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2020年04月03日

日銀短観でわかる新型コロナのダメージ大きい業界【業界研究ニュース】

その他

 日本銀行が全国約1万の企業に景気の良し悪し(景況感)をきく全国企業短期経済観測調査(日銀短観)が4月1日、発表されました。3月に調査した結果です。主要企業の数字をみると、景気が「悪い」と答えた企業が増え、「良い」と答えた企業より多くなりました。これは7年ぶりです。もちろん新型コロナウイルスの感染拡大の影響です。調査は業種別にまとめていますので、内容を見ると業種ごとにダメージの大きさが分かります。3月段階で最もダメージの大きいのは宿泊・飲食サービスです。訪日外国人客が激減したり、外出の自粛が呼びかけられたりしたためです。ほかに、遊園地などを含む対個人サービス、航空会社などを含む運輸・郵便などの景況感が急激に落ち込んでいます。さらに先行きの景況感では、鉄鋼や自動車も大きな落ち込みを見込んでいます。リースなどの物品賃貸や通信、情報サービスは3月段階では落ち込んでいませんが、こうした業種も先行きは大きな落ち込みを予想しています。

宿泊・飲食サービスが圧倒的に落ち込み大きい

 日銀短観では、景気が「良い」と答えた企業から景気が「悪い」と答えた企業を引いた数を指数にして出しています。今年3月段階と前回調査の昨年12月段階を比べると、宿泊・飲食サービスがプラス11からマイナス59になりました。変化幅はマイナス70にもなります。ほかの業種と比べても圧倒的に大きな落ち込みになっています。「良い」と答えていた企業の多くが3カ月で「悪い」に転じたことを示しています。宿泊・飲食サービスの多くは観光に関わりますので、訪日客の激減が響いています。すでに倒産した旅館やレストランが出ていますし、廃業という形で経営を辞めてしまった旅館・ホテルや飲食店も増えています。調査は、3月上旬に答えている企業が多く、今調べると、もっと落ち込んでいる可能性があります。

(写真は、普段は会社員でにぎわう居酒屋だが……=2020年3月16日、東京都中央区)

テーマパークなども大きな落ち込み

 次いで変化幅の大きいのが対個人サービスです。変化幅はマイナス31になります。ここには、テーマパークや遊園地といったレジャー施設が含まれています。クレジットカードを利用した消費額を調べた別の機関の調査結果によると、遊園地は2月後半には前年比でマイナス6.7%だったのが、3月前半にはマイナス53.1%と急減しています。ディズニーリゾートユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどほとんどのテーマパークや遊園地が休業に入ったことが影響しています。

(写真は、ほんの1カ月前まで大勢の外国人観光客や国内来園者であふれていたユニバーサル・スタジオ・ジャパン前の商業施設。今では人影もまばらだ=2020年3月3日、大阪市此花区)

固定費大きい航空会社は資金不足に

 3番目に変化幅が大きいのは、運輸・郵便です。マイナス24となっています。中でも航空会社のダメージが深刻です。全日空(ANA)、日本航空(JAL)とも、国内線で2割前後、国際線は8割以上減便しました。減便はこれからさらに増えそうです。航空会社は飛行機のリース料や人件費といった固定費が大きいため、便数や旅客数が大幅に減ると、あっという間に資金不足になります。全日空は客室乗務員6400人の一時帰休を決めたり、メガバンクなど7行から1000億円の借り入れを検討したりしています。日本航空も社債を前倒しで発行するなど資金の手当に追われています。航空会社ほど深刻ではありませんが、鉄道会社もダメージを受けています。JR東海は3月1日~25日の東海道新幹線の利用者が前年同期比で55%減ったと発表しました。「のぞみ」の一部運休も実施しています。バスやタクシーなども厳しくなっています。

(写真は、減便の影響で羽田空港の駐機場にずらりと並んだ航空機=2020年4月2日)

造船、鉄鋼はコロナが追い打ち

 製造業では造船・重機がマイナス22で3月段階では変化幅が最も大きくなっています。造船は中国や韓国に圧迫されてもともと構造不況ですが、コロナショックで世界の海運が急停止している影響も出ています。3月末には国内造船首位の今治造船と2位のジャパンマリンユナイテッド資本提携することの契約を交わしました。国内の業界再編が進もうとしています。繊維もマイナス20で落ち込んでいます。中国の工場が新型コロナ問題で稼働が落ちた影響と考えられます。鉄鋼もマイナス13です。鉄鋼も造船同様、構造的な需要減に新型コロナが追い打ちをかけた格好です。業界トップの日本製鉄が2月に呉製鉄所の閉鎖や和歌山製鉄所の高炉休止を発表、2位のJFEホールディングスも3月末に高炉の休止を発表しました。

(写真は、2023年度をめどに休止が決まったJFEスチール東日本製鉄所京浜地区の第2高炉=川崎市、同社提供)

明らかに景気が良くなっている業界なし

 国内の製造業で最も規模が大きいのは自動車です。自動車は3月時点の変化幅はマイナス6と大きくありませんが、世界の需要がどんどん落ちていますので急速に深刻になっています。日系メーカーは国内の工場を止めて生産を大きく減らしています。ほかにも原油価格が急落している石油精製業界も先行きは厳しいとみられています。この状況で明らかに景気が良くなっている業界は短観からはうかがえません。細かく見ていけば、ネット通販の業界やオンライン授業に関わる業界などには追い風でしょうが、経済全体が縮小すれば追い風とばかりは言っていられなくなります。新型コロナの流行が長引けば、日本経済も世界経済も大変なことになるのは間違いありません。

(写真は、オンライン授業をする教諭。モニターには児童らの様子が映る=2020年3月13日、宮城県・女川小学校)

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