メガバンクのひとつであるみずほフィナンシャルグループ(FG)が約800億円を投じて楽天証券の株式約2割を取得することを発表しました。みずほFGは傘下にみずほ証券がありますが、楽天証券の顧客である若年層を取り込むことが狙いとみられています。株式や債券などの証券の売買は、店頭や電話で証券会社員を通じておこなうやり方から、顧客がインターネットを通じて直接おこなうやり方にシフトしています。また、岸田政権は「資産倍増計画」を掲げ、税制の優遇措置などを使ってこれから資産を形成しようとする若年層に株式や投資信託などの購入を促そうとしています。こうしたことから証券業界にはネットでの取引や若者の取引に力を入れる動きが強まっています。それと並行して、高齢の顧客の多い大手は株などの売買手数料に頼る経営から顧客から預かる資産に応じて手数料を取るビジネスモデルに転換しようとしています。今、日本の家計が保有する金融資産の残高は2000兆円を超えています。この半分以上が「現・預金」となっていて、株式などの証券への投資はあまり増えていません。「貯蓄から投資へ」という岸田政権の掛け声に証券会社がどこまでこたえられるか、注目されています。
(新しい資本主義実現会議で発言する岸田文雄首相〈左〉=2022年10月4日、首相官邸)
証券会社は全国に273社もある
証券とは、株や債券などの有価証券のことをいいます。証券会社の業界団体である日本証券業協会によると、会員の証券会社は九州から北海道まで全国にあり、その数は273社です。株や債券などを売買する証券取引所はいま、東京、名古屋、札幌、福岡の4カ所にあります。かつては大阪、神戸、京都、広島、新潟にもありました。証券会社が全国にあり、数も多いのは、取引所が各地にあり、その近くに証券会社があった名残です。
(写真は東京証券取引所=東京都中央区日本橋兜町)
店舗型とネット専業型
証券会社は大きく二つに分けることができます。ひとつは対面や電話で顧客と直接やりとりする店舗型で、もうひとつはネット専業型です。店舗型はさらに四つに分けることができます。国内大手独立系、銀行系、中堅系、外資系です。国内大手独立系はどこの系列にも入っていない大手のことで、野村證券や大和証券がそれにあたります。銀行系はその名の通り銀行の傘下にある証券会社でみずほ証券、 SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などです。中堅系は大手より規模の小さい独立系証券で、東海東京証券や岡三証券があります。外資系はゴールドマン・サックス証券などがあります。ネット専業型としては、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券、auカブコム証券などがあります。
間接金融は銀行、直接金融が証券
証券会社の仕事は、大きくいうと金融の仕事です。金融はその名の通り、おカネを融通することです。融通の仕方には「間接金融」と「直接金融」があります。おカネを必要とする企業や個人におカネを貸すのが間接金融で、それは銀行の仕事です。おカネを必要とする企業が、株や債券を発行するなどして市場から直接おカネを調達するのを直接金融といいます。証券会社は直接金融に関わる仕事をしています。顧客が株や債券を買ったり売ったりするのを仲介して手数料をもらったり、証券会社が自ら株や債券を売買してもうけたり、企業が株式を発行する手続きを代行して手数料をもらったりするのがおもな仕事です。また、企業の売買の仲介をしたり経済状況の調査をしたりする仕事もあります。
(みずほ銀行とみずほ証券の支店=東京都台東区)
若者の参入は追い風に
仕事内容からわかるように、証券会社は株や債券の売買が盛んな時にもうかります。売買が多くなるのは、株価が上昇基調にある時です。株価が下落傾向だったり横ばいだったりする時には売買が活発にならず、あまり業績が上がりません。株価が上がるには景気が良くて企業の業績がいいことのほか、証券市場に参入する新しい顧客が増えることも必要です。岸田政権は資産倍増計画を打ち出し、若者などの新しい顧客を株式市場に参入させようとしていますので、うまくいくと証券業界には追い風となる可能性があります。
売買手数料から資産管理手数料に
最近、証券業界で業績を伸ばしているのはネット専業の証券会社です。店舗型の証券会社に比べて売買手数料が安いことが好業績の理由です。店舗型の証券会社もネット取引を強化していますが、高齢者などには対面でのやりとりも欠かせず、売買手数料競争ではネット専業にかなわないのが実情です。そのため、野村証券を傘下にもつ野村ホールディングスは投資信託や株式などを一定程度持つ顧客を対象に、売買手数料を無料にして、預かり資産の残高に応じて手数料を取る仕組みを始めました。こうした預かり資産に応じて手数料を取る動きは大手を中心に広がっています。
(野村ホールディングス本社=東京都千代田区)
ルールを守る意識が必要
証券業界は昔から銀行に比べて「お行儀の悪い業界」などといわれてきました。かつては顧客に無理やり売買させて手数料を稼いだり、企業に関するうわさを流したり利用したりして株価を動かすことなどの「お行儀の悪い」行いがよくありました。昔に比べると今はずいぶんお行儀がよくなったと聞きますが、最近でもSMBC日興証券の株価操作事件が発覚し、金融庁は3カ月の一部業務停止命令を出す方針です。証券会社は一瞬の売買で大儲けをしたり大損をしたりする仕事をしているため、そこで働く人にはルールやコンプライアンスを守る意識を強く持つことが必要になります。
(写真はSMBC日興証券本店=東京都千代田区)
証券会社のやりがいは
大手証券会社や外資系証券会社は、比較的給料が高いとされています。一方で、株や債券の売買や仲介は、とても神経を使う厳しい仕事です。給料が高いことにつられて志望すると、うまくいかないこともあると思います。日本は資本主義の国です。資本主義とは資本家である株主が会社や経済を動かす仕組みです。証券会社は資本主義の仕組みを支える重要な役割を担っています。証券会社がなければ日本の資本主義は成り立たないわけで、そうした役割を認識して志望すれば、やりがいを持てると思います。
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