業界研究ニュース 略歴

2021年12月03日

「電波オークション」でドコモvs.楽天 4社寡占の携帯業界に注目【業界研究ニュース】

通信・インターネット関連

 モバイル通信サービスを提供する NTTドコモKDDIソフトバンク楽天の携帯電話業界は、2021年前半には菅義偉前政権から値下げを迫られました。利用者にはうれしい値下げでしたが、業績にはマイナスとなっています。業界では、テレワーク関連などの法人事業や QR決済などの金融事業に力を入れて、通信サービス収入の減少を補おうとしています。そうした状況の中、業界には「電波オークション」問題という新たな難題が降りかかっています。電波オークションとは、携帯電話の電波の割り当てを価格で競い合うものです。これまでは事業計画をもとにした審査をへて総務省が割り当てていましたが、限りのある電波という資源を有効に活用するために高く買うところに売るというやり方に変えようとして総務省が検討を始めています。これについて、NTTドコモは賛成、KDDIとソフトバンクは中立、楽天は大反対と立場が分かれています。この問題の行方は、これからの業界地図に大きな影響を与えそうです。通信は世の中の基盤ですから、携帯電話業界志望ではない人も注目してください。

4社目の楽天は基地局の建設遅れる

 自前で回線をもって通信サービスを提供する携帯電話業者は現在、国内には4社しかありません。全国的な回線網を新たに構築するのに莫大な費用がかかることや電波の割り当てについては総務省の審査が必要となるため、参入のハードルが高い業界になっています。こうした寡占状態に風穴を開けようと挑戦しているのが4社目の楽天です。楽天は2020年4月に携帯電話事業に本格参入しました。KDDIの回線を借りながら、自前の基地局の建設を進め、大手3社と同じような自社回線をもって全国をカバーする携帯電話会社になろうとしています。しかし、その過程で半導体不足により基地局の建設が遅れたり、KDDIに払う利用料が予想以上に膨らんだり、3社が値下げをしたことで楽天の安さが目立たなくなったりして、苦戦が続いています。

(写真は、データ使用量1ギガバイトまで無料とする新プランを発表する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2021年29日、東京都港区)

「脱携帯依存」がキーワード

 楽天以外の大手3社も決して楽ではありません。2021年9月の中間決算では、3社とも前年に比べて純利益を減らしました。各社とも政府の要請に応じて2021年3月から値下げプランを実施しましたが、その影響で1契約あたりの利用料が減り、各社とも営業利益を200億円以上減らしました。スマホはほぼ普及したため、通信サービス収入の伸びはこれからも期待薄です。そのため、「脱携帯依存」がキーワードになっています。KDDIや NTTドコモが力を入れているのが金融・決済事業です。KDDIは決済サービス「au PAY」や「auじぶん銀行」などの利益が増えています。また、NTTドコモはドコモポイントがたまるデジタル口座サービスを三菱UFJ銀行と始めるなどしています。ソフトバンクはテレワークの拡大を追い風に法人向けクラウドサービスなどに力を入れています。

(写真は、au PAYのアイコン)

資金力のあるドコモは積極的

 電波オークションはアメリカやヨーロッパなど主要国の多くで導入されています。日本でも2012年に民主党政権下でオークション導入を盛り込んだ電波法改正案をいったん閣議決定しましたが、その後廃案になった経緯があります。今回は総務省に有識者会議が設けられ、2022年夏ごろに新たな携帯電波の割り当て方式を取りまとめることにしています。4社の立場は三つに分かれています。オークション方式に積極的なのがNTTドコモで、KDDIとソフトバンクは中立、楽天は大反対です。NTTドコモが積極的なのは資金力がもっともあるため、競争に勝てる可能性が高いためです。楽天が大反対なのは、資金力で劣る新規参入事業者による競争を阻害することになるという論拠です。電波オークションの具体的なやり方はこれからの議論ですが、新規参入枠を設ける意見も強く、携帯電話事業者がもっと増える可能性もあります。電波は事業者にとっては最も大事な資源なので、これからも激しいせめぎ合いが続くと思われます。

(写真は、総務省の有識者会議に出席した楽天モバイルの山田善久社長〈前列右〉とソフトバンクの宮川潤一社長〈同左〉=2021年11月30日、東京・霞が関)

寡占業界に二つの批判

 日本の携帯電話業界は相反する二つの課題を抱えています、ひとつは、寡占業界なので価格競争が効いていないと政府や利用者からみられていることです。政府からの値下げ圧力があるのは、寡占の弊害が意識されているためです。一方で、競争の激しさへの批判もあります。他社への乗り換えを防ごうと、実質的な縛りにつながる再購入を促すサービスがあったり、逆に乗り換えを促すサービスがあったり、テレビコマーシャルなどに多額の広告費をかけたり、複雑な売り方をするため利用者が実際の使い方より高額の契約をさせられたりするなど、過剰な競争のさまざまな問題が指摘されています。

(写真は、新料金プラン「ahamo」を発表するNTTドコモの井伊基之社長〈右〉=2020年12月3日、東京都渋谷区)

スマホは社会のインフラに

 携帯電話業界は高速通信規格「5G」の時代を迎えています。通信できる容量が格段に大きくなり、通信速度はずっと速くなります。スマホでできることがぐっと増え、さらに大きな役割を担うようになるでしょう。業界にとっては、5Gに対応するため巨額の投資が必要になります。一方、10月にNTTドコモで大規模な通信障害が発生しましたが、こうした障害による社会への影響はますます大きくなります。スマホが社会のインフラになるに伴い、業界の責任は重くなっています。業界で働く人にとっては、新しいことに挑戦しながら、それが社会全体にどれだけ効用をもたらすのかといった大きな視点も必要になると思います。

(写真は、ソフトバンクが発表した5G対応スマホ=2020年3月、東京都中央区)

◆「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別