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2020年04月17日

コロナでANA、JALが資金難に!航空ならではの事情とは【業界研究ニュース】

運輸

 新型コロナウイルスは多くの業界に大きな打撃を与えています。中でも大きな打撃となっているのが航空業界です。2月に減り始めた乗客は3月、4月と日を追うごとに減り、ほとんどの便で機内は空席が目立つようになっています。便数も国内線で5~6割、国際線では9割も減らさざるをえなくなっています。今年1月まで訪日外国人の増加などを受けて業績の好調が続き、就職人気も高かった業界ですが、あっという間に様変わりしました。航空業界は固定費の高いハイリスクハイリターン型の業界ですが、しばらく忘れていたハイリスクの部分をまざまざと見せつけています。例年なら最需要期の夏までに今の状況が収まらなかった場合は、各社は深刻な経営問題になる可能性があります。

(写真は、減便の影響で駐機場や誘導路に駐機する旅客機=2020年4月15日、羽田空港)

過去にも大きな落ち込み

 新型コロナ禍で航空業界のダメージが大きいのは二つの理由からです。ひとつは乗客数が社会的リスクに敏感に反応することです。航空機は空を飛んで遠くまで移動する乗り物です。生活を維持するために毎日のように乗る鉄道やバスと違って、観光や特別なビジネスのために使うことが多い乗り物です。しかも、空を飛ぶことや長時間密閉空間にいることで心理的に不安になる部分があります。だから、戦争、テロ、感染症の流行、大不況などがあると、敬遠されるのです。これまでも1985年にあった日航ジャンボ機墜落事故のあと、2001年の9・11世界同時多発テロのあと、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)のとき、2008年のリーマン・ショックのあとなどに需要が急減しました。今回はこうした過去の例を上回る落ち込みになりそうな情勢です。

(写真は、羽田空港に新設されたばかりの国際線施設は4月11日から当分の休止に=2020年3月29日、羽田空港)

固定費ってなんだ?

 もうひとつは、固定費が高い業界であることです。会社の費用には固定費と変動費があります。固定費とは簡単には減らせない費用のことです。人件費、設備費などが固定費です。原材料費、燃料費などは変動費で、社会情勢や経営判断で大きく増減する費用です。航空業界はとても高価な飛行機を用意しなければなりません。自社で買う場合とリースの場合がありますが、いずれにしても減らせない費用です。人件費も同じです。航空業界はたくさんの人を雇用します。飛行機を運行させるには、乗務員や整備士、地上職員などが必要で、一部は法律で人数が決められています。労働組合もきちんと機能しているので、人や給料を減らすことは簡単にはできません。こうした固定費が全費用の半分以上を占めているのが航空業界です。燃料費は変動費で、今は原油価格が下がっているので航空業界にもプラス材料ではありますが、売り上げの減少に比べればその寄与はわずかです。固定費の大きい業界にはほかにホテル業界、テーマパーク業界などがあります。こうした業界は、売り上げが好調なら利益がすぐに膨らみ、売り上げが不調なら大きな赤字を出すという特徴があります。変動費の大きい業界としては、小売業界などがあります。仕入れの費用は経営判断で変えられますから変動費で、それが全費用の大きな割合を占めています。こうした企業はもうけも小さいが赤字も小さいローリスクローリターン型と言えます。

(写真は、閑散とする関西空港の国際線エリア=2020年3月26日)

19社の大半はJALかANAの系列会社

 日本の航空会社の団体である定期航空協会に加盟している会社は19社あります。日本航空(JAL)、全日空(ANA)が2大勢力で、スカイマークが国内線を中心に独立系航空会社として存在しています。あとは、格安航空会社(LCC)、地域航空会社、貨物航空会社ですが、多くはJALやANAの系列の会社です。

(写真は、全日空機と日航機=羽田空港、2020年1月14日)

資金繰り対策を急ぐ

 JALもANAもここ7年ほどの業績好調により、内部留保は潤沢です。ただ、今は国内線の5~6割、国際線の9割を減便している状況です。それだけ便数を減らしても搭乗率は損益分岐点と言われる5割を下回っているようです。毎月、相当大きな資金が流出しているのは間違いありません。ANAは客室乗務員など6400人の一時帰休を始めました。ANAもJALも役員報酬の減額も始めています。スカイマークはこの春に予定していた証券取引所への再上場申請を取り下げました。また、資金繰りのためにANAは政府系の日本政策投資銀行に3000億円、メガバンクなど7行に1000億円の融資を要請しました。さらに事態が長期化する場合に備えて、政投銀に1兆円規模、民間銀行に3000億円規模の融資枠を求めるよう検討しています。JALなども資金繰り対策を急いでいます。

(写真は、中部空港では開港以来初めて国際線の運航がゼロに=2020年4月1日)

長期的に見れば依然成長産業

 航空会社の苦境は日本だけではありません。海外のエアラインも日本の航空会社と同様、あるいはそれ以上に経営が厳しくなっています。ただ、各国とも自国資本の航空会社がなくなってはいけないと考えているはずです。日本でもJALやANAは必要だということに異論のある人は少ないでしょう。仮に今の状況が長期化したとしても、政府は政投銀を中心に資金繰りを支えながら、存続に万全を期すと思われます。新型コロナウイルスの感染拡大が収まりさえすれば、長期的に見て航空産業が成長産業であることに変わりはないという見方が依然強いからです。

(写真は、大幅な減便を受け当面閉鎖される成田空港のB滑走路=2020年4月10日、朝日新聞社ヘリから)

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