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2025年06月19日

紙ばなれの時代でも人気の出版業界、カギはコンテンツ力【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 大手の出版社はいまも昔もかわらず、就職ランキングで上位にくる人気企業です。学情の2026年卒の就職人気企業ランキングでは、集英社が6位、KADOKAWAが8位、講談社が9位、小学館が18位と上位にずらりと並んでいます。デジタル化の影響で「紙ばなれ」は進んでいますが、コミックを中心に電子出版が伸び、大手の業績は好調です。デジタル市場は世界に広がり、人気キャラクターの権利を持つ出版社はそのコンテンツ力で世界を相手に利益をあげることができるようになりました。   

一方、たくさんある中小の出版社、書籍や雑誌の卸売りをする取次会社、街の書店などは、デジタル化の恩恵を受けることがあまりなく、苦しい状況になっています。こうした状況の中、出版に興味のある就活生の目が大手出版社に向くのは当然でしょう。ただ、大手とはいえ採用人数は少なく、狭き門です。自分は出版の世界に入りたいのか、大手の会社に入りたいのか。そこをはっきりさせて就活に臨むのがいいと思います。
(イラストはiStock)

大手といえども社員数は少ない

 日本には3000近い出版社があります。総務省経済産業省がおこなっている経済構造実態調査によると、2020年の調査で約2900社ありました。これは5年に一度の調査で、現在は2025年の調査がおこなわれていますが、おそらくいまも2000台後半の数の出版社があるのは確実でしょう。このうち、大手といわれるのは4社です。売上高で見ると、KADOKAWAが2779億円(2025年3月期)、集英社が2043億円(2024年5月期)、講談社が1710億円(2024年11月期)、小学館が1096億円(2025年2月期)となっています。KADOKAWAはゲームや教育事業などの売り上げも加算されており、出版事業自体の規模は集英社や講談社と大きく変わりません。また、大手といえども知名度のわりに社員数が少ないのも特徴で、もっとも多いKADOKAWAで2343人(2025年6月19日現在)、集英社で780人(2024年6月1日現在)、講談社で972人(2025年4月現在)、小学館で707人(2024年3月1日現在)となっています。女性社員の割合が比較的高いのも特徴です。
(写真・KADOKAWA富士見ビル=2022年9月6日/朝日新聞社)

電子が伸びて販売額は下げ止まりか

 出版物の販売額は1996年をピークに長く減ってきました。今はピーク時の6割程度になっていますが、ここにきて下げ止まりの動きが見られます。出版科学研究所のまとめによりますと、2024年の販売額(紙+電子)は1兆5716億円です。前年に比べて1.5%減ったものの、最近増えている書店と出版社の直接取引や出版社の直接販売は含まれていないので、ほぼ横ばいとみてよさそうです。このうち紙(書籍、雑誌)は1兆56億円で5.2%減りましたが、電子出版は5660億円で5.8%増えています。電子出版のうち90%をコミックが占めており、コミックの伸びは6%と大きくなっています。コミックに強い集英社の業績が伸びているのはそのせいだと思われます。

商社と組んでコンテンツを海外展開

 電子コミックの人気の高まりにともなって、出版社は商社と組んでアニメやキャラクターといった「エンターテインメント・コンテンツ」の海外展開に力を入れています。集英社と住友商事は、出資した「REMOW(リモウ)」を通じて映像コンテンツや関連グッズの海外展開に注力。小学館は丸紅と組んで「MAG.NET」を設立し、コミックやアニメとその関連グッズの海外展開を支援しています。また、KADOKAWAにはソニーグループ

が出資し、2025年1月に筆頭株主になりました。KADOKAWAはゲーム、アニメ、小説など幅広いジャンルのコンテンツを持っており、ソニーは国内外でアニメやゲーム作品の展開を強化することをねらっています。日本のコンテンツの海外での売上高は2023年で5兆7769億円になり、年々増えています。大手出版社は海外でのコンテンツビジネスを強化して、海外売上高比率を高めていこうとしているのです。

フリーランス法違反の古い体質

 一方、出版業界には課題も指摘されています。公正取引委員会が6月、出版大手の小学館と光文社のフリーランス法違反を認定し、再発防止などを求める勧告を出しました。公取委の発表によると、小学館は月刊誌や週刊誌の制作でライター、写真家などのフリーランス191人に業務委託する際、報酬の支払い期日などの取引条件を明示せず、また、報酬を法定の期日内に支払っていなかったとしています。光文社も同様の違反をしていたとしています。出版社は多くのフリーランスを使って仕事をしていますが、フリーランスとの関係は編集者任せになっているケースが多く、多忙な編集者がフリーランスへの支払いを後回しにしていたとみられます。こうした仕事のやり方はフリーランス法に違反しますが、経理についても編集者任せの古い体質が出版社に残っていることを示しています。
(写真・小学館と光文社)

専門出版社や地域密着の出版社も

 出版社の仕事はいろいろあります。作家や写真家などと書籍や雑誌を作り上げる編集者、宣伝を考えたり取次や書店と交渉したりする販売、雑誌を持つ出版社だと広告、紙を選んだり印刷会社と交渉したりする資材、権利関係、海外展開などさまざまな分野の仕事があります。また、大手のほかに、教育、経済、児童書など専門分野を持つ出版社、地域密着の小さな出版社などいろいろな形態があります。出版社の下請けとして、編集や制作を請け負う編集プロダクションもあります。志望する人は自分がどういう仕事をどういう形でしたいのかをよく考え、業界で働くOB・OGを訪問して実情を聞くといいと思います。

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