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2022年11月18日

絶好調の海運業界を知ろう 「海洋日本」支えるが、課題も【業界研究ニュース】

運輸

 海運業界の好調が続いています。2022年中間決算では、日本郵船商船三井川崎汽船の大手3社がいずれも過去最高の純利益を記録しました。2023年3月期も純利益が過去最高になるとの見通しをあわせて発表しました。好調の原因のひとつはコロナ禍です。港湾の人手不足が起こり、それにより運べる量が減ったことで運賃が高騰し、海運会社の利益が膨らんだのです。もうひとつは円安です。外国と結ぶ航路の運賃はドル建てのため、円安になると円ベースでの売り上げが膨らみます。この好調は2021年3月期の決算から続いていて3期連続になりそうな見通しです。ただ、今後は世界経済の減速が予想され、円安が円高に向かう気配も感じられます。好調がいつまで続くかは不透明になってきています。海運業界は好不況の波の激しい業界です。過去の例から見ると、ずっといいということもずっと悪いということもありません。ただ、世界の海上輸送は長いスパンで見ると今後も増え続けると考えられますので、海運業界は大きな波に翻弄されながらも成長していく可能性の高い業界だとみられています。

(写真は、海運大手3社の出資会社が運航するコンテナ船=日本郵船提供)

外航海運に大手多く、内航海運は中小多い

 海運業界には、大きく分けて二つの業態があります。外航海運内航海運です。外航海運は主に海外との間で物資や人を輸送する会社です。内航海運は国内の港を結んで物資や人を輸送する会社です。外航海運には大企業が多く、2022年3月期決算では、業界トップの日本郵船が2兆2807億円、2位の商船三井は1兆2693億円、3位の川崎汽船は7569億円の売上高となっています。大手3社のほかにも NSユナイテッド海運は2000億円近い売上高があり、飯野海運は1000億円を超える売上高があり、大手といえます。一方、内航海運は、実事業者数が2822(日本内航海運組合総連合会調べ、2022年3月末現在)あります。数はとても多いのですが、「一杯船主」と言われる一隻の船しか持っていない会社が多く、中小企業の割合が高いのが特徴です。

貿易量のほとんどが船で

 日本は海に囲まれた島国です。そのため、日本の貿易量の99.6%が船によるものです。国内の貨物の輸送についても、船によるものが39.8%(2020年度)を占め、自動車に次いで2番目となっています。貨物を運ぶ船には運ぶ物によって種類がそれぞれあります。コンテナ船オイルタンカーケミカルタンカーLNG船バルク船自動車専用船木材専用船セメント専用船などがあります。

ひとつにしたコンテナ船事業に追い風

 今、大きな利益をあげているのはコンテナ船事業です。荷物を入れたコンテナとよばれる大きな箱を積むコンテナ船事業は一時期運賃が低迷し、各社とも赤字になっていました。大手3社はコンテナ船事業を切り離して一つの会社にしようとし、日本郵船が38%、商船三井と川崎汽船が31%ずつ出資して「オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)」を2017年に設立しました。ひとつの会社にすることで効率化が進んだところに、コロナ禍による運賃高騰時代がやってきました。航路によっては、コロナ禍前の数倍の運賃になっているところもあり、歴史的に最高値だといいます。そこに円安が加わりました。外航海運会社の業績は運賃と為替相場に左右されますので、今はともに強い追い風が吹いている状況です。

外航海運では英語が必要

 海運業界の仕事には、海上勤務と陸上勤務があります。海上勤務には、船の操縦や積み荷の管理をおこなう操縦士や船内の機械を管理する機関士の仕事などがあります。外航だと数週間は船で生活するのが当たり前になります。ただ、不自由な生活を強いられる分、高給であるのが一般的です。陸上勤務は船や積み荷の管理のほか、営業、企画、総務などの仕事があります。外航海運だと、海外拠点が多く、海外勤務も多くなります。顧客は外国人が多いため、国内、海外を問わず、ある程度の英語ができることが必要になります。

脱炭素や自動運転が技術的課題

 海運業界が抱えている技術的な課題が二つあります。ひとつは地球環境問題に対応した脱炭素の課題です。今の船は重油を燃やしてエンジンを動かしています。世界で海運が排出する二酸化炭素(CO₂)は全体の排出量の2%を占めています。政府や荷主からの排出削減の要請は強く、業界は研究開発を進めています。当面は重油よりCO₂排出量の少ない液化天然ガス(LNG)を使い、その後、アンモニア水素を燃料にしてCO₂を出さない「ゼロエミッション船」に切り替えていこうとしています。もうひとつの課題は、船の自動運転です。船上勤務者を減らしてコストを削減することや船の航行の安全性をさらに高めることが目的です。国土交通省が音頭を取って実証実験中で、2025年には実用化したいとしています。

(写真は、国際海事展「Sea Japan」の海運大手のブース。脱炭素に向けた技術開発のアピールが目立っていた=2022年4月、東京都江東区の東京ビッグサイト)

大手3社は100年を超す歴史のある会社

 海運は歴史のある業界です。今ある大手海運会社も古い歴史を持っています。日本郵船が誕生したのは1885年(明治18年)です。前身は、三菱の創業者の岩崎弥太郎が1870年(明治3年)につくった高知・神戸間や東京・大阪間の海上輸送をする九十九(つくも)商会です。商船三井は1878年(明治11年)に石炭を中国・上海に運んだのを始まりとし、1884年(明治17年)に前身の大阪商船が設立されました。川崎汽船は1919年(大正8年)に川崎造船所社長が「船を造るだけでなく、船を運航する事業を興す」と宣言して設立された会社です。3社とも100年を超す歴史があり、その間の世界の激動を乗り越えてきました。海運業界はこれからも浮き沈みはあるでしょうが、海上輸送がなくなるとは思えず、さらに歴史を作り続けるでしょう。

(写真は今年、竣工100周年を迎えた「神戸商船三井ビル」。ビルを所有する商船三井によれば大正期の大規模オフィスビルとして当時の姿をとどめるほぼ国内唯一の建物という=神戸市中央区)

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