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2024年06月28日

大手4社の寡占だが、多角化と国際化が進むビール業界【業界研究ニュース】

食品・飲料

 日本のビール業界は、アサヒキリンサントリーサッポロの大手4社の寡占業界です。沖縄のオリオンビールや各地に登場してきたクラフトビールメーカーもありますが、製造量は大手4社が圧倒的に多くなっています。大手4社の業績には急激な変動があまりなく、ゆっくりと成長しています。

 そんな大手4社にも、「若者の酒離れ」という悩みに直面しています。中でもビール離れが目立つということで、各社は醸造設備を見学できたりブランドの世界観を楽しめたりする体験型施設を次々にオープンしています。また、飲酒へのネガティブなイメージを抑えようと大学や企業向けに「適正な飲酒」に関するセミナーを開いたりしています。国内ビールの先細りを補うため、ノンアルコールの飲料、健康食品、医薬品などに力を入れる動きも加速し、一方で海外企業を買収して海外での製造や販売も進めています。ビール会社は国内でビールをつくって売っている会社というイメージはすでに古くなっており、今は多角化と国際化が進んでいることを知っておきましょう。
(写真はPIXTA)

売上高はサントリー、アサヒの順

 大手4社の2023年12月期の売上高をみると、もっとも大きいのはサントリーホールディングスで、3兆2851億円です。サントリーはビールのシェアを見ると大手4社のなかでは3番手ですが、ウイスキーなどビール以外の酒類の売り上げが大きいことに加え、水や清涼飲料などの飲料・食品分野や健康食品分野が伸びています。次いで売上高が大きいのはアサヒビールホールディングスで2兆7690億円です。アサヒは業界全体に占めるビールのシェアが30%台で、キリンビールと首位争いをしています。
(写真・サントリーホールディングスの看板=東京都港区/朝日新聞社)

キリンは医薬、サッポロは不動産に特徴

 売上高の3番目はキリンビールホールディングスで、2兆1344億円です。キリンは国内のビール・スピリッツ分野が売り上げの約3割を占めていますが、その次に大きい分野は医薬品で、約2割を占めています。製薬会社の協和キリンを傘下にもち、新薬メーカーとしての顔もあるのです。サッポロホールディングスの売上高は5186億円で4社の中ではもっとも小さくなっています。ビールのシェアが10%台で4位とみられ、飲料分野や医薬品分野なども他社より小さいためです。ただ、東京・恵比寿の工場跡地を再開発した恵比寿ガーデンプレイスなどの不動産が収益をもたらしています。

戦前は4社から2社に、戦後は2社から4社に

 4社はいずれも19世紀後半に創業した、歴史のある会社です。4社が創業したころのビール業界は、ジャパン・ブルワリー・カンパニー(麒麟ビール、会社名はのちに麒麟麦酒)、札幌麦酒(札幌ビール)、日本麦酒(恵比寿ビール)、大阪麦酒(朝日ビール)の4社が激しい販売競争を繰り広げていました。そこで、札幌麦酒と日本麦酒と大阪麦酒が大同団結することになり、1906年に大日本麦酒が設立され、戦前は麒麟麦酒と大日本麦酒の2社体制になりました。戦後、大日本麦酒は大きすぎるとして日本麦酒(のちのサッポロビール)と朝日麦酒(のちのアサヒビール)に分割され、さらに1963年にサントリーがビールに参入し、今の4社体制になったのです。

(写真・大日本麦酒吾妻橋工場。現在はアサヒビール本社(アサヒグループホールディングス本社)となっている=1930年撮影/朝日新聞社)

アサヒやサントリーは海外比率が約50%

 ビール各社が現在力を入れているのが、海外事業です。国内は人口が減る時代を迎え、若者は酒離れがすすみ、国内の酒類市場には将来性が見込めないと各社が考えているためです。アサヒは2019年にオーストラリアのビール会社を約1兆2千億円を投じて買収しました。サントリーは2014年にアメリカの蒸留酒メーカー、ビームを買収しましたが、こちらは約1兆6千億円もの投資でした。キリンも2023年にオーストラリアの健康食品メーカーを約1700億円で買収するなど海外展開に力を入れていますが、ブラジルやミャンマーのビールメーカーの買収で損を出すなど、やや苦戦しています。アサヒやサントリーの海外売上高比率は約50%に上っていますが、キリンはまだそこまで高くない状況です。
(写真・握手を交わすサントリーHDの佐治信忠社長(右)とビームサントリーのマット・シャトック最高経営責任者(CEO)肩書などは当時=東京都港区/2014年、朝日新聞社)

税率統一で勝負はビールに

 ビール系飲料の売れ行きは酒税の率によって変わります。麦芽の使用割合が50%以上と決められているビールには高い税率がかけられ、使用割合が50%未満であるものは発泡酒とよばれ、ビールより低い税率になります。さらに原料に麦や麦芽を使わずにビール風味を出すものは第3のビールとよばれ、さらに低い税率になります。税率が低いほど販売価格が安くなるため、第3のビールや発泡酒がよく売れる時期が続きましたが、2026年に税率が統一されることになっています。同じ税率ならビールがよく売れるはずで、各社はビールで勝負しようとしています。キリンは4月に17年ぶりの本格的ビールブランドである「晴れ風」を発売しました。2026年に向けて各社が新ブランドのビールを出すことが予想されます。

新規参入にリスク大きく、経営は安定

 ビール大手の4社体制は60年以上にわたって続いています。ビール工場建設には多額の投資が必要で、販路を構築するのも簡単なことではなく、加えて国内市場の伸びが期待できないとなれば、本格的な新規参入はリスクが大きすぎると考えられるわけです。そうしたことからビール大手4社の経営は比較的安定しています。余力のあるうちに酒類以外の分野や海外事業に力を入れているというのが現状です。ビール会社というとビールが好きな人しか入ってはいけないというイメージを持つひともいるかもしれませんが、今のビール会社ではビールの好き嫌いを最重視しなくてもいいのではないかと思います。

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