コロナ禍から日常が戻りつつある今、苦しんでいた化粧品業界が好調を取り戻しています。通勤などで外出の機会が増え、脱マスクも進み、化粧をする機会が増えてきたためです。外国人旅行客も増え、インバウンドとしての化粧品需要も膨らんでいます。コロナ禍前の状態に完全に戻るにはもう少しかかりそうですが、はっきりと明るさが見えてきています。
そのせいか、大学生の就職人気も高まっています。学情の2024年卒大学生の人気企業ランキングでは男女総合で資生堂が8位、 コーセーが33位、花王が45位に入っています。女子学生に限れば、資生堂が1位、コーセーが8位、花王が15位、ポーラが42位に入っています。ただ、国内の女性向け化粧品は、若年層の女性人口が減っていることから、飽和しつつあります。そのため各社は、まだ伸びる余地のある男性向け化粧品や海外向けの販売に力を入れて成長しようとしています。
(写真・鮮やかな色の口紅などが並ぶ渋谷ロフトの化粧品売り場=2023年5月22日、東京都渋谷区)
古代からあった化粧品
人類の歴史をみると、化粧品は古代からあったようです。赤い色で着色された大昔の死者が、世界各地で発見されています。古代エジプトでは、スキンケアもメークもあったと考えられています。中国の歴史書「魏志倭人伝」には、3世紀後半の日本の人々が体に着色していたという記述があります。その後、日本では平安時代には貴族の間でおしろいなどを使った化粧がおこなわれており、江戸時代には庶民にも化粧が普及し、化粧品を販売する店もありました。明治時代になると、今に続く化粧品会社が登場します。資生堂の創業は1872年(明治5年)です。化粧品は長い歴史のある商品なのです。
(写真・1979年に刊行された、ポスターにみる「資生堂宣伝史」)
資生堂、コーセー、花王、ポーラが大手
日本には化粧品を製造する会社がたくさんあります。業界団体の日本化粧品工業会に加入している会社は1000社をゆうに超えています。全国に中小の化粧品製造会社がたくさんあることがわかります。その中で売上高が1000億円を超える大手企業は4つあります。2022年12月期の売上高をみると、資生堂が1兆673億円でトップ、コーセーが2891億円で続き、花王(本体の化粧品事業のみ)が2515億円で3位、ポーラ・オルビス・ホールディングスが1663億円で4位です。コロナ禍では、2020年12月期に資生堂が純損益で116億円の赤字に転落するなど苦境に陥りましたが、各社ともその後順調に回復しています。
口紅や日焼け止めが好調
経済産業省の生産動態統計によると、化粧品の国内工場出荷額は2019年に1兆7600億円でピークになりましたが、2020年には1兆4700億円、2021年には1兆3500億円と急減しました。2022年は2021年に比べると1.4%増えましたが、ほぼ横ばいといっていい水準です。ただ、2023年2月から市場ははっきりと上向いています。特に、マスクにつきやすいと敬遠されてきたリップグロスやつやが出る口紅などがよく売れています。ほかにも美白美容液などの紫外線ケアや日焼け止めも好調です。売れ筋をみると、外出やマスクをはずす機会が増えたことが影響しているようです。百貨店の化粧品売り場の売り上げが急増しているのも特徴で、訪日外国人観光客が増えたためとみられています。コロナ禍前の爆買いの主役だった中国人観光客はまだ少ないため、中国人観光客が戻ってくるとさらに売れ行きが伸びる見込みです。
(写真・売り場に並ぶ口紅=2023年3月15日、名古屋市中村区)
開拓余地のあるメンズコスメに期待
ここにきて化粧品業界が力を入れているのが、男性用化粧品(メンズコスメ)です。リサーチ会社の富士経済によると、国内のメンズコスメ市場は2017年には1389億円でしたが、2024年には1655億円まで拡大すると予測しています。1990年代後半以降に生まれた「Z世代」が主なターゲットになっていますが、中高年層にも市場が広がりつつあります。コーセーはメジャーリーグで大活躍をしている大谷翔平選手を広告に起用し、日焼け止めや美容液のプロモーションをおこなっています。大谷効果はてきめんで、男性客が激増しているそうです。肌をきれいに保ちたいという男性は増えており、業界ではメンズコスメの可能性に期待しています。
資生堂は工場の国内回帰を進める
製造部門の動きとしては、工場の国内回帰があります。資生堂は1990年代後半から海外生産に乗り出し、中国や台湾、ベトナム、アメリカ、フランスなどでに工場を作ってきました。代わりに国内工場を6か所から3か所に減らしました。しかし、2019年に国内で36年ぶりの新工場となる那須工場(栃木県)を、2020年に茨木工場(大阪府)、2022年に久留米工場(福岡県)を作り、国内工場を2倍に増やしました。コロナ禍前、外国人観光客が日本の化粧品を爆買いするのを見て、日本の化粧品のブランド価値を再認識し、国内で生産するほうがブランド価値を高められると考えたようです。化粧品はブランド力がものをいう商品なので、生産地もコストだけではない要素を考慮する必要があります。
(写真・資生堂の福岡久留米工場=2022年9月15日、福岡県久留米市、朝日新聞社ヘリから)
企業イメージを作ることも大切
化粧品会社の仕事は多岐にわたります。すぐにイメージするのは、デパートなどで顧客の相談に乗ったり実演したりしながら販売する美容部員ですが、もちろんそれは仕事の一部です。研究開発、商品企画、生産、営業、販売促進といろいろな仕事があります。美しさを提供する会社ですから、それにふさわしい企業イメージを作ることも大切です。広告宣伝や広報の仕事も大切になってきます。社員は身ぎれいにしていることも必要です。企業イメージ作りにも気を配れる人が向いていると思います。
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