わたしたちが健康な生活を送るために薬は欠かせません。製薬メーカーは画期的な新薬を開発すると、莫大な利益を得ることができます。ただ、そのような新薬を開発するためには長い期間と、多額の研究開発費が必要になります。しかも、確実に開発できるかどうかはわからない一種の賭けでもあるのです。一方、発売から時間がたち特許が切れた薬である後発薬(ジェネリック医薬品)を専門につくる会社もあります。こちらは開発期間が短く、かかる金額も小さくてすみますが、利益は薄くなります。
2020年に複数の後発薬メーカーで不正が発覚して業務停止に追い込まれたことが発端となり、後発薬の不足が今も続いています。また、ドラッグストアで買える大衆薬を専門にする会社もあります。高齢化する社会で製薬業界は大きな可能性を持っていますが、製薬業界にはいくつかの類型があり、それぞれで課題は異なります。製薬業界を志望する人は、志望する会社がどの類型に入っているのか、得意分野は何か、外資系か国内系かなどをしっかり押さえておくことが大事になります。
(写真はPIXTA)
新薬の研究開発には時間も費用もかかる
医薬品の市場規模は2022年には世界で約200兆円、日本で約10兆円と計算されています。世界の市場規模は年々伸びていますが、人口減少の日本では横ばい傾向にあります。医薬品メーカーは、大きく分けると新薬メーカーと後発薬メーカーがあります。新薬メーカーは、その名の通り新薬を開発するメーカーです。新薬の研究開発には9~16年かかるとされ、その費用には数百億円から1千億円以上かかるとされています。特許期間は20~25年で、その間は独占販売できます。ただ、特許を取ってから発売までに時間がかかるので、実際の独占販売期間は10年程度とされています。新薬メーカーの業界団体としては日本製薬工業協会があり、70社が加入しています。
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大衆薬は自由に値段を決められる
新薬メーカーは、さらにふたつに分類されます。医療用医薬品メーカーと OTC医薬品メーカーです。医療用医薬品とは医師の処方箋が必要な医薬品のことです。この医薬品は医療保険が適用され、厚生労働省が決める公定価格である薬価で売られます。OTC医薬品は医師の処方箋なしで買うことができる医薬品です。ドラッグストアの棚に置かれている医薬品などがそれで、一般的には「大衆薬」といわれ、価格はメーカーが自由に決めることができます。大正製薬ホールディングス、ロート製薬、参天製薬などがあり、業界団体の日本OTC医薬品協会には75社が加入しています。
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後発薬の使用割合が35%から80%に
後発薬メーカーは、特許が切れた医薬品を製造するメーカーです。研究開発に3~4年、かかる費用は数億円とされます。新薬に比べるとはるかに少ない費用で製造できますが、価格は大幅に下がりますので利益は薄くなります。政府は医療費を抑えるために後発薬の使用を奨励していて、ここ15年で使用割合が約35%から80%に増加しています。後発薬メーカーで構成する業界団体が日本ジェネリック製薬協会で、30社が加入しています。東和薬品やサワイグループホールディングスが大手ですが、全体に新薬メーカーに比べて規模の小さいメーカーが多くなっています。
武田の売上高は4兆円越え
売上高の大きい会社は新薬メーカーが占めています。武田薬品工業は4兆2637億円(2024年3月期)、大塚ホールディングスは2兆185億円(2023年12月期)、アステラス製薬は1兆6036億円(2024年3月期)、第一三共は1兆6016億円(2024年3月期)、中外製薬は1兆1114億円(2023年12月期)などとなっています。後発薬メーカーでは、東和薬品が2279億円(2024年3月期)、サワイグループホールディングスが1768億円(2024年3月期)、OTC医薬品メーカーでは参天製薬が3019億円(2024年3月期)、大正製薬が3013億円(2023年3月期、大正製薬は2024年4月で上場廃止)、ロート製薬が2708億円(2024年3月期)などとなっています。
世界を相手にするため外国資本が必要に
新薬メーカーには、外資系企業や外国資本が多く入っている企業がたくさんあります。武田薬品工業は外資比率が半分近くあり、トップを含めて経営陣に外国人がたくさんいます。「ほぼ外資系」といえるグルーバル企業です。アステラス製薬は旧山之内製薬と旧藤沢製薬が2005年に合併してできた会社ですが、今は外国法人が約40%の株を持っています。中外製薬はスイスの製薬大手のロシュが半分以上の株式を持っていて、ロシュグループの会社になっています。日本の新薬メーカーに外資比率の高い会社が多いのは、世界全体を医療用医薬品の市場としてみているためです。海外で製造したり販売したりするためには外資の力が必要になるというわけです。
オプジーボは売り上げの6割に
新薬メーカーは画期的新薬の発売にこぎつけると、大きな利益を得ることができます。小野薬品工業が2014年に発売したがん治療薬「オプジーボ」は今や同社の売上高の6割を占めるようになっています。2023年にはエーザイが世界初のアルツハイマー病治療薬「レカメマブ」の発売にこぎつけ、今後エーザイに大きな利益をもたらすと見込まれています。一方、住友化学の子会社である住友ファーマは稼ぎ頭だった抗精神病薬「ラツーダ」の特許が切れ、その穴を埋める新薬を開発できていないため、2024年3月期に3千億円を超える純損失を計上しました。新薬を開発できるかどうかが業績の大きな分かれ目になることを示しています。人々の健康に役立つ製薬の仕事はとても大事な仕事ですが、大きな浮き沈みのある仕事でもあるということを覚えておきましょう。
(写真・アルツハイマー病治療薬の米国での承認を受け、会見するエーザイの内藤晴夫CEO=2023年7月)
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