ガソリンの小売価格をどうするか、いま国会で議論が続いています。ガソリンの小売価格には税金が含まれている一方、今は補助金も入っています。国は税金を取りながら、補助金を入れるというとてもややこしいことをしているのです。ガソリンの小売価格が高くなると、ガソリン税の約半分の課税をやめる「トリガー条項」もあるのですが、今はトリガー条項は凍結状態です。これを復活して減税しようと主張する政党もあり、国会で議論になっています。
ガソリンを製造販売している石油元売り会社にとっては、減税をすると需要増につながるため、喜ばしい話だろうと想像されます。しかし元売り会社は、価格が安くなればすぐにまたトリガー条項が凍結となることが考えられるとして、「市場が不安定になるのは困る」と凍結解除に反対しています。そもそも、人口減少や低燃費車の増加でガソリンの消費量は長期的に減少傾向にあります。石油元売り会社は目先のガソリン価格の上げ下げに振り回されるより、再生可能エネルギーなどの新しいエネルギー分野に力を注ぐ時期にきていると判断しているのです。国会での議論への反応は、石油元売り会社の脱石油への姿勢を示されているように感じられます。
(写真・九州唯一の製油所であるENEOS大分製油所=2023年10月)
ENEOS、出光、コスモが大手3社
石油元売り会社は、石油を輸入し、製油所で精製してガソリンなどの石油製品をつくり、それをガソリンスタンドなどに卸す企業です。戦後の高度経済成長時代は「石油の時代」で、石油の消費量が飛躍的に伸びたため、多くの石油元売り会社が存在していました。1980年代前半には15社に上りましたが、省エネが求められる時代になり、設備の過剰が明らかになってきました。1980年代半ばから業界の統合再編が始まり、30余年かけて統合再編が進み、現在は ENEOSホールディングス(HD)、出光興産、コスモエネルギーホールディングス(HD)、キグナス石油、太陽石油の5社になっています。このうち規模の大きいのはENEOS、出光、コスモの3社で、大手3社と呼ばれています。
(写真・ENEOSのガソリンスタンドの看板)
ファンドがコスモに再編迫る?
これで一段落と思われましたが、再編に向けての動きはまだくすぶっています。コスモは、旧村上ファンド系の投資会社に発行済み株式の20%超を握られ、ファンドの代表の村上世彰氏はコスモの今のあり方に異議を唱えています。村上氏側はコスモ側に風力発電を担うコスモ完全子会社の上場などさまざまな要求をしていますが、そのなかでコスモが今後ENEOSもしくは出光の傘下に入るか、製油所の全部もしくは一部を他社に譲渡することも場合によって検討すべきという主張をしています。コスモは村上氏側の提案に反対しており、12月14日に臨時株主総会を開き、村上氏側の株の買い増しに対する買収防衛策の発動を株主に問うことにしています。
(写真・コスモ石油のガソリンスタンド)
脱石油により製油所の統廃合が進む
日本の石油需要は減少傾向で、今後もその傾向は続くと見られています。日本の人口が減少することに加え、環境問題への対応から脱石油が進まざるを得ないと考えられるためです。こうしたことから、業界は製油所の統廃合を進めています。ENEOS和歌山製油所は10月に操業を停止しました。跡地には、持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代エネルギーの供給やグリーントランスフォーメーション(GX)関連企業の誘致、メガソーラー発電所の操業などが計画されています。また、出光傘下の西部石油の山口製油所は2024年3月をめどに停止することが決まっています。日本には1983年度に49か所の製油所がありましたが、2022年度末には半分以下の21か所に減っています。業界では、2040年にはさらに半減し、その先には5,6か所にまで減るという見通しが語られています。
(写真・ENEOS和歌山製油所の夜景=2023年8月)
コスモは洋上風力発電に取り組む
代わりに業界が力を入れているのが、新しいエネルギー分野です。コスモはコスモエコパワーという専業の風力発電会社を持ち、風力発電に積極的に取り組んでいます。すでに多くの陸上風力発電が稼働しており、これからは洋上風力発電への取り組みを強めることにしています。ENEOSは二酸化炭素(CO2)を分離・回収して圧縮し、地中に埋める技術である「CCS」に力を入れています。すでに電源開発と合弁会社を設立し、製油所や火力発電所から出るCO2の回収・貯留に向けた事業を始めています。出光興産は10月、トヨタ自動車と組んで、電気自動車(EV)向けの次世代電池「全固体電池」の量産に向けた技術開発をすると発表しました。全固体電池は、量産化できればEV普及の切り札になると考えられています。石油元売り会社はほかにも脱炭素のエネルギーとなるSAFや水素の分野にも取り組んでいます。
(写真・協業を発表したトヨタ自動車の佐藤恒治社長(左)と出光興産の木藤俊一社長=2023年10月)
安定を求めず、やりがいを求める時期か
石油元売り会社といえば、どうしても石油をイメージし、中東情勢の緊張や国会でのガソリン税や補助金の議論との関連を思い浮かべてしまいます。しかし実際には、石油は仕事の一部分になりつつあります。世界のエネルギー全体の流れを見ながら、新しいエネルギーについて幅広く研究開発したり、企画したり、営業したりする仕事がメインになりつつあります。仕事の舞台は国内だけでなく、海外にもあります。変化の激しい時代ですので、安定を求めることはできませんが、やりがいのあるおもしろい時期を迎えているといえるのではないでしょうか。
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