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2024年05月30日

大規模な資産の入れ替えで好調が続く商社業界【業界研究ニュース】

商社

 大手商社の業績好調が続いています。三菱商事三井物産伊藤忠商事住友商事丸紅の大手5社の2024年3月期決算は、各社とも純利益が過去最高に近い水準を保ちました。「虎の子」のような黒字事業でも、投資効率が求める水準に達しなかったり売却による利益が予想を上回ったりすると、ためらうことなく売却し、ほかの事業に投資するという「資産の入れ替え」が功を奏しています。

 商社のビジネスには、輸出入などの流通によりその差益を得るやり方と、事業に投資してその配当や売却益を得るやり方があります。今は事業への投資と売却を積極的におこなうことで利益を大きくしている格好です。各社とも2025年3月期も高い利益水準が続くと見込んでいます。こうしたことから、国際性があり給与水準の高い大手商社の就職人気はこれからも高いと思われます。一方で、商社で仕事をするには語学力、コミュニケーション能力、バイタリティーなどが求められますので、志望する人にはそうした能力を高める努力が欠かせません。

総合商社は大手5社プラス2社

 日本にはたくさんの商社があります。商社の業界団体である日本貿易会に加盟している正会員会社は42社あります。この42社は貿易をしている比較的大きな商社ばかりなので、小さな商社はもっとあるはずです。商社には総合商社専門商社があります。総合商社は幅広い分野や商品を対象にする商社で、専門商社は特定の分野や商品や地域を対象にする商社です。一般に総合商社といわれるのは、大手5社に豊田通商双日を加えた7社です。また、大手5社の中でも三菱商事、三井物産、伊藤忠商事の3社を規模の大きさから3大商社といいます。専門商社は総合商社に比べて規模は小さくなりますが、化学品の長瀬産業、鉄鋼の阪和興業、エネルギーの岩谷産業、繊維の蝶理など、各分野に伝統のある企業があります。

(写真・2年連続の純利益1兆円超えとなった三井物産の堀健一社長=2024年5月1日/朝日新聞社)

財閥系と非財閥系で違い

 7つの総合商社は財閥系と非財閥系に分けることができます。三菱商事、三井物産、住友商事はその名の通り、戦前からの財閥の流れをくむ商社です。そのため三菱、三井、住友の各グループの企業と一緒になって仕事をすることで成長してきましたが、グループ外の企業との仕事も増えています。非財閥系のうち、伊藤忠商事と丸紅は大阪の繊維問屋から発展してきました。財閥が背景にないため、伊藤忠商事や丸紅はバイタリティーのある社風といわれます。豊田通商はトヨタ自動車を中心とするトヨタグループの一員です。双日は明治時代に関西を地盤とした日本綿花、岩井商店、鈴木商店を源流とする会社です。

(写真・東京・北青山にある伊藤忠商事本社ビル/朝日新聞社)

資源分野から生活密着分野へ

 7つの総合商社には、それぞれ強みがあります。三菱商事と三井物産はライバル関係にありますが、昔から使われる言葉に「組織の三菱、人の三井」があります。三菱商事は仕事をするうえで組織力を発揮するが、三井物産は個人の裁量が大きいという社風を表した言葉です。両社ともエネルギーや金属などの資源に強みを持ちますが、2010年代には資源価格が低迷して業績が悪化したことがあり、それ以降生活に密着した非資源分野に力を入れるようになっています。伊藤忠商事は発祥の繊維分野に関連してアパレルなどに強く、ほかにもコンビニ経営など身近な生活分野に力を入れています。丸紅は食料やエネルギーの分野が強く、住友商事はメディア事業や不動産事業に強みを持っています。豊田通商は自動車関連、双日は航空・宇宙事業に強みを持っています。

伸びるとみられる事業に積極投資

 大手商社が新陳代謝を進めている例が、資産の入れ替えです。最近の売却例としては、三菱商事がローソンの一部株式をKDDIに売却したりケンタッキーフライドチキンを展開する日本KFCホールディングスの株式をアメリカの投資ファンドに売ったりしました。三井物産はインドネシアの火力発電所やヨーロッパの鉄道事業を売却、伊藤忠商事はインドネシアの金融事業を売るなどしました。一方で、三菱商事はアメリカのデータセンターを買い、三井物産はブラジルのリチウム鉱山に出資しました。伊藤忠商事は中古車販売大手のビッグモーターの主要事業を承継し、「WECARS(ウイカーズ)」を発足させました。また、洋上風力発電、水素生産、陸上でのサーモン養殖など、これから伸びるとみている事業には各社とも積極的に投資しています。

(写真・ローソン店員の制服を着て写真撮影にのぞむ(左から)三菱商事の中西勝也社長、ローソンの竹増貞信社長、KDDIの高橋誠社長=2024年2月6日、東京都千代田区)

伊藤忠は女性執行役員を一気6人に

 商社を支えているのは男性社員というイメージが長くありました。商社マンという言葉が普通に使われていたことからもわかります。ただ最近の商社の大きなテーマは「女性の活躍」です。家事や子育ては男女で分かち合い、優秀な女性の力を仕事に生かしたいということです。伊藤忠商事は5人の女性社員を4月1日付で執行役員に登用し、それまで1人だった女性執行役員が一気に6人に増えました。女性にはアファーマティブ・アクション(格差是正のための積極的措置)をとって、これからも登用を進めることにしています。一方で、男性の育児休業の取得を積極的に進めたり朝型勤務を徹底したりして、男女とも働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。かつては体力的に厳しそうとか家庭との両立がむずかしそうといった理由で就職先としての商社を敬遠していた女性もいましたが、そうした女性も今では、選択肢に商社を入れやすくなっていると思います。志望企業の取り組みをぜひチェックしてみてください。

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