業界研究ニュース 略歴

2023年12月14日

人気の出版業界のキーワードは電子コミックと海外事業【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 2025年卒予定の大学生を対象にした今年の学情の就職人気企業ランキングでは、ベスト10に出版社が4社も入っていました。2位に講談社、3位に集英社、7位にKADOKAWA、9位に小学館です。昨年発表のランキングでも出版社人気が目立ちましたが、ベスト10に入っていたのは3位の講談社、5位の集英社の2社でした。この1年で大手出版社の人気がさらに強まったことがわかります。

 人気の大きな要因は、電子コミックの好調です。しかも、海外市場での評価が高まっています。20世紀末から始まった紙からデジタルへの移行に出版業界は苦しんできましたが、大手出版社に限ってはデジタル化による成長が見えてきたようです。大手出版社での仕事はクリエイティブなイメージがあり、待遇も比較的よく、女性比率は比較的高いうえ、将来性にも期待できるとなると、人気が上がるのは理解できます。しかし、採用数は少なく、狭き門であることは覚悟する必要があります。一方、紙の雑誌の販売減少は大きく、紙の書籍も減少傾向にあり、中小の出版社や書店に吹く向かい風は変わっていません。出版業界は、デジタル化に対応できるコンテンツを持っているかどうかによって二極化が進みつつあるともいえます。

(写真・講談社の本社)

電子書籍の9割近くがコミック

 出版科学研究所によると、出版物の推定販売金額は1996年の2兆6564億円をピークに長く減り続けていました。ところが電子出版が増えたことで、2020年、2021年と増加に転じました。2022年はわずかに減りましたが、2019年より多い1兆6305億円となっています。書籍、雑誌、電子出版物の3つのジャンルでみると、雑誌はピークだった1997年の約3分の1にまで減りました。書籍も減っていますが、ピーク時の6割程度をまだ保っていて、落ち込みは雑誌より緩やかです。児童書などはほとんど落ちていません。電子書籍は増え続けていて、2022年には5013億円で雑誌を抜きました。電子書籍の中でも圧倒的なのは電子コミックで、電子書籍全体の9割に迫っています。電子と紙をあわせたコミックのシェアは今や出版物全体の4割を超えています。

売上高1000億円を超すのは4社だけ

 出版業界には知名度の高い会社がたくさんありますが、売り上げ規模は知名度ほど大きくありません。売上高がもっとも大きいのはKADOKAWAグループで、2554億円(2023年3月期)です。次いで集英社で2097億円(2023年5月期)、3位が講談社で1695億円(2022年11月期)、4位は小学館で1085億円(2023年3月期)です。売上高が1千億円を超えているのは、業界でこの4社だけとなっています。KADOKAWAグループはゲームや教育など幅広い事業をやっており、出版事業だけをみると売上高は1400億円になります。総務省経済産業省の「経済構造実態調査」によると、出版業界の法人数は2022年で3971社あります。法人数は最近増えていて、1人で出版活動をする「ひとり出版社」が増えていることなどが背景にあるようです。それほど大きくない市場に4千近い会社がひしめいているのですから、中小企業が圧倒的に多い業界といえます。

(写真・KADOKAWAの本社ビル=2022年9月)

グローバル企業への道を歩む

 大手が伸ばしている分野に海外事業があります。日本のコミックはアジアを中心に世界で人気があります。特に電子コミックの場合は、紙を手配して印刷作業をする必要がないので、海外での流通コストがあまりかかりません。日本のコミックの出版権映像権は出版社が持っていることが多いので、海外からの出版や映像化への申し出が増えています。そのため、海外向けのライツ(権利)事業に大手各社は力を入れています。それだけではなく、コミックなどのコンテンツを直接世界で展開する方向性を模索していて、グローバル企業の道を歩みつつあります。そのため、グローバルに活躍できる人材も求めています。

(写真・フランス語に翻訳された日本の人気マンガ=京都市)

取次会社や書店は逆風を受ける

 出版業界には、川上に出版社がありますが、川中には取次会社とよばれる卸売問屋があり、川下に書店があります。取次会社としては、日本出版販売(日販)とトーハンが大手2社です。書店は2003年には全国で2万880店あったのですが、2022年には1万1495店に減っています。取次も書店も紙の出版物を主に扱っていますので、デジタル化の逆風を受けています。出版の流通や販売にはほかの商品とは違うところがあります。ひとつは委託販売制度というもので、取次は書店に出版物を売りきるのではなく、売れなかった分を書店が取次に返品できることになっています。もうひとつは出版物が再販制度の対象になっているということで、書店は出版物の値引き販売をすることができません。出版物は文化を担うものであり、書店は文化の発信場所であることから、多様な出版物が一般書店に並ぶようにこうした特別な扱いになっています。

大手は狭き門だが、出版の仕事への強い気持ちが大切

 出版業界に大企業は少なく、そのため社員数も多くありません。KADOKAWA単体では社員数は2609人(2023年3月末現在)、集英社は770人(2023年10月1日現在)、講談社は934人(2022年9月現在)、小学館は711人(2023年4月現在)です。当然、採用数も多くありません。社員の女性比率が比較的高めなのも特徴です。KADOKAWA単体では女性比率は44%、集英社は45%、講談社は36%、小学館は38%です。一方で編集プロダクションの人や業務委託のフリーの人など外部の人の出入りも多く、出版の仕事には社員以外の人もたくさん関わります。また、業界内の人材の移動も比較的多いとされています。大手出版社への門は狭くても、中小の出版社や編集プロダクションに入ってスキルを身につけて業界内で動くという道もあります。いずれにしても大切なのは、出版物に関わる仕事をしたいという強い気持ちを持っているかどうかだと思います。

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