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2021年11月19日

「脱炭素」競う化学繊維業界 文理問わず変化に敏感な人必要【業界研究ニュース】

化学

 繊維業界は何度も大きな波を乗り越えて生き残ってきました。古くは生糸、綿などから作る天然繊維が、石油などから作る化学繊維にとってかわられる危機がありました。そこは、主力を化学繊維へ移行することで切り抜けました。その後、海外からの輸入繊維に圧迫されるようになると、フィルム、炭素繊維、医薬品、エレクトロニクス製品などに事業を多角化し、安定した事業構造に作り替えてきました。今や化学繊維業界と言っても、何を主につくっている会社かわからないほどです。今押し寄せている波は、地球環境問題です。化学繊維の原料は石油ですので、製造工程でも製品を焼却するときにも二酸化炭素(CO₂)が出ます。自動車業界や鉄鋼業界ほど多くはないため目立っていませんが、これからの大きな課題という点は同じです。原料を石油から動植物をもとにしたものに代えるとかリサイクルを徹底するとか、「脱炭素」への道筋はいくつかあります。朝日新聞デジタルでは、植物由来のたんぱく質から「鋼鉄より強く、伸び縮みはナイロン以上」という繊維をつくった慶応大学発のベンチャー企業を紹介しています。化学繊維業界は技術力で生き抜いてきた業界なので、脱炭素も技術力でクリアできるのではないかと期待されています。

(写真は、慶応大発のベンチャー「スパイバー」が開発した素材を使った糸や生地=同社提供)

協会には18社が正会員として加盟

 化学繊維業界には業界団体として、日本化学繊維協会があります。正会員は18社で、帝人東レクラレ東洋紡旭化成ユニチカ三菱ケミカル富士紡ホールディングス日東紡績セーレンダイワボウホールディングスカネカ、ニチビ、日本エステル、タイレ、クレハ大阪ガスケミカル、日本グラファイトファイバーが加盟しています。多くが東京証券取引所1部上場の大企業です。

戦前生まれの会社が多い

 会社名に「紡績」「紡」「ボウ」といった文字がついている会社がありますが、これらは天然繊維である生糸を紡ぐ紡績から始まった会社だからで、元をたどれば明治時代や大正時代に創業された歴史のある会社です。化学繊維は19世紀末にヨーロッパでレーヨンが発明されて以来、徐々に世界で会社が立ち上がってきました。東レは東洋レーヨンという社名で、1926年にレーヨンをつくる会社として創業しました。帝人は1918年に帝国人造絹糸という社名で創業しました。人造絹糸というのはレーヨンのことです。紡績の名がつく会社よりは新しいのですが、それでも戦前生まれの会社が多い業界です。

力を入れる医療分野

 今から50年くらい前まで化学繊維業界は大学生にとても人気がある企業でした。日本の化学繊維は日本国内でも海外でもよく売れました。しかし、アメリカとの貿易摩擦が激しくなり、輸出の自主規制が行われるようになったり、アジアなどの発展途上国が輸出国になったりしたことで、日本の繊維産業は斜陽になりました。ただ、繊維から派生する化学品に事業を拡げ、今では繊維業界とくくるのがはばかられるような業態になっています。例えば、東レなら事業分野は繊維、機能化成品、炭素繊維複合材料、環境・エンジニアリング、ライフサイエンス・その他と五つに分かれています。今や東レで有名なのは、航空機の機体にも使われている炭素繊維複合材料や浄水場などで使われる水処理膜などです。旭化成でも、マテリアル、住宅、ヘルスケアの三つの領域に分けていて、繊維はマテリアルの中のひとつという位置づけです。旭化成といえば、住宅のヘーベルハウスや商品を包むサランラップなどが有名で、繊維のイメージは薄くなっています。多くの繊維会社が力を入れているのが、医薬品や医療機器といった医療分野です。コロナ禍では不織布マスク、医療用ガウン、防護服、衛生ワイパーなども大量に必要とされています。こうした医療分野も利益面で大いに貢献するようになっています。

(写真は、東レの炭素繊維がたくさん使われているボーイング787型機=全日空提供)

環境問題は「チャンスだ」

 今、課題として浮上しているのが地球環境問題です。繊維製品もプラスチックなどのケミカル製品も石油がもとになっています。製造する際や最終的に処分する際に出るCO₂の問題やマイクロプラスチックが海洋を汚染する問題などの解決策を求められています。東レの日覚昭広社長(写真)は2021年6月の朝日新聞の取材に対し「石油からつくられている化学品は、植物など再生可能な資源を原料として活用する『バイオ化』や、リサイクルをできるようにしないといけません」と語っています。そのうえで「日本の技術力を生かせるチャンスだ」と意気込んでいます。これまで何度もあったピンチを乗り越えてきた経験が前向きな言葉になっているようです。

海外駐在員が10年で73%増える

 各社ともグローバル化を進めているのも特徴です。東レは29カ国で展開していて、海外の売上比率が全体の56%にも上ります。海外の駐在員数はこの10年で73%も増えているそうです。帝人も海外のグループ会社が118社もあり、海外従業員の比率は53%にのぼります。海外売上比率は44%です。旭化成は、住宅部門がほぼ国内だけにもかかわらず、海外売上比率が43%になっています。国内のマーケットが大きくならないので海外に出ていくというのは、ほかの業界と同じ構図です。

理系文系問わず変化に敏感な人材

 化学繊維業界の会社は今やどこも研究開発型企業になっています。かつては生産した繊維をアパレルなどの業界に売る営業が重要でしたが、今はいかに新しい技術や製品を開発するかが大事な業界になっています。どちらかというと理系の学生が関心を持つ業界といえます。ただ、地球環境問題などへの取り組みは社会の動きをとらえ、社会とうまくコミュニケーションをとることも大事になってきます。理系、文系を問わず、時代の変化に敏感な人材が必要とされます。

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