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2020年05月08日

JR各社ゆるがす新型コロナの深刻度 航空業界との違いは?【業界研究ニュース】

運輸

 新型コロナウイルスは鉄道各社に大きな影響を与えています。中でも新幹線など遠距離路線を持つJR各社への影響が深刻です。本来ならかき入れ時のゴールデンウィーク期間(4月24日~5月6日)のJR旅客6社の利用客は、新幹線や在来線特急・急行で昨年の同時期に比べて95%減少して、91万6000人にとどまりました。2020年3月期の決算を発表したJR各社は、新型コロナの収束時期が分からないとして2021年3月期の決算見通しを発表できませんでした。長期化すると2021年3月期は大きな減収 減益になるのは確実です。収束したとしてもテレワークの普及など新しい生活様式が定着すると、通勤客が減り減収につながります。工事中のリニア中央新幹線の開業時期の遅れにつながる可能性もあります。JR東日本やJR東海など就職人気の高い会社も含まれるJR各社ですが、コロナ前とは状況がかなり変わってきています。

(写真は、GW中にもかかわらず閑散としていた新幹線ホーム=2020年5月3日午後、JR東京駅)

上位3社と残り4社に大きな差

 旧国鉄分割民営化されたJRは7社あります。売り上げの大きい順に並べると、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州、JR貨物、JR北海道、JR四国です。このうち、上位3社とそれ以外では売り上げ規模に大きな差があります。JR東日本は3兆円近く、JR東海は2兆円近く、JR西日本は約1兆5000億円ですが、4位のJR九州は4000億円台です。利益では、東海道新幹線というドル箱を持つJR東海が飛び抜けて大きく、これまでは4割近い驚異的な営業利益率を計上する超優良企業でした。一方、JR北海道やJR四国は赤字路線を抱えているため、営業赤字常態化しています。

(写真は、GW中のJR新大阪駅ホーム=2020年5月2日午前9時5分)

1~3月だけなら大赤字

 新型コロナの影響により利用客が激減し始めたのは2月下旬からで、JR東海によると東海道新幹線の3月の利用者は前年比41%減り、4月は26日までで89%減り、ゴールデンウィークは94%減りました。近距離の利用客はこれほど減ってはいませんが、それでも半分以下になっている路線がたくさんあります。2020年3月期の決算では、短期間の影響しか反映されていませんが、JR東日本で8年ぶりの減収、JR東海で10年ぶりの減収、JR西日本で3年ぶりの減収になりました。いずれも通期では減益ながら黒字でした。ただ、JR東日本では2020年1~3月期だけをみると純損益は530億円の赤字です。JR東海は新型コロナの影響で約750億円減収になったといいます。JR西日本も新型コロナによる減収が550億円に。JR各社は鉄道事業だけでなく、ホテルや商業施設も経営しており、そちらの打撃も大きくなっています。2021年3月期の決算は新型コロナの収束状況次第ですが、緊急事態宣言が出た4~5月の減収が大きいことは間違いなく、厳しいものになることが予想されます。

(写真は、全ての特急が運休となり人気の少ないJR博多駅在来線ホーム=2020年5月2日午前9時24分)

収入減がそのまま利益減につながる

 鉄道会社は利用者が減っても線路の維持や運行に関わる人件費などのコストは減らしにくく、収入の減少がそのまま利益の減少となってしまう構造があります。航空事業も似ていますが、航空業界のように便数を大幅に減らして燃料経費を減らす策も取りにくい事情があります。鉄道の燃料は電気ですが、地上のレールの上を走るため電気代はそれほど大きくなく、動かさなくても経費節減の効果はわずかです。また通勤時間帯で本数を減らすと混雑緩和につながらず、社会的に受け入れられにくいこともあります。

定期券収入が減る可能性

 コロナによる社会の変化も気になります。在宅勤務などテレワークが一気に広がりました。学生はオンライン授業を経験しました。コロナが収束すれば、また満員電車の通勤、通学が元通りに戻るでしょうか。一部ではあるでしょうが、そのままテレワークやオンライン授業が定着する可能性があります。鉄道会社にとっては、収入の柱の一つである定期券収入が減ることになります。

(写真は、大型連休が明けマスク姿で通勤する乗客=2020年5月7日午前8時、東京都品川区のJR大崎駅)

リニアの建設計画に影響も

 JR東海が自前の資金で建設しているリニア中央新幹線への影響も心配されます。品川―名古屋間の開業は2027年の予定です。さらに2037年に大阪まで延伸する計画もあります。しかし、静岡県は南アルプスを貫くトンネル工事で大井川の流量などが減ることを懸念して着工に同意していません。加えて、新型コロナによる感染拡大を防ぐ観点から工事が中断しているところもあります。こうした工事が遅れ気味のところに、JR東海の業績が悪くなれば計画変更となる可能性もあります。

(写真は、リニア中央新幹線の車両=2018年7月、山梨県都留市の実験センター)

社会インフラとしての可能性

 見てきたように新型コロナがJRに与える影響が深刻であるのは間違いありません。ただ、鉄道事業は社会のインフラです。なくなることはありません。また、新型コロナはどこかで収束し、経済活動は必ず回復します。仕事や観光などでの人の移動も回復します。それまでの間、JR各社が経費削減に走ったり、JR会社間での再編の動きが出たりする可能性はありますが、志望している人はそうした動きとともに社会インフラとしての長期的な可能性をみるようにしましょう。

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