業界研究ニュース 略歴

2024年04月25日

円安によるインバウンド需要で好調続く百貨店業界【業界研究ニュース】

流通

 百貨店業界が好調です。円安などによって訪日外国人観光客が増え、免税品の売り上げが急増しているのが大きな要因です。こうしたインバウンド需要はコロナ禍前にも盛り上がりましたが、今はそのころの売上高を追い越す勢いです。

 円安による特需だけでなく、アジアや欧米の人から日本の観光面での魅力が高く評価されるようになったことが、この好調の要因です。そのため今後、為替が少々円高に振れたとしても、外国人観光客への対応力があって高額商品がそろう百貨店への追い風は続きそうです。ただ長期的にみると、ネット通販や専門店におされて百貨店の地盤沈下が進む状況が変わったとは言えません。特に人口減少の影響が大きい地方の百貨店の苦境は続いています。百貨店業界自身が改革を続けていくことは必須です。今の好調によって改革するための時間的余裕が与えられたと受け止めることが必要で、これからも改革を継続できるかどうかが業界にとって重要です。

(写真・2023年3月期の総額売上高が過去最高を更新した伊勢丹新宿本店/写真は2021年、撮影はすべて朝日新聞社)

Jフロント、三越伊勢丹、高島屋、エイチ・ツー・オーが大手4社

 現在、百貨店の業界団体である日本百貨店協会には73社が加盟し、店舗数は167です(2024年2月現在)。各種統計などによる百貨店の定義を要約すると、幅広い商品を扱い、売り場面積が大きく従業員数も多くて、対面販売を中心にしている業態ということです。対面販売がほとんどないスーパーや従業員の少ないコンビニ、扱う商品の範囲が狭いホームセンターなどの専門店とはこうして区別されています。

 百貨店業界は21世紀初めに経営統合が進み、百貨店名はそのままで親会社名が違うケースが多くなりました。現在の大手4社は、大丸松坂屋を傘下に持つ Jフロントリテイリング(本社・東京都)、三越伊勢丹を傘下に持つ三越伊勢丹ホールディングス(本社・東京都)、阪急百貨店阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(本社・大阪市)、高島屋(本社・大阪市)です。この4社はいずれもテナントを含めた売上高が1兆円前後の規模です。この4社に次ぐのがそごう西武百貨店を傘下に持つそごう西武(本社・東京都)で、売上高は5千億円規模です。また、近鉄百貨店(本社・大阪市)や東急百貨店(本社・東京都)などの鉄道系百貨店や、限られた地域で展開する地域特化型百貨店もあります。

(写真・大丸心斎橋店本館=2019年)

免税売上高が約3倍に

 百貨店は1960年代ごろまでは「小売りの王様」でした。百貨店で買い物をするのが貴重な休日のレジャーという時代でした。しかし、1970年代になると価格の安いスーパーマーケットが躍進し、百貨店は業態別の売上高トップの座をスーパーに明け渡しました。21世紀になるとさらにコンビニエンスストアやネット通販に抜かれていきました。百貨店の売上高がピークだったのはバブル経済末期の1991年で約9兆7千億円でしたが、その後売上高は下降線をたどり、コロナ禍に見舞われた2020年には4兆2千億円にまで下がっています。しかしそれを底に売上高は回復し、コロナ禍を抜け出した2023年には5兆4千億円余になりました。2024年に入ると、一段と好調になっています。要因は外国人観光客が買う免税品の売上高が伸びていることで、2023年の免税売上高は3484億円で前年の約3倍になりました。個別の決算でもその好調ぶりが表れています。Jフロントリテイリングは2024年2月期決算で免税売上高が前年同期より251%、高島屋が169%も伸びています。外国人観光客の多い銀座と浅草に店を持つ松屋は312%もの増加になっています。

(写真・松屋浅草店=2021年)

島根、岐阜で県内唯一の百貨店が閉店

 一方で、地方の百貨店の苦境は続いています。島根県内唯一の百貨店だった一畑百貨店は65年間にわたる営業を終え、2024年1月に閉店しました。人口減や郊外への大型店の出店、ネット通販の台頭などがあり、売り上げの低下が続き、コロナ禍がダメ押しとなった格好です。ほかにも、岐阜県内唯一の百貨店である岐阜高島屋は2024年7月末で閉店します。徳島、山形、島根に続き岐阜は日本で4県目の百貨店のない県になります。また、長野県松本市にありJフロントリテイリングの子会社が運営する松本パルコは2025年2月末に閉店します。地方では大都市ほどインバウンド需要を取り込めず、百貨店業態の低迷は続いています。

(写真・閉店を迎え、シャッターが下ろされる一畑百貨店=2024年1月、松江市)

ネット通販に力を入れる

 百貨店業態は、一時「何でもあるけど何にもない」などと言われました。品ぞろえは幅広いけれど特徴がなく、ほしいものがないということを表していました。こうしたことから自前主義を脱し、専門店にテナントとして入ってもらう方向に進んでいいます。また、ネット通販にも力を入れているのも最近の傾向です。店内では買えない商品をネット通販用にそろえたり、店頭に商品はあっても在庫を持たずにネットで買ってもらったりするやり方です。そのほかにも「モノからコト」を合言葉に、モノだけでなく体験やサービスを売る方向性を強めています。

正月2日休日や閉店6時半など

 社会全体の人手不足は百貨店業界にも及んでいます。高島屋は2025年から1月1日に加えて2日も休業にすると決めました。百貨店は2日に初売りをするというのが定番になっていましたが、高島屋は従業員の休みを増やすことを優先して休業に踏み切りました。三重県津市の百貨店松菱は2024年3月から閉店時間を30分早めて午後6時半としました。従業員が働きやすい職場にすることで、働き手の確保に努めるねらいです。インバウンドで潤っている百貨店業界ですが、業態への逆風がやんだわけではありません。業態を変えて追い風が吹くようにするには、この時期に次の手を打つ必要があります。そのためには、優秀でやる気のある従業員が必要になっているのは間違いありません。

(写真・3月からの営業時間短縮を知らせる松菱店内の貼り紙=2024年2月、津市)


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