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2021年12月17日

ガス業界、自由化と脱炭素が課題 公共性持ちつつ競争【業界研究ニュース】

エネルギー

自由化と脱炭素を乗り切れるか、ガス業界

 ガス業界は、電力や鉄道などと同じようにインフラ業界とされます。つまり、社会の基盤を形づくる公共性の高い業界ということです。ただ、公共性があるからといって競争がなければ、値段は高くなりがちですし、サービスは悪くなりがちです。それではいけないということで、ガスも電力同様、自由化が進められてきました。今では、ガス管を持っていなくても都市ガスを販売することができるようになり、多くの会社が参入しています。それに伴って、販売競争が激化しています。新規参入の事業者に需要を奪われ、東京ガスなどの既存の大手はガスの販売量が減り気味となっています。それを補おうと電力販売や生活関連事業に力を入れています。一方で、地球温暖化問題への対応も迫られています。ガス業界は温室効果ガスである二酸化炭素(CO₂)をたくさん排出するため、業界としてCO₂の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルに取り組んでいます。自由化と脱炭素という二つの課題を乗り越えることができるかどうか、ガス業界は難しい時代を迎えています。

(写真は、業界最大手・東京ガスの本社ビル=東京都港区)

2022年4月からはガス管事業切り離し

 燃料として使うガスには都市ガスとLPガスの二つがあります。都市ガスは埋設したガス管を通して家庭などの最終ユーザーに届ける仕組みのものです。LPガスは、主にガス管が埋設されていない地域でガスを充填したボンベを運んで届けます。都市ガスは主にメタンガスから、LPガスはプロパンガスブタンガスからつくられます。都市ガスはかつて、ガス管を埋設している東京ガス(首都圏)、大阪ガス(近畿圏)、東邦ガス(中京圏)などの大手が地域独占の形で営業していました。しかし、2017年から都市ガスの小売り全面自由化が始まり、ガス管を持っていない会社でも東京ガスなどのガス管を使って家庭向けに都市ガスを供給することができるようになりました。さらに2022年4月からはガス管事業の部分だけが新会社として切り離されることになり、どの会社も公平にガス管を使うことができるようになります。業界の競争は一段と激しくなると思われます。

(写真は、東京ガスの内田高史社長=2021年12月9日、東京都港区)

東京ガス、大阪ガス、東邦ガスが大手3社

 ガスの業界団体としては日本ガス協会があります。正会員として加盟している事業者は全国で197(2020年11月現在)あります。純粋な民間会社が177で、市町村などが運営している公営の事業者が20です。自由化により新規参入を果たした電力会社系や石油元売り会社系などの事業者は業界団体に加盟していないところが多く、実際の事業者はもっと多くなっています。業界の大手として挙げられるのは、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社です。2021年3月期の売上高で見ると、東京ガスが1兆7651億円、大阪ガスが1兆3641億円、東邦ガスが4347億円となっています。首都圏、近畿圏、中京圏のそれぞれの経済規模を反映した売上高になっています。この3社のほか、売上高が1000億円を超えるのは、九州を中心とする西部ガス、関東一円に展開する日本瓦斯(ニチガス)、静岡県を中心とする静岡ガス、北海道を中心とする北海道ガスがあります。

(写真は、大阪ガスの本社=大阪市中央区)

ガスが減り、電気が増える

 既存のガス会社の多くは、主力商品のガスの売上高が落ちています。2021年3月期では、東京ガスは前期比15.4%減、大阪ガスは6.2%減、東邦ガスは15.6%減となっています。国内のガス需要全体が横ばいから下降傾向にあるうえ、自由化による競争激化の影響を受けています。一方、電気などの売上高は増えています。東京ガスは10.4%増、大阪ガスは22.7%増、東邦ガスは12.7%増となっています。ガスでは新規参入者に攻め込まれていますが、電気では新規参入者としてガス会社が攻め込んでいる構図です。ガスと電気をセットで売るためには、顧客を囲い込むことが大切になっています。そのためには、生活関連のサービスもあったほうがいいということで、家庭内の見守り、家事代行、水回りの修理、花の定期便などの事業にも力を入れ始めています。

(写真は、東邦ガスの本社=名古屋市熱田区)

燃料電池技術で水素を製造

 「脱炭素」も業界としての大きな課題です。都市ガスによるCO₂排出量は日本全体の約1割弱になります。日本ガス協会は2050年までに業界のCO₂排出量を実質ゼロにする方針を打ち出しています。その方策として期待しているのが水素の活用です。家庭用燃料電池の技術を生かして水素をつくり、それをCO₂と反応させて都市ガスの主成分であるメタンに変え、供給する想定です。メタンを燃やすときにはCO₂が出ますが、つくる時に取り込んだCO₂と相殺して実質ゼロにできるというわけです。ほかにもCO₂を回収、貯留、再利用するための技術開発をしたり、植林や森林保全に取り組んだりすることによって、カーボンニュートラルを目指そうと努力しています。

公共性もしっかり意識しよう

 ガス業界、中でも都市ガス業界は、少し前まで地域独占の安定した業界でした。しかし、自由化が進み、安穏とはしていられなくなっています。ただ、それでもガス供給は公共性の高い仕事であることに変わりはありません。2021年8月下旬には東京都内で6000戸を超える家で最大7日間、ガスの供給が止まりました。ガス管に大量の土砂や水が入り込んだことが原因でした。ガスは社会のインフラであることを改めて認識させた事故でした。品質に違いの出ない製品の販売競争は熾烈なものになりがちです。しかし、競争をするとともに公共性についてもしっかり意識することが必要だと思います。

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