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2022年10月21日

人気の広告業界が五輪汚職で大揺れ どんな仕事?これからは?【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で広告業界が揺れています。業界最大手の電通のOBである大会高橋治之容疑者が東京地検特捜部受託収賄の容疑で逮捕され、業界2位の博報堂DYホールディングス(HD)傘下の大広の執行役員や業界上位のADKホールディングス(HD)の社長が贈賄容疑で逮捕されました。大広やADKの容疑者は、東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事でスポンサー選定などに強い影響力を持っていた高橋容疑者から仕事を回してもらう見返りに賄賂を渡したと特捜部はみているようです。広告業界は就活生にとても人気のある業界ですが、この事件でイメージダウンは必至です。志望していたけれども変えようかな、と思っている人もいるかもしれません。ただ、企業や社会の活動に広告は欠かせませんから、広告会社の業績に与えるダメージは限定的だと思われます。それより就活生としては、この事件を受けて業界が体質改善にどこまで真剣に取り組もうとするかに注目する必要があると思います。

クライアントとメディアをつなぐ仕事

 広告業界の主な仕事は、広告を出したい「会社や組織」(クライアント)と「媒体」(メディア)をつなぐことです。クライアントがメディアに支払う広告料の一部が広告業界に落ちる仕組みです。具体的には、クライアントやメディアを確保する「営業」、効果的な広告を考えてつくる「制作」、さまざまなデータを集めたり戦略を考えたりする「マーケティング」などの仕事があります。また、イベントを企画したり運営したりする仕事に関わることもよくあります。広告会社はクライアントやメディアへの営業を通じてさまざまな情報を収集するので、「情報産業」ともいわれます。

(写真は、ADKホールディングスに家宅捜索に入る東京地検の係官ら=2022年10月19日、東京都港区)

電通が博報堂を引き離して断トツ

 日本の広告会社のうち断トツの大手は電通グループです。戦前の日本電報通信社が前身で、その後同盟通信社に合流し、その後、広告代理店専業の電通となった歴史を持つ会社です。売上高は5兆2564億円(2021年12月期)と巨大です。2位は博報堂DYHDです。2003年に博報堂、大広、読売広告社が経営統合して誕生しました。売上高は1兆5189億円(2022年3月期)ですが、電通グループに比べると3分の1以下です。次にくるのがADKHDです。ADKは1999年に旭通信社と第一企画が合併してできたアサツーディ・ケイが前身です。2018年にアメリカの投資ファンドが完全子会社化して株式上場をやめ、2019年に今の持ち株会社の体制に移りました。現状は非公開なのではっきりしませんが、上場廃止前の売上高は3528億円(2017年12月期)でした。一方、インターネット広告中心で急伸しているサイバーエージェントの売上高は6664億円(2021年9月期)で、業界3位に躍り出たとみられています。ほかに大手としては、ジェイアール東日本企画東急エージェンシーDACホールディングスなどがあります。

(写真は、電通本社が入るビル=東京都港区)

マスコミ4媒体の合計を超えたネット広告

 日本の広告費は2019年までほぼ毎年伸びてきました。2020年はコロナ禍で大きく落ち込みましたが、2021年には前年比10.4%増の6兆7998億円と、2019年(6兆9381億円)に迫る水準まで回復しました。媒体別で特に伸びているのがインターネット広告です。2019年には初めてテレビを抜きましたが、2021年にはテレビ、新聞、雑誌、ラジオの「マスコミ4媒体」の合計も抜きました。インターネット広告の中でも動画広告の伸びが著しいのが最近の特徴です。

世界を視野に入れる業界に

 広告会社は海外展開を進めています。人口減少の日本では市場に限界があることやデジタル広告は国境を越えると考えているためです。電通グループは海外企業の買収などを進めてきました。世界の145カ国・地域に約750社の子会社や関連会社があり、グループの従業員数は約6万5000人に上っています。博報堂DYグループは世界29カ国・地域に419の子会社や関連会社があり、2万5000人余の従業員がいます。特にアジアの新興国に力を入れています。広告業界はいまや世界を視野に入れる国際的な業界になっています。

広告やイベントを通じて社会貢献

 東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件以外にも、ここ数年、広告会社の体質が問われる出来事がいくつかありました。2020年、コロナ禍で売り上げが減った企業を支援する国の持続化給付金事業をめぐり、電通が設立に関わった法人が事業の元請けになり、そこから電通が再発注を受けて大きな利益を得ていたことが明らかになりました。官庁と電通の不透明な関係を表すものとして社会の批判を浴びました。2016年には、電通の新入社員の自殺が長時間労働やパワハラが原因だとして労災認定されたことが明らかになりました。こうしたことから、「コンプライアンスが十分機能していない」とか「仕事がきつい」といった業界イメージが強くなっています。もちろん、こうしたイメージが業界のすべてではありません。広告やイベントを通じて社会貢献をしたり新しい表現方法を生み出したりもしています。資本主義社会では広告はなくてはならないものです。悪いイメージを払しょくするための体質改善は必要ですが、それができれば、まだまだ成長できる業界だと思います。

新しい社会の動きに敏感なこと

 広告業界で仕事をするうえで必要な資質としては、まずタフなコミュニケーション能力があげられます。クライアントとメディアをつないだりイベントを企画、運営したりするには、粘り強いコミュニケーションで人を納得させたり動かしたりしなければなりません。もうひとつは、新しい社会の動きに敏感なことです。最新の流行をはじめ、その時々の社会の空気を読む力がいい仕事につながる業界です。志望する人はそうした資質が自分にあるかどうかを自問してみるといいと思います。

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