業界研究ニュース 略歴

2023年02月03日

苦境の電力業界 値上げ、原発政策転換、再エネ加速でどうなる?【業界研究ニュース】

エネルギー

 電気代が上がっています。ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍からの回復で、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)や石炭などの価格が上がっているためです。それでも今の電気代ではコストを回収できず、多くの電力会社が赤字に陥っています。大手電力7社は電気代のさらなる値上げを国に申請しました。そうした中、岸田政権は原子力発電所の政策を転換しようとしています。2011年の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故によって「原発の60年を超える運転や新増設を認めない」としていた方針を変え、原発を積極的に活用する方針を打ち出しました。電力業界にとっては経営の自由度が増えるため、歓迎できる動きです。ただ、原発活用には危険性や高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないことなどから反対も強く、実際にどれだけ活用されるのかは不透明です。ほかにも太陽光や風力などの再生可能エネルギーを増やすことや送電網整備など、電力業界は多くの課題を抱えています。公正な競争を阻害する不祥事も相次いでいます。電力会社は私企業で、自由化による競争も激しくなっています。しかし依然として公共性は高く、社会の声に耳を傾けながら課題を解決していく姿勢が求められます。

(写真・能代港沖に並ぶ洋上風力発電の風車=2022年12月9日、秋田県能代市、朝日新聞社機から)

新電力が20%超える

 電力業界には、発電、送配電、小売りの三つの分野があります。かつては地域独占の10社がこの3分野のすべてをおこなっていました。競争を促すために自由化が打ち出され、1995年に発電部門が、2016年には小売り部門が自由化され、2020年には発電と送配電が別会社に分離されました。自由化はひとまず終わりましたが、今も電力大手とされるのは、かつて地域独占だった東京電力関西電力中部電力九州電力東北電力中国電力北海道電力四国電力北陸電力沖縄電力の10社で、いずれも3分野をグループ内で展開しています。一方、自由化によって小売りを中心に新電力と呼ばれる電力会社が多く誕生し、小売部門では全販売電力量の20%を超えるようになっています。

大手9社のうち8社が赤字

 電力会社の業績はここにきて悪化しています。2022年4~12月期の連結最終決算は大手9社(沖縄電力を除く)のうち四国電力以外の8社が赤字でした。燃料高が響き、火力発電比率が高い電力会社ほど赤字額が大きくなっています。東京電力は火力比率が77%と高いうえ、福島第一原発事故の国の賠償基準が見直されたことを受けて損害賠償費を特別損失として計上したこともあり、6509億円もの最終赤字となりました。通期でも中部電力以外の8社が赤字の見通しです。新電力はおもに卸売市場から電気を調達しており、卸売市場の電力料金も高騰しているため、経営が悪化。すでに倒産したり撤退したりする会社も出ています。

自由料金だけでなく規制料金も値上げ

 家庭向け電気料金には自由料金のプランと規制料金のプランがあります。自由料金には火力発電の燃料の輸入価格を毎月反映させる仕組みがあり、燃料価格が上がればそれを料金に反映させることができます。ただ、反映させる上限が決まっていて、超えた分は電力会社の負担になります。すでに上限を超えて負担が大きくなったことから、大手7社は規制料金の値上げを国に申請しました。規制料金は国の認可が必要なためです。現在、経済産業省公聴会が各地で開かれていますが、消費者の反発は強く、電力会社の申請通りの値上げが実現しない可能性もあります。

原発の方針転換は再稼働もにらむ

 岸田政権は、原発の運転期間を60年より延ばすことや新増設などを認める方針を打ち出しました。地球温暖化対策で二酸化炭素(CO₂)の削減に取り組むには火力発電を減らす必要があり、減らした分を再生可能エネルギーと原発を増やすことで補おうという狙いです。また、こうした方針を決めれば、原発の再稼働にも踏み切りやすくなるという狙いも見えます。原発の再稼働が進めば、電気料金も下げることができるとみているわけです。

明るいニュースは洋上風力発電

 いろいろな課題を抱えて苦闘している電力業界ですが、明るいニュースもあります。洋上風力発電が急ピッチで動き出していることです。2022年12月には秋田県の能代港沖で、2023年1月には秋田港湾で洋上風力発電の営業運転が始まりました。この2カ所で一般家庭約13万世帯分の電気をつくる能力があります。秋田県沖ではほかにも2カ所で大規模な洋上風力発電が計画されています。さらに千葉県、新潟県、長崎県の沖でも計画が動き出しました。これらの計画には大手電力会社が参画しています。また、政府は日本の領海(12カイリ=約22キロ内)だけでなく排他的経済水域(EEZ、200カイリ=約370キロ内)にも設置できるよう法整備する検討に入りました。政府も本腰を入れてきた表れで、洋上風力発電が再生可能エネルギーの切り札になりそうな勢いです。

安定性はなくなるが公共性はある

 電力会社といえば、かつては地域の「殿さま」と言われ、安定性や公共性から就職人気の高い業界でした。しかし、自由化が進み、競争の激しい業界になり、不祥事も増えました。最近では、大手電力会社が自社以外の小売事業者と契約している顧客情報を盗み見していた問題や大手電力会社の間で営業地域を話し合って決めていたカルテル疑惑などが明らかになり、批判されています。電力業界にはかつてほどの安定性はなくなったかもしれませんが、公共性は今も変わらずあります。業界で働く人には、公共性を意識した公正な競争が求められています。

GXで「原発回帰」へ大転換 GXの基本知り、原発の是非考えよう【イチ押しニュース】も読んでみてください。

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別