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2023年11月16日

撤退続出から一転、防衛費増で受注が膨らむ防衛産業【業界研究ニュース】

その他

 防衛に関わる武器やシステムなどを製造している大手重工や電機メーカーが受注を増やしています。9月中間決算の発表で明らかになりました。政府が昨年、2027年度までの5年間の防衛費の総額を、これまでの5年間の1.5倍となる43兆円に増やす方針を決定したことを受けて、防衛省からメーカーへの発注が一気に増えているためです。また、利益率が低いとして撤退する企業が相次いでいたことを受け、防衛省は発注の際に見積もる企業の利益率を従来の8%程度から最大15%に引き上げました。

 さらに、武器輸出を制限している政府の「防衛装備移転三原則」の運用指針を見直す動きが出ていて、輸出できる武器の範囲や地域が広がる見通しです。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのパレスチナでの戦闘で世界はきな臭くなっており、日本も防衛にもっとお金をかけるべきだという流れになっています。そのため、少し前まで元気がなかった防衛産業が一転成長産業に変わりつつあるのです。

(写真・川崎重工業が建造した潜水艦「らいげい」=2023年10月17日、神戸市中央区)

三菱重工など7社が主要企業

 防衛産業の業界団体としては、日本防衛装備工業会があります。2023年9月現在で134社が加盟しています。同会が設立された1988年以降、会長を務めた企業は7社あります。うち3回務めたのが三菱重工業IHI三菱電機川崎重工業の4社で、2回務めたのがNEC東芝日本製鋼所の3社です。この7社が日本のこれまでの主要な防衛装備品メーカーといえます。ただ、こうした主要企業のほかに下請け企業のすそ野は広く、戦闘機なら約1100社、護衛艦なら約8300社に上るといわれます。

NECなど電機メーカーも受注上位

 2022年度の防衛装備品の契約額の上位5社は次のようになっています。1位は次期戦闘機や護衛艦などを受注した三菱重工業の3652億円で、2位は潜水艦などを受注した川崎重工業の1692億円。3位は宇宙状況把握レーザー測距装置などを受注したNECの944億円。4位は多機能レーダーや中距離地対空誘導弾などを受注した三菱電機の752億円。5位は赤外線探査装置などを受注した富士通の652億円となっています。
(データは防衛装備庁「中央調達における令和4年度調達実績及び令和5年度調達見込」から)

(写真・三菱重工業などが開発し2000年から量産が開始されているF2戦闘機=2023年11月15日、岡山空港)

各社とも人員や設備投資を増やす計画

 防衛産業の市場規模はこれまで約3兆円とされてきましたが、防衛費の増額によりその規模は膨らみつつあります。2023年9月期の中間決算発表の際に三菱重工業の泉沢清次社長は、上半期の航空・防衛・宇宙事業の受注高は、前年と比べて約5倍の9994億円と過去最高になったことを明らかにしました。川崎重工業も防衛事業の2023年度の受注高の見通しが4600億円程度となり、前年度より約2千億円増えるとしています。NECも防衛と航空宇宙領域を合わせた事業の上半期の受注高が前年比で40%増え、その要因は防衛領域が好調だったためとしています。こうしたことから、各社とも防衛事業部門の人員増や設備投資の増額を計画しています。

(写真・三菱重工業の泉沢清次社長=2019年11月)

共同開発中の次期戦闘機の第3国輸出も解禁へ

 追い風は、輸出面でも吹いています。太平洋戦争で敗戦し、平和国家として再出発した日本は「武器輸出三原則」という指針を設け、武器の輸出を原則的に禁止していました。しかし、政府は2014年に「防衛装備移転三原則」を決め、日本の安全保障に資する場合などの一定の条件下で輸出できるように制限をゆるめました。さらにここにきてさらに制限をゆるめ、他国企業の許可を得て日本国内で製造した「ライセンス生産品」の完成品について、ライセンス元の国に対しては輸出を解禁する方向を打ち出しています。ライセンス生産品については現在、アメリカ企業がライセンス元である限り、部品のみを輸出することができることになっていますが、これからは完成品もライセンス元の国に輸出することができるようになります。また、現在イギリス、イタリアと共同開発中の次期戦闘機について、第3国への輸出を解禁する方向性も打ち出しています。メーカーにとっては、市場が世界に広がることになり、発展が期待できます。

防衛産業の必要性やあり方をしっかり考えよう

 防衛産業はこれまで、確実に利益は見込めるが、成長性のあまりない産業と考えられていました。市場規模は防衛予算で決められていて、少しずつしか増えてこなかったためです。それが一気に予算が増額することや輸出制限が緩むことで市場が広がることから、成長産業に変わってきています。また、防衛の領域が宇宙やサイバー分野にも広がっていて、そうした領域の技術開発は民生品にも生かせる可能性があり、民生品との相乗効果も期待できます。ただ、防衛産業は人によって受け取り方がわかれる産業でもあります。人の命を奪うものをつくると考えるか、人の命を守るものをつくると考えるかの違いかと思います。防衛産業に関心のある人は、防衛産業の必要性やあり方について自分の考えをしっかりまとめてから就活に臨むのがいいと思います。

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