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社会の脱炭素化をめざす「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案」を政府がまとめました。太陽光や洋上風力発電などの再生可能エネルギーの活用・普及策とともに、原子力発電所の新規建設や60年を超える運転を認める「原発回帰」を打ち出したのが最大のポイント。2011年の東京電力福島第一原発事故以来の政府方針の大転換です。脱炭素は地球温暖化防止に向けてあらゆる業界・企業が取り組まなければならない最大のテーマですから、就活生のみなさんもGXの基本を押さえておきましょう。さらに、「地震大国」であり、最悪の原発事故を起こした日本で原発に頼り続けることの是非についても考えてみてください。
就活ニュースペーパーは来週の更新をお休みし、年明けは1月4日から再開します。年が明ければすぐに就活本番です。冬休みを有効に活用して準備を進めてください。(編集長・木之本敬介)
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GXって?
デジタル化による変革を意味するDX(デジタル・トランスフォーメーション)はかなり定着していますが、「グリーン・トランスフォーメーション」は最近登場した言葉ですから、まだ聞き慣れない人も多いと思います。Green Transformationの「超えていく」を意味するtransを「X」と略して「GX」と呼ばれます。GXは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料依存から脱し、クリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る取り組みのこと。日本政府は2050年にカーボンニュートラル(脱炭素)社会の実現を掲げています。気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量削減を経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みです。
GX経済移行債20兆円で促進
そのGXを進めるために政府が12月22日にまとめたのがGX基本方針案です。「脱炭素投資の成否が、企業・国家の競争力を左右する時代に突入している」とし、原子力のほか、燃やしても二酸化炭素(CO₂)を出さない水素・アンモニア、蓄電池、鉄鋼、自動車、送電網の増強など22分野の行程表を示し、150兆円超のGX投資を官民で実現するとしました。政府は2023年度から10年間で新たな国債「GX経済移行債」(仮称)を計20兆円規模で発行し、民間投資を促す支援策に充てます。CO₂排出に課金して削減を促す「カーボンプライシング(炭素課金)」の活用も明記。化石燃料を輸入する業者への「賦課金」を2028年度に導入し、2033年度には電力会社に排出枠を有償で買い取らせる「排出量取引」を始めます。ただ、実効性は未知数です。政府は2030年度の温室効果ガス排出を2013年度比で46%減らす目標を掲げていますが、カーボンプライシングの本格導入が2033年度からでは遅すぎるとの声もあります。
経済界のGXへの取り組みについて、もっと知りたい人はこちらを見てください。
●経団連サイト「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」
「将来にわたって原子力を活用」
大きな議論になりそうなのが「原発回帰」です。基本方針案では、発電時にCO₂を出さない原発を再エネとともに「最大限活用する」として二つの政策転換を打ち出しました。一つは、福島の大事故以来タブーとされてきた原発の新規建設です。歴代政権は原発の再稼働は進めてきましたが、古くなった原発の建て替え(リプレース)には踏み込みませんでした。岸田文雄首相もこれまで「(建て替えや新増設を)現時点では想定していない」と言ってきましたが、基本方針案では「将来にわたって原子力を活用するため、建設に取り組む」と明記しました。廃炉を決めた原発の建て替えは、政府が「次世代革新炉」と呼ぶ改良型の原発を想定しています。原発のない地域に建てる新設や増設についても「検討していく」としました。
もう一つは原発の運転期間の延長。原発事故の教訓をもとに原則40年、最長20年延長できると定めたルールの骨格は維持しつつ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除きます。仮に10年間停止した場合、運転開始から70年まで運転できるようになります。
ウクライナ危機による電力料金高騰と電力不足で…
今回の大転換の背景にあるのは、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした電気料金の値上がりと電力不足です。原油や天然ガスの価格が高騰し、火力発電のコストが上がりました。政府は原発の稼働で電気料金を抑えられると説明。官邸幹部は、原発は安定電源だとして「原子力なしのGXはありえない」と語ります。ただ、すでにある原発の再稼働とは違い、新規建設は今後長期にわたって原発に依存することを意味します。政府のエネルギー基本計画にある「可能な限り依存度を低減」という方針に反することになりかねません。原発依存の是非は国民的な議論が必要な大テーマですが、首相が原発推進策の検討を指示したのは8月下旬。直前の参院選では建て替えなどの考えは示さず、選挙後に原発推進派が大半を占めるGX実行委員会(議長・岸田首相)で検討を進め、わずか4カ月で結論を出しました。しかも、新規建設は早くても2030年代で、今の電力危機の解決策にはなりません。原発事故後に安全対策が強化され、建設には1兆円規模の費用がかかります。原発の使用済み核燃料から出る「核のごみ」を捨てる場所も決まっていません。福島の事故後に「脱原発」を掲げてきたドイツも、ウクライナ危機を受けて年内を予定していた原発の全基停止を見送りましたが、「地震大国日本」ではリスクがけた違いです。
原発推進は再エネの足かせにも
脱炭素の王道は再エネの普及ですが、原発の推進がその足かせになっているとの見方があります。自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は「(日本で)再エネの導入が加速しないのは、政策で原発や火力の既得権益を守ろうとしているからだ」と政府の姿勢を批判しています。政府は国民の意見を募るパブリックコメントを始め、基本方針案を閣議決定。原発の運転延長や移行債の発行などに必要な関連法案を来年の通常国会に提出する予定です。今後の議論に注目するとともに、「自分事」として考えてみてください。
(写真・国内初の大規模な洋上風力発電所が営業運転を始めた=2022年12月22日、秋田県能代港湾)
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