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2024年07月11日

経済圏づくりのため事業を広げる携帯電話会社【業界研究ニュース】

通信・インターネット関連

 日本の携帯電話業界は、NTTドコモKDDIグループ、ソフトバンク楽天モバイルの大手4社が激しく競争しています。少し前までは契約数を増やすために端末や通信料の値引き合戦を激しくおこなっていましたが、最近はスマートフォンがほぼ行きわたり、過度な値引きに対する規制も強化されてきたため、落ち着いてきました。その結果、各社の通信事業のもうけは頭打ちになり、金融事業などの非通信分野の強化に動いています。

 各社ともすでにグループ内にネット証券会社を持っており、NTTドコモを除く3社は銀行も持っています。さらにネット通販事業者やコンビニエンスストアなどの小売りとの連携も強化しています。他業種とつなぐ道具として使われているのが「ポイント」で、各社は自社の「ポイント」ユーザーを増やして顧客を囲い込むことに躍起になっています。今や携帯電話業界は携帯電話の契約者を増やして成長する段階を過ぎ、契約者を核にした大きな経済圏をつくるという目標に向かって進んでいるのです。
(写真はPIXTA)

大手4社で約85%のシェア

 携帯電話業界には、総務省から直接周波数帯を割り当てられている移動体通信事業者(MNO)とMNOから通信回線を借りてサービスを提供している仮想移動体通信事業者(MVNO)があります。MNOが大手4社で市場の約85%のシェアを持っています。MVNOにはインターネットイニシアティブ(IIJ)やオプテージ(mineo)などがあり、総務省によると2023年末段階で1890社があります。

楽天のシェアは2.7%だが、プラチナバンドに期待

 大手4社の契約者数のシェアは、2023年度末段階でNTTドコモが34.6%、KDDIグループが26.7%、ソフトバンクが20.4%、楽天モバイルが2.7%になっています。楽天モバイルは2020年に本格参入しましたが、自前の回線網を築くのに費用や時間がかかり、先行3社の厚い壁を崩すことができないでいます。楽天グループ全体では携帯電話事業が足を引っ張り、5期連続で最終赤字という苦しい経営が続いています。ただ、総務省から屋内でも携帯電話がつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」の割り当てを受け、そのサービスを6月から始めており、これからの攻勢に期待をかけています。
(図は朝日新聞社)

携帯通信料は2017年をピークに減る

 国内の携帯電話事業は成熟してきています。人口が減少している中、スマホはほぼ行きわたりました。また、「1円スマホ」に象徴される端末の過度な値引きは規制され、一方で通信料の引き下げは定着してきました。今、携帯電話ショップの店頭では、端末の値引きはほとんどなく、安い通信料のコースがいろいろと選べるようになっています。本来のあり方からすると正常になったということですが、ひんぱんに買い替えるユーザーは少なくなっています。こうしたことから家計の携帯電話への支出は減っていて、総務省の家計調査によると、1世帯当たりの携帯電話通信料は2017年をピークに減っています。2023年の月平均は1万1251円で、2017年より約2割減っています。

NTTドコモは証券を持ち、次は銀行

 携帯各社は経済圏づくりに力を移しています。2023年10月にはNTTドコモがネット証券会社のマネックス証券を子会社化しました。それまでKDDIグループはauカブコム証券、ソフトバンクはPayPay証券、楽天グループは楽天証券というネット証券を関連会社に持っていました。新NISAが2024年から始まるのを前にNTTドコモもネット証券を取り込んだというわけです。NTTドコモの次の狙いは銀行業への参入です。銀行業ではKDDIグループがauじぶん銀行、ソフトバンクがPayPay銀行、楽天グループが楽天銀行を持っていて、グループ内に銀行を持っていないのはNTTドコモだけです。NTTドコモは三菱UFJ銀行と提携していますが、自前の銀行を持ちたいと考えているようです。

(写真・記念撮影に応じるNTTドコモの井伊基之社長(左から2人目)とマネックスグループの松本大会長(同3人目)=2023年10月/朝日新聞社)

ポイントを使って経済圏づくりを

 小売業との連携も進めています。NTTドコモは2024年4月、アマゾンジャパンとネット通販のポイントサービスで協業すると発表しました。アマゾンのネット通販を利用した際にNTTドコモのポイントであるdポイントを付与し、利用もできるというサービスです。KDDIは2024年4月、コンビニのローソンを傘下に収め、両社の共通ポイントであるPonta(ポンタ)経済圏を強固にしようとしています。ソフトバンクはネット通販のヤフーショッピングをグループ内に持ち、PayPayポイントを付与しています。楽天グループにはネット通販の楽天市場があり、楽天ポイントを使った経済圏づくりに楽天モバイルを使おうとしています。
(写真・ローソン店員の制服を着て写真撮影にのぞむ(左から)三菱商事の中西勝也社長、ローソンの竹増貞信社長、KDDIの高橋誠社長=2024年2月6日/朝日新聞社、肩書は当時)

成熟してもまだまだ動く業界

 携帯電話業界には、NTT法の改正という問題もあります。NTT法はNTTに固定電話の一律サービスなどを課す法律です。民間企業であるNTTの自由な経済活動を妨げる法律だとして、廃止を求める声があります。一方で、競合する3社は廃止に強く反対しています。3社はNTTから光ファイバーを借りて携帯サービスを展開しており、NTT法がなくなれば公正な競争ができなくなると主張します。NTT法は2024年の通常国会で改正されましたが、廃止とはなりませんでした。ただ、付則で「廃止を含め検討」としており、廃止するかどうかは今後の大きな焦点となります。大手4社は激しく競争をしながらも、電波という公共の財産を使っているため、公共性も求められます。携帯電話事業は成熟したとはいえ、これからまだまだ激しく動いていく業界だと思われます。

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