2024年10月10日

人手不足が深刻化、追い風となる業界は? 就活のあり方も変わる【就活イチ押しニュース】

テーマ:経済

 就職活動は、深刻化する人手不足を背景に学生有利の「売り手市場」が続いています。少子化に加えて、コロナ禍があけてインバウンド需要が見込める業界を中心に採用意欲が高まり、さらに人手不足感が強まっています。2040年に1100万人もの人手不足に陥るという試算も出ています。

 人手不足は特に運輸、建設、介護といった社会を維持するために必要不可欠な分野で深刻となっています。日本の社会がいまのように維持できなくなる未来も見えている、ということです。見方を変えれば、この課題を解決できる仕組みやテクノロジーが開発されれば、大きな成長分野となる、ともいえます。すでにそういった成長の芽になりそうなニュースも、いくつか出てきています。

 人手不足を背景に、内定辞退者をつなぎとめるなど就活のあり方も変化してきています。これからの就職活動、今後の経済の動向をみるうえでも、「人手不足」はつねに注目していきたいキーワードです。(編集部・福井洋平)
(イラストはiStock)

運輸業、建設業は8割が「人手不足」

 中小企業を代表する団体である日本商工会議所は9月、中小企業の人手不足に関する調査結果を発表しました。人手が「不足している」と答えた企業は63.0%で3年連続で6割を超えています。業界別にみると運輸業が83.3%と最も多く、次いで建設業が79.2%、宿泊・飲食業が72.7%、介護・看護業が63.9%という順番となっています。運輸、建設業界は今年4月から時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「2024年問題」の影響が大きく、人手不足感が強まっています。

 一方、今年4月に厚生労働省が発表した2023年度平均の有効求人倍率は、3年ぶりに低下して1.29倍となりました。人手不足のなかで求人が減っている理由として、厚労省の担当者は人手不足対策として人を採用する代わりに飲食店でのタッチパネル注文や配膳ロボット、コンビニやスーパーでのセルフレジなど、機械を導入する企業が増えた点を指摘しています。ファミレスで配膳ロボットが料理を運んでくる光景も、ごく日常となりました。また、中国景気の悪化や認証不正が発覚したダイハツ工業の出荷停止などが影響した製造業の求人減も要因のひとつとみられています。人手不足は日本全体の問題ですが、業界によってその深刻度は異なっていることに注意が必要です。
(写真・高松市の老舗のうどん店で導入されたセルフレジ=2023年5月/朝日新聞社)

新技術で人手不足に対応する

 運輸、建設、介護といった人手不足がより深刻な業界では、そのギャップを埋めるための技術革新が特に求められています。最近の朝日新聞の記事から、そういった動きにつながるニュースを抜粋します。

・建設現場の人手不足が深刻化するなか、点検や修繕などをより効率良く行える新技術が注目されています。大手ゼネコンの鹿島は高速道路の更新工事で、自社が開発した大幅に工期を短縮する新工法を導入、作業時間は従来の6分の1程度に短縮できるそうです。同じく大手ゼネコンの大成建設も、橋やダムなどで使われているコンクリートの点検を効率的に行える新技術を開発しました。
(記事はこちら

・運転手がいない「レベル4」の自動運転バスが、この夏から羽田空港近くの複合施設で運行されています。国内の一般道では福井県永平寺町に続き2例目で、民間企業主体では初めてです。運行会社は将来的に、人手不足が深刻な地方の交通事情の改善にもつなげたいと意気込んでいます。(記事はこちら
(写真・「レベル4」での運行が始まった自動運転バス=2024年8月、東京都大田区/朝日新聞社)

・地方の小さな船舶修繕会社が、洋上にいる船の航行データを陸上からリアルタイムで確認できるシステムを作りました。国土交通省によると国内で稼働する漁船の日本人船員は10年で約3割減ったといい、人手不足で出航もできないケースもあるそうで、同社は5年前から船の状況を遠隔でも把握できるシステムの開発に着手。経済産業省などの支援を受けながら今年4月に商品化しました。(記事はこちら

・厚生労働省は2024年版の労働経済白書で、年々状況が悪化する介護分野について全国の8678事業所を対象に、人手不足の緩和に効果的だった取り組みを調査。人手が「大いに不足」「不足」している場合は、入浴を補助する機器や、車いすのまま利用できるリフトなど、介護福祉機器の導入による職員の身体的な負担軽減が効果的だったそうです。一方、「やや不足」の場合は、標準的な水準よりも10%ほど高い賃金や、ボーナスの支給など、魅力的な労働条件の提示が有効という結果が出ました。(記事はこちら

 運輸や建設、介護業界は社会を支える仕事ですので、ニーズがなくなることはないでしょう。それだけに、人手不足を打開する技術や仕組みが生み出されれば、高い注目を集めることは間違いありません。
(写真・iStock)

スポットワークにも注目

 労働力不足で注目されているサービスが、単発で短時間働ける「スポットワーク」の仲介業です。スマホなどで働き手と企業をつなげる事業で、2018年からサービスをはじめた「タイミー」をはじめ人材系やIT系企業が次々と参入してきています。利用された方も多いのではないでしょうか。

 一方で、介護施設にマッチングアプリで採用された「日雇い」職員が、入所者に暴行して逮捕されるという事件が起きています。人手不足のためマッチングアプリで日雇いの職員を採用するようになったものの、研修を十分に受けさせることができず、事件につながったとみられています。スポットワークの拡大と労働力の質の担保をどう両立させるかは、これからの課題となってくるでしょう。

内定辞退者に入社の道ひらく企業も

 人手不足は、就職活動にも変化を及ぼしています。

 スーパーを運営するイオンリテールは、9月から退職理由を問わず再入社ができる新しい人事制度をスタートしました。これまでは結婚や出産、育児や介護などやむを得ない事情で退職した人を対象に再入社の制度をもうけていましたが、新制度では転職者も対象とし、さらに新卒採用時に内定を辞退した新卒3年以内の人に対しても、採用選考を経ないで入社を可能としました。売り手市場で内定を辞退する学生も増えていますが、企業側としてはそういった学生との縁を切らず中途入社の道を開いておくことで、人手不足に対応しようとしているのです。

 人手不足は当面続き、社会や就活のあり方にも大きな影響を及ぼしていくことが予想されます。ぜひ高い関心をもって、関連ニュースをチェックしてみてください。

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