業界研究ニュース 略歴

2024年05月16日

「金利のある世界」がさらなる好調につながるか、銀行業界【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 マイナス金利やコロナ禍で苦しんでいた銀行業界ですが、いま業績が好転しています。3メガ銀行グループが発表した2024年3月期決算によると、合計の純利益が3兆1327億円で、過去最高になりました。地方銀行の純利益も回復傾向にあります。好調の主な要因としては、日本企業が投資に前向きになっていて資金需要が強まっていることがあります。加えて、米欧の金利上昇によって海外での貸出金利が上昇したこと、円安によって海外事業の円換算での収益が膨らんだこと、日米の株価上昇で投資収益が増えたこともあります。また、2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策をやめたことが、今後のさらなる追い風になると見込まれています。「金利のある世界」になると、国内の貸出金利が上がり、預金金利との差である「利ザヤ」が増えると予想されるためです。銀行業界にはデジタル化対応や海外展開などの課題もありますが、当面、利益の出やすい環境となり、人材採用に積極的になるとみられます。
(写真はPIXTA)

業界の中心は3つのメガ銀行グループ

 銀行業界の中心は、3つのメガ銀行グループです。三菱UFJ銀行を中核とする三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友銀行を中核とする三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、みずほ銀行を中核とするみずほフィナンシャルグループの3つです。この3つのグループが規模的に業界で抜きんでている存在です。このほか全国展開をしている銀行グループとしては、りそな銀行を中核とするりそなホールディングス(HD)があります。また金融庁によれば、信託銀行が13行、ネット銀行などが17行、外国銀行の支店が56行、限られたエリアで展開する地方銀行(第2地銀を含む)が99行あります。
(写真・3メガバンクの看板=東京都内/朝日新聞社)

コロナ禍が明け、企業の投資が活発に

 3メガ銀行グループの中で2024年3月期決算の純利益がもっとも大きかったのはMUFGで、1兆4907億円でした。次いでSMFGで9629億円、みずほFGが6789億円の順となっています。MUFGとSMFGは過去最高で、みずほFGは過去2番目に大きい金額でした。地方銀行の決算もおおむね好調で、上場している地銀の7割が増益になりました。好調の要因は、コロナ禍が明け、企業の投資が活発になっていることです。半導体関連の工場建設やデータセンターの建設などで資金需要が増え、脱炭素関連やデジタル関連への投資熱も高まっています。海外事業では米欧の金利上昇で利ザヤが拡大したり円安で円換算の金額が増えたりして、収益が膨らんでいます。

今年後半にもう一段の利上げの見通しも

 さらに今期の大きな追い風になりそうなのが、金利の上昇です。日本銀行は物価上昇に対応するため、3月に政策金利をマイナス0.1%から0~0.1%に引き上げました。日銀による利上げは17年ぶり、マイナス金利からの脱却は8年ぶりになります。この引き上げにより、銀行の貸出金利も上がっています。預金金利の上がり方より大きいため、利ザヤは拡大しています。銀行の収益の大きな柱が利ザヤなので、銀行の収益増に寄与することになります。また、日銀は今年後半にもう一段の利上げに踏み切るとの見通しもあり、利ザヤはさらに拡大する可能性があります。ただ、貸出金利の上昇は借金があり資金繰りの苦しい企業には厳しく、倒産が増える心配もあります。倒産が増えれば、銀行の貸し倒れも増えることになりますので、その点は要注意です。

(写真・日本銀行の植田和男総裁=2024年3月19日/朝日新聞社)

デジタル化には人材不足の問題も

 銀行業界の課題としては、デジタル化があります。デジタル化により業務を効率化して、収益性を上げることが求められていますが、簡単ではありません。取引をデジタル化することで、実店舗を減らしたり紙の通帳をなくしたりする方向性は出ていますが、主要な顧客である高齢者の中にはデジタル化に対応できない人も多く、デジタル化を進めるスピードを一気に上げるわけにはいきません。また、ATMが動かなくなるなどの事故も発生しており、既存のシステムの弱さやブラックボックス化も指摘されています。システムの抜本的更新には資金と人材が必要ですが、特に人材の不足が問題になっています。デジタル化をいかにトラブルなく進められるかということは長く続く課題になりそうです。
(イラストはPIXTA)

固いだけでない新しい人物像が必要に

 銀行員はかつて固い人物像、つまり融通は利かないが信用のおける人というイメージがありました。お金を扱う仕事に携わるうえで、まじめで責任感が強いことが何より必要な資質と考えられていたのです。今、求められている銀行員の人物像は少し違ってきています。まじめで責任感が強いことが重視されるのは変わりませんが、かつてより主体性をもって新しい分野にチャレンジすることや、高いコミュニケーション能力を持って顧客との信頼関係をつくることなども重要視されるようになっているのです。デジタル化、脱炭素化、国際化、少子高齢化など、社会の変化のスピードは増しています。そうした変化に対応するためには、チャレンジ精神に富んだ新しい銀行員が必要になっているわけです。

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別