国内生命保険最大手の日本生命保険が外貨建て保険の一部の販売を3月16日から休止します。「コロナショック」を受けた市場の混乱でアメリカの長期国債の金利が急低下し、顧客に魅力的な利回りを確保する運用が難しくなったと判断したためです。生保業界は、貯蓄性の高い一時払い生命保険については比較的金利の高い米国やオーストラリアの債券で運用する外貨建ての商品を主流にしています。しかし、コロナショックで米国やオーストラリアの金利も下がっており、外貨建て保険は利回りのいい商品設計が難しくなってきました。しかも、ここにきて円高米ドル安、円高オーストラリアドル安が急速に進んでいて、顧客の為替差損が膨らんでいます。生命保険会社の経営を支えてきた外貨建て保険は急速に商品力を失ってきました。生保会社には強い逆風が吹き始めています。
(写真は、生命保険会社が販売する外貨建て保険のパンフレット)
生保が商品を作り、銀行も売る
外貨建て保険とは、保険会社が契約者から預かった保険料を米ドルやオーストラリアドルなどの外貨建ての資産で運用する商品です。かつては円建ての商品もありましたが、日本の超低金利政策によって利回りが期待できず、ほぼなくなりました。代わって主流になったのが、より高金利の米国債やオーストラリアの社債などで運用する外貨建て保険です。顧客が最初に一括で払う保険料は平均1000万円程度で、外貨に換えて運用し一定期間が経てば外貨のまま、あるいは外貨を円に換えて償還されます。余裕資金を持った高齢者が老後資金のために契約するケースが多いようです。生保が商品を作り、生保自身が売る場合と銀行が窓口で売る場合があります。銀行による販売額は2019年4~12月で約2兆3000億円となっています。
苦情が増えていた商品
外貨建て保険に対しては、最近、顧客からの苦情が増えています。生保や銀行が力を入れて販売しているため、高齢者に為替リスクがあることなどの説明を十分にしていなかったり、手数料を差し引いて計算する実感よりも高い利回りを表示したりしていることが苦情につながっています。背景には、ここ1~2年、じりじりと円高ドル安、円高オーストラリアドル安が進み、円建てで含み損を抱えた人が増えたこともあります。国民生活センターによると、2018年度のトラブルの相談は538件で、2014年度から約3.7倍に増えました。こうしたことから、生命保険協会は2022年から生保や銀行の販売担当者向けの専用資格を設けることにしています。
ただ、ここにきて業界はこれまで以上の壁にぶちあたっています。コロナショックにより、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を0.5%幅、緊急に利下げしました。米長期金利は初めて0%台になりました。オーストラリアの金利も下がっています。こうなると、米国やオーストラリアで運用しても高い利回りは期待できません。また、日本との金利差が縮まれば、お金の流れは円高の方向に動き、顧客は為替差損を抱える可能性が高くなります。利回りの低い商品しか設計できず、売ったとしても為替差損を抱えた顧客からの苦情が増える恐れがあります。日本生命はこうしたことから外貨保険の一部の販売を停止することにしたわけで、ほかの生保にも追随する動きが出るのではないかと思われます。
不良債権増える?
コロナショックは、観光や運輸などの業界に直接的なダメージを与えていますが、それだけではありません。一見関係なさそうな生保業界や銀行にも間接的にダメージがあります。金利がますます低くなることによって外貨建て保険の売れ行きが鈍ることがそのひとつです。さらに不況が長引けば不良債権が増えるという形でのダメージも想定されます。生保や銀行の業績からも目が離せません。
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