2024年10月17日

広がるスポットワーク しかし働き手にリスクも? 知っておこう【就活イチ押しニュース】

テーマ:社会

 人手不足の深刻化をうけ、市場が活性化しているのが「スポットワーク」です。10月10日の就活イチ押しニュースでも少しとりあげましたが、スマートフォンのアプリ上で短時間の仕事に応募するという働き方で、「タイミー」や「シェアフル」などの企業が急成長をとげています。

 使い勝手のよいサービスですが、スポットワーク経験者の51.4%が勤務先でなんらかのトラブルにあったという調査結果も出ています。アプリを運営している事業者は、たとえばけがや事故などの労働災害があったときの責任は負いませんし、正社員やパートと違いスポットワークは働く場所に行く途中にけがをしても労災扱いにならないなど、知っておかなければならない特徴があります。今後みなさんがスポットワークを利用する可能性、業界に就職する可能性などもふまえ、朝日新聞の記事をもとに理解を深めておきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・iStock)

労災認められるも3千円の見舞金だけ

 朝日新聞では不定期で、労働や就職活動にまつわるニュースをとりあげる「働くってなんですか」という連載を展開しています。10月14日の記事「『スポットワーク』登録急増2千万人 労災や賃金『働き手にリスク』」では、スポットワークの「落とし穴」について取り上げていました。

 記事では、スポットワークのアプリで宅配ピザの仕事をしていた男性のエピソードが紹介されています。この男性は配達中にバイクの転倒事故にあい2週間入院、いまも杖が手放せないといいます。安全講習は、仕事の前に15分程度のビデオを見ただけでした。この事故は労災として認められましたが、店長は見舞金3千円を払っただけだそうです。男性は個人で加入できる労働組合に入り、運営会社に補償金を求めているそうです。
(図表はすべて朝日新聞社)

通勤中のけがは労災にならない可能性も

 通常、仕事中や通勤中に病気やけがになったときは「労働災害」となり、労災保険による補償が適用されます。労災保険の保険金は、労働者をまもる義務を負っている会社が負担します。これは正社員でもアルバイトでもかわりません。

 一方スポットワークの場合、働く人とアプリを運営している会社の間には、雇う・雇われるという雇用関係はありません。雇用関係があるのは、アプリに求人を出して仕事を依頼した企業との間だけです。労災保険の保険料を支払うのもアプリ運営会社ではなく、働いた先の企業になるわけです。また、賃金を支払う義務があるのもアプリ運営会社ではなく、働いた先の企業です。賃金が条件通り支払われなかったり労災が起きてトラブルになったりした際、アプリ運営会社が責任を取ってくれるわけではありません。

 また、労働災害はあくまで雇用関係にあり、労働契約を結んだ際に認められるものです。今回の記事によればスポットワークの場合、労働契約が成立するのは働き始めたとき、とされているようです。そうすると基本的には、働く場所に行く途中にけがをしても基本的に労災にはならないのです。これも、スポットワークを利用する際には知っておくべき知識と思います。

労働契約ではなく業務委託契約のことも

 また記事によれば、スポットワークによっては求人情報を出した企業との契約が、労働契約ではなく業務委託契約の場合もあるそうです。この場合、企業側は原則、雇用主としての責任を追いません。労働契約を結んだときの雇用主は労働関係の法令を守る必要があり、たとえば残業代を支払う義務があったり不当な解雇ができなかったりといった制約が課せられます。一方、業務委託の場合はそういった制約はありません。トラブルになった際に大きな違いが出てきますので、必ずチェックする必要があります。

 記事では、4日間の仕事がマッチング成立した男性が、初日の勤務を終えたあとにアプリ運営会社からキャンセルの通知があった事例も紹介しています。企業側都合のキャンセルだったにもかかわらず、賃金は初日分しか支払われませんでした。男性は労働組合に加入して残り3日間の賃金を支払うよう求めましたが、企業側は労働契約は初日だけしか成立していないとして支払いを拒んできました。店舗でQRコードをアプリで読み込むと出勤したことになり、この時点で労働契約が成立する仕組みだそうです。交渉の結果、3日間の賃金は解決金として支払われたそうですが、現時点ではこういうトラブルが起きる可能性もあるサービスであることは頭に入れておく必要があります。労働契約、業務委託契約の違いとともに抑えておきましょう。

無期限停止に厚労省が指導

 朝日新聞ではスポットワークをめぐる動きとして、働き手の利用を無期限に停止したことに対して、厚生労働省が指導したことも報じています。アプリ事業者のなかには、連絡せず仕事に就かないとその後は無期限でアプリから応募できなくなる決まりにしているケースがあります。求人企業やほかの利用者に迷惑がかからないようにするためのルールです。しかし、多くのアプリ事業者は厚労相から「有料職業紹介事業者」の許可を受けており、違法な内容以外は求職の申し込みをすべて受理する義務があるのです。そのため厚労省からの指導が入り、業界ではすでに利用停止期間を変更したり、変更を検討したりしているとのことです。

 スポットワークの市場は急拡大しています。その動きにともなってこういった様々な問題点があぶり出されてきており、いまは制度が整備されていく過渡期にあるといえます。スポットワークを学生時代に利用したり、就職した会社でスポットワークを利用したり、あるいはスポットワークをサービスとして展開している企業に就職したり、これから皆さんが何らかの形でこの業界に触れる可能性は高くなっていると思います。今回の記事をしっかりチェックして、正確な知識を身につけておきましょう。

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