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2020年05月22日

コンビニにコロナ追い打ち…曲がり角ならではのやりがいも【業界研究ニュース】

流通

 コンビニエンスストアの売り上げが落ちています。4月の既存店売上高は7781億円で、前年の同月より10.6%少なく、落ち込み幅は比べられる2005年以降で最も大きくなりました。新型コロナウイルスの影響により、都心部や観光地の店の落ち込みが目立っています。自宅で調理する人が増えたため、生鮮品などを求めてスーパーマーケットに人が流れ、住宅地のコンビニでも影響が出ています。46年前にセブン-イレブン・ジャパンが東京・豊洲に1号店を開いてからコンビニは長く成長を続けてきました。しかし、全国津々浦々に行き渡り、国内の成長はほぼ止まりました。加えて人手不足やネット通販の成長もあり、業界は曲がり角を迎えたと言われるようになっていました。そこに新型コロナが追い打ちをかけた格好になっています。新型コロナが収まっても、生活様式は元通りにならないのではないかという見方もあり、コンビニの前途はいっそう不透明になっています。新しいサービスの開拓や海外展開の強化などがカギになっています。

(写真は、新型コロナ感染防止のためレジカウンターの上にビニールカーテンが設置されたコンビニ=2020年4月15日、大阪市中央区)

大手3社が9割以上占める

 コンビニ業界は、ほぼ一貫して成長してきました。小売りの業態別売上高で2008年に初めて百貨店を抜き、最近ではスーパーに肉薄しています。ただ、ネット通販がコンビニ以上の急成長をしていて、2010年代にコンビニ、スーパーを抜き、今は業態別でトップになっています。会社としては、セブン-イレブン、ファミリーマートローソンの3社が売上高、店舗数ともに大きく、業界全体の9割以上を占めています。日本フランチャイズチェーン協会は、この3社に加えてミニストップセイコーマートデイリーヤマザキポプラを主要7社としています。

(表は2019年11月19日の朝日新聞から)

空白県なくなり飽和に近づく

 コンビニ業界の曲がり角を示すのが、店舗数の減少です。2019年末の店舗数は1年前より123店少ない5万5620店になりました。年末時点で店の数が減るのは、比べられる2005年以降では初めてです。コンビニ大手はこれまで特定の地域に大量に出店する「ドミナント戦略」で成長してきました。2019年夏にセブンが「最後の空白県」だった沖縄に店を出し、大手3社はこれで47都道府県すべてに店を構えることになりました。全国のコンビニの数は郵便局の2倍以上にまで増えたことになります。ただ、業界は既存店の売り上げの減少を新規出店で補ってきたのですが、新規出店の空白地帯がなくなると既存店の売り上げ減を補いきれなくなります。つまり国内では飽和状態に近づいたことを示しています。

無人レジの開発に力入れる

 曲がり角を示すもうひとつの問題が人手不足です。若い労働力が減っているため、深夜営業に必要な働き手の確保が難しくなっています。最低賃金が年々上がっていることもオーナーには負担になっています。こうしたことからコンビニ各社は深夜休業を認めたり、加盟店が営業時間を選べる制度を取り入れたりしています。ただ、24時間開いているというコンビニの特徴がなくなることは、コンビニの便利さを減らすことになります。業界は、少ない店員でも経営できる無人レジや無人店舗の開発に力を入れています。

(写真は、無人決済コンビニのイメージ図。店内の天井や棚に設置されたカメラで、誰がどの商品を手に取ったかを把握する仕組みという=JR東日本提供)

新型コロナに影響される海外展開

 国内の成長余地が小さいなら海外展開に力を入れよう、という動きもあります。大手3社はすでに海外展開を進めていて、中でもセブン-イレブンは国内の店舗数の2倍以上にあたる5万店近くをアメリカ、アジア、ヨーロッパなど16カ国・地域で展開しています。これをさらに加速させようとアメリカのコンビニ併設型ガソリンスタンドチェーン「スピードウェー」の買収を検討していたのですが、3月に断念しました。約220億ドル(約2兆3500億円)とされた買収額で折り合わなかったとみられます。新型コロナの感染拡大で世界経済が減速しており、経済の先行きの見通しが悪いことが影響しました。海外展開は新型コロナの収束を待たないとなかなか進まないようです。

今期の業績予想は見送り

 コンビニ大手3社は4月に2020年2月期決算を発表しました。セブンは、売上高が2.2%減ったものの純利益は2181億円となり、3年連続で過去最高を更新しました。ローソンは、売上高は増えたものの純利益は21.4%減りました。ファミマは、売上高も純利益も減少しました。いずれも2020年2月末までの1年間の業績ですので、新型コロナの影響はそれほど入っていません。新型コロナの感染拡大がはっきりしてきた3月以降の売り上げの減少は大きく、セブンとローソンは2021年2月期の業績予想の公表を見送りました。先行きをかなり厳しく見ていることがうかがえます。

新しいサービスや機能が必要

 46年前に日本に上陸したコンビニは、買い物だけでなく、公共料金の支払い、銀行のATM設置、宅配便、各種チケット発行、住民票交付などサービスを広げてどんどん便利になり、私たちの生活を変えました。今や、なくてはならない社会のインフラになりました。その役割はこれからも変わらないでしょう。ただ、さらに成長するためには新しいサービスや機能が必要になっています。出尽くしたということはなく、社会のニーズを先回りしてとらえることができれば、まだまだアイデアは出ると思います。曲がり角と言われる時期であるからこそ、やりがいのある業界だと考えることもできます。

(写真は、北海道での地震の後、買い物客で長い列ができたコンビニ=2018年9月6日、札幌市中央区)

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