11月、千葉県成田市)

廃食油から作る航空燃料の課題は価格

 もう一つの課題は航空燃料です。今は石油から作られる灯油によく似た油(ジェット燃料)を使っています。しかし、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を出すため、減らす必要があります。経済産業省は、日本の空港で航空機に給油する燃料の1割を、2030年から「持続可能な航空燃料(SAF)」とするよう石油元売り会社に義務付けることにしています。日本で考えられているSAFは天ぷらを揚げたあとの油などの廃食油を原料とするものです。食用油は植物由来のものなので通常のジェット燃料に比べ8割ほど二酸化炭素の排出量を減らせるとされています。ただ、こうした国内産SAFの価格は高く、航空会社のコストアップの要因となります。このため、もっと安いコストでできるアメリカ産SAFを輸入することなども検討しています。

(写真・廃食油(左)からつくられた「持続可能な航空燃料」=SAF)

「必ず成長する」との信念を持とう

 航空業界はコロナ禍からの回復が見込まれ、志望する就活生は増えると思います。ただ、航空業界は浮き沈みの大きい業界であることも覚えておく必要があります。歴史的にみても、日航ジャンボ機墜落事故アメリカ同時多発テロSARS(重症呼吸器症候群)の流行、リーマン・ショックなどでも需要が激減しました。そして、今回のコロナ禍です。ただ、浮き沈みがあっても、長期的には空を使った人やモノの移動は増え続けると考えられます。志望する人は、「長い目で見ればこの業界は必ず成長する」という信念を持ってのぞむといいと思います。

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別