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2022年01月07日

洋上風力で変わる電力業界地図 「安定」より「革新」へ【業界研究ニュース】

エネルギー

 電力業界は大きな転換期を迎えています。2021年10月に政府は新しいエネルギー基本計画を決めました。2030年度に再生可能エネルギーの割合を発電量全体の「36~38%」と2019年度実績の倍に引き上げる点が大きな変化です。世界的な脱炭素化の流れに対応するためで、原子力発電の割合も「20~22%」と従来の目標を維持しました。石炭火力発電から再生可能エネルギーへの主役交代となります。東京電力の小林喜光会長は社員向けの年頭あいさつで「大きな役割を担うのは再生可能エネルギーと原子力だ」と強調しました。再生可能エネルギーで大きな可能性を持つ洋上風力発電では、2021年末に国が促進地域にしている4カ所のうち「千葉県銚子沖」「秋田県能代市、三種町、男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」の事業者に中部電力三菱商事の子会社などの共同事業体が決まりました。あと1カ所の「長崎県五島市沖」の事業者には関西電力、中部電力などの共同事業体がすでに決まっていました。東京電力ホールディングスは銚子市沖の落札を再建計画に位置付けていましたが、落札できませんでした。東京電力はかつて業界の圧倒的なリーダーでしたが、2011年の東日本大震災による東電福島第一原子力発電所事故以来、存在感は小さくなり、代わって中部電力の台頭が目立っています。今後の再生可能エネルギーへの取り組み方次第で、業界地図はさらに塗り替わる可能性があります。

(写真は、風力発電所のブレードを点検をする作業員=2021年5月、秋田県由利本荘市)

中部電力が売り上げを伸ばす

 電力業界はかつて東京、関西、中部、東北九州中国北海道四国北陸沖縄の10電力会社がそれぞれの地域を独占して供給する形でした。それでは競争が働かず電気代は高止まりするということで、段階的に自由化が進みました。今では、地域をまたいだ営業も自由になり、10電力以外の新しい電力会社もたくさん参入しています。ただ、やはり規模が大きいのは10電力です。2021年3月期の売上高で見ると、東京電力が6兆円弱、関西電力と中部電力が3兆円前後、東北電力と九州電力が2兆円強、中国電力が約1兆3000億円、北海道電力、四国電力、北陸電力が6000~7000億円前後、沖縄電力が2000億円弱となっています。ただ、伸び方には違いがあります。東日本大震災後は原発の比重が大きかった東京電力と関西電力の伸びは小さく、原発の比重の小さかった中部電力が売上高を大きく伸ばしているのが目立ちます。

(写真は、中部電力本店=名古屋市東区)

九州電力は北九州沖で洋上風力

 新しいエネルギー基本計画にある通り、電力会社がこれから力を入れないといけないのは再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーには太陽光、風力、地熱などがありますが、太陽光発電は設置がかなり進み、適地が少なくなっています。地熱は国立公園に指定されているところに適地が多く、開発許可が簡単ではありません。風力も陸上には適地が少なくなっています。可能性が大きいのは、洋上です。日本のまわりの洋上には本格的な風力発電所はまだありません。洋上は一般的に陸上より風が強く、人が住んでいない広大な場所なので羽根を大きくすることもできます。1基あたりの発電量が陸上よりはるかに大きな発電所がたくさんできれば、再生可能エネルギーによる発電が飛躍的に増えることになります。当面は促進地域の4カ所で建設が進められる見込みですが、ほかにも計画はあります。九州電力は北九州市沖で他社と共同で建設する方針を示しています。

イギリスは「風力発電のサウジに」

 洋上風力発電はヨーロッパでさかんです。北海バルト海の沿岸部は比較的浅く、また一定方向の強い風が吹くため、たくさんの洋上風力発電所が設置されています。2010年から2020年にかけて世界の洋上風力の発電量は10倍になりましたが、2020年の発電量の7割をヨーロッパ諸国が占めています。特にイギリスは世界トップの発電量になっています。ジョンソン首相が「イギリスを風力発電のサウジアラビアにする」と言っており、2030年までには全家庭の電気を洋上風力発電で賄う目標を掲げています。ほかにドイツ、オランダ、ベルギー、デンマークも盛んです。最近ではアジアの国や地域も力を入れています。中国はイギリスに次ぐ世界第2位の発電量になっていますし、台湾も建設を進めています。

東電の悲願は柏崎刈羽の再稼働

 原発の再稼働も電力会社の悲願です。特に東京電力は、福島第一原発の6基と福島第二原発の4基の廃炉が決まっていて、新潟の柏崎刈羽原発の7基は止まったままです。原発は建設や廃炉にお金がかかりますが、いったんできた原発を動かす費用は安く済みます。そのため、柏崎刈羽原発を再稼働することができると経営が楽になることが予想され、何とか再稼働したい考えです。ただ、地元の理解が十分に得られておらず、再稼働の具体的なめどはまだたっていません。東電はほかにも福島第一原発にたまっている処理水の海洋放出やその後の廃炉という問題を抱えており、事故の処理に伴う負担はこれからも長く残ります。

(写真は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所=2021年3月、新潟県、朝日新聞社機から)

「安定」より「革新」がふさわしい

 かつて電力会社といえば「安定」という言葉が代名詞でした。しかし、自由化と福島第一原発事故によって安定は過去のものになりました。電力会社間の競争は激しくなり、勢いのある会社とそうでない会社の違いが出てきています。さらに脱炭素という課題も加わっています。洋上風力発電だけでなく、二酸化炭素を出さない水素アンモニアを使った発電の研究も必要になっています。また、効率のいい送配電網の整備や蓄電池の開発などは発電量が一定しない再生可能エネルギーを補完するために必要です。業界に課題は山積しており、安定より「革新」のほうがふさわしい言葉になりつつあります。

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