スポーツ用品メーカーの業績が好調です。国内大手のアシックスやミズノは、今期は過去最高の売上高になるとみられています。コロナ禍で中止となっていたスポーツイベントが復活し、学校体育や一般の人のスポーツ活動もコロナ前の状況に近づき、スポーツ用品の需要が一気に盛り上がってきているのです。2021年には東京五輪・パラリンピックが、2022年11~12月にはサッカーのワールドカップが開かれ、スポーツへの関心が高まっていることも追い風になっています。世界のスポーツ用品業界では多国籍企業のナイキ(アメリカ)やアディダス(ドイツ)が強く、好調の日本メーカーも世界での競争力を強めることが課題です。また、画期的な製品が開発されるとその製品があっという間に市場を席巻することもある業界なので、スポーツ科学に基づいた研究開発力も重要になっています。世界が豊かになり、余暇や健康に関心が向かえば向かうほどスポーツは盛んになるとみられます。そう考えると、スポーツ用品業界はまだまだ成長する可能性を持っていると思います。
(写真・サッカーW杯のスペイン戦勝利で決勝トーナメント進出が決まり喜び合う日本代表の選手とスタッフ=2022年12月1日、ハリファ国際競技場)
分野別ではスポーツシューズが最大
矢野経済研究所の調べによると、2021年の国内スポーツ用品出荷額は前年より10.7%多い1兆5500億円の見込みです。2022年の予想は1兆6200億円余で、さらに4.7%伸びるとしています。2021年見込みの分野別では最も金額が大きいのはスポーツシューズで3115億円です。次いでアウトドアで2876億円、ゴルフ2707億円、アスレチックウェア2014億円となっています。スポーツというとすぐに思い浮かぶ野球・ソフトボールは590億円、サッカー・フットサルは470億円で、一般の人にも広がりのあるスポーツシューズやおカネのかかるゴルフには大きく引き離されています。
(写真・2021年の箱根駅伝1区の先頭集団。ほとんどの選手がナイキのシューズを履いていた=2021年1月2日、代表撮影)
アシックスはシューズで成長
国内のスポーツ用品メーカーとしてもっとも売上高の大きいのは、アシックスで4040億円(2021年12月期)です。アシックスは2022年12月期の売上高見通しを4600億円としています。アシックスは1949年に鬼塚喜八郎が神戸に設立した鬼塚商会がスタートです。最初に作ったのはバスケットシューズで、その後マラソンシューズなど「オニツカタイガー」のブランド名で各種スポーツのシューズメーカーとして成長しました。1977年に社名をアシックスとしました。今も主力はシューズで、売上高が大きく伸びているのは、各地のマラソン大会が復活開催されるようになったことが寄与しています。
(写真・アシックスを創業した故鬼塚喜八郎さん=2006年撮影)
ミズノ、デサントが2位、3位
国内で次に売上高の大きいのは、ミズノです。2022年3月期の売上高は前年同期比14.8%増の1727億円でした。2023年3月期の売上高は1950億円を予想していて、好調が続いています。ミズノの創業は1906年と古く、大阪で設立した水野兄弟商会が始まりです。洋品雑貨のほか野球ボールも販売したことが、スポーツ用品メーカーとなるきっかけでした。こうした経緯があるため、今も野球のほか、サッカー、ゴルフなど幅広い分野に用品を提供するメーカーになっています。3番目はスポーツウェアが主力のデサントです。2022年3月期の売上高は1088億円で前年同期に比べて12.4%増えています。特にゴルフウェアが好調でした。デサントの大株主は伊藤忠商事です。国内スポーツ用品メーカーとしてはほかにもスポーツアパレルに強いゴールドウインやバドミントン用品に強いヨネックスなどがあります。
(写真・研究開発拠点「ミズノエンジン」敷地内にあるミズノのロゴマークのモニュメント=2022年11月8日、大阪市住之江区)
ナイキとアディダスが2強
世界には、巨大なスポーツ用品メーカーがふたつあります。ナイキとアディダスです。ナイキの2022年5月期の売上高は467億ドル(約6兆4000億円)でした。ナイキはアメリカオレゴン州に本社のある多国籍企業です。1964年にオニツカタイガー(現アシックス)のアメリカの輸入総代理店となった会社がもとになっています。1970年代にスポーツシューズを生産し始め、革新的なデザインや技術で世界のトップメーカーになりました。アディダスはドイツを本拠とする多国籍企業で、売上高は2021年12月期で212億ユーロ(約3兆円)です。創業は1948年。サッカーシューズから始まり、さまざまな靴やウェアで売り上げを伸ばしてきました。サッカー日本代表のユニホームはアディダスジャパンが手がけています。ナイキとアディダスは日本市場でも存在感があり、両社の日本法人は多くの社員を抱えています。世界ではこの2社が2強ですが、ほかにもプーマやアンダーアーマーなど日本でもなじみのある大メーカーがあります。日本のアシックスやミズノは世界では10位前後に位置しています。
(W杯カタール大会の日本代表ユニホーム。アディダスジャパンによると、コンセプトは「ORIGAMI(折り紙)」。勝利への祈りが込められた折り鶴をイメージしたという)
ナイキの厚底シューズが大ヒット
スポーツ用品にはときどき大ヒット商品が生まれます。たとえば、ナイキのランニング用厚底シューズです。5年前に市場に投入すると、記録が出ると注目され、多くのランナーがナイキのシューズを履くようになりました。2021年の箱根駅伝ではほぼ全員がこのシューズで走りました。一般ランナーにも広がり、大ヒット商品となりました。これに対し、アシックスも独自の技術の厚底シューズを開発し対抗しました。2022年の箱根駅伝ではアシックスのシューズを履いた選手がみられるようになり、巻き返しの動きが出ています。このように記録や勝敗につながる画期的な新商品が出ると大ヒットするのがスポーツ用品の特徴で、各社が技術力やデザイン力の向上を競っています。
(写真・アシックスが6月に新発売した「メタスピード プラス」シリーズ)
スポーツの知識と愛情が必要
スポーツ用品メーカーで重要な仕事のひとつに営業があります。特徴的なのは、有名選手や有名チームに自社製品を使ってもらう営業です。スター選手が使ってくれれば、その効果は絶大です。野球好きなら大谷翔平選手がどこのバットやグローブを使っているか、ゴルフ好きなら松山英樹選手がどこのクラブやボールを使っているかは気になるところです。こうした超一流ではなくても、それぞれのスポーツの有名選手や有名チームに使ってもらうためにどうすればいいのかを考え、実行するのが営業の仕事です。製品の良し悪しだけでなく、社員のスポーツに対する知識や愛情が大切になる仕事だと思います。
(写真・男子ゴルフZOZOチャンピオンシップでショットを放つ松山英樹選手=2022年10月13日、千葉県印西市)
アシックスとミズノの「人事のホンネ」も参考にしてください。
●2022シーズン アシックス(前編)職業観・やりたいこと、悩んで決めて 逆質問10分で好奇心見る
●2020シーズン ミズノ(前編)手書きESと写真で個性見る 「3つのF」持つ人来て!
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