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2018年07月11日

プラごみ問題と化学業界 ピンチをチャンスに変えられるか?

化学

 プラスチックのごみ問題が地球規模の問題として浮上しています。捨てられたプラスチック製品が海に流れ込み、紫外線などで劣化して5ミリ以下の微少な粒「マイクロプラスチック」になって海洋を汚染しているのです。魚が取り込み続けると、人間も含めた生態系に重大な影響を与えると心配されています。こうした問題意識は世界に急速に広がっていて、スターバックスがプラスチック製ストローを廃止すると発表するなど動きが出ています。プラスチック製品のほとんどは石油からできており、大手から中小企業までたくさんの化学関連会社が製造に関わっています。今の流れからすると、完全に分解されず、循環もされにくいプラスチック製品の製造や流通に規制がかかるのは時間の問題だと思われます。プラスチック関連業界には痛手ですが、規制が生まれれば、ビジネスチャンスも生まれます。今のプラスチックに代わる素材で新しい製品を作れば、大成功するかもしれません。「ピンチの裏にはチャンスあり」は野球だけの格言ではありません。

(写真は、スターバックスがストローの代わりに導入する飲み口つきのふた=同社提供)

サミットで憲章をまとめる

 プラスチックごみ問題は数年前から指摘されていましたが、今年6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、リサイクルなどの数値目標や具体的な行動を促す「海洋プラスチック憲章」をまとめたことから、さらに大きな地球環境問題のテーマとして注目されるようになりました。この憲章については欧州各国やカナダは署名しましたが、アメリカと日本は署名しませんでした。「生活や産業への影響を慎重に検討する必要がある」というのが理由です。

(写真は、プラスチックごみに覆われたハワイ島のカミロビーチ)

英仏、台湾などですでに規制

 しかし、世界ではすでに国や企業が対策に動き出しています。フランスではレジ袋の配布が禁止されたり、イギリスではストローやマドラーなどの販売を禁止する方針が示されたりしています。台湾も来年7月からファストフード店などでプラスチック製ストローを出すことを禁じることにしました。また歯磨き粉や洗顔料にはマイクロビーズと呼ばれるマイクロプラスチックが含まれていることが多く、マイクロビーズ入り製品の製造や販売を禁止した国もあります。企業としてはスターバックスが早速ストロー廃止を打ち出しました。今、グローバルに展開する企業は地球環境問題に敏感であることが大切になっていて、スターバックスに追随してプラスチック製品の使用をやめる企業は増えていくと考えられます。

(写真は、台湾名物のタピオカミルクティー。ストロー使用を禁止する当局の規制案に、「グラスの底のタピオカをどう飲むか」が議論に)

プラスチック業界は1万社以上

 国連の報告書によると、使い捨てプラごみを最も多く出しているのは中国で年間約4000万トンです。日本はその8分の1ですが、1人当たりに換算すると、日本は約32キロでアメリカに次いで世界2位でした。そもそも日本はプラスチック製品の生産量も多く、業界規模は10数兆円とみられています。プラスチックは石油を精製してナフサを作り、そこから原料となる合成樹脂を作ります。そこから一次加工業者が成形し、二次加工業者が組み立てや塗装などをして最終製品にします。ナフサから合成樹脂を作る川上の企業は、石油化学の大手企業が主に担い、一次加工業者、二次加工業者と川下に向かうほど中小企業が増えていきます。プラスチック製品製造業というくくりでいえば、日本で1万社を超える企業があるとされています。

(写真は、琵琶湖や大阪湾で見つかったマイクロプラスチック=田中周平京大准教授提供)

バイオプラスチックなど有望

 プラスチック製品の製造や流通に規制がかかるとすれば、業界に痛手であることは間違いありません。ただ、代わりになるものの需要は新たに生まれることになります。例えば、バイオプラスチックがあります。土に埋めるなどすると微生物によって自然に分解されるプラスチックです。再生可能な生物由来の材料を使ったものが多いのですが、中には石油から作っても自然に分解されるプラスチックもあります。ほかにも、どうしてもプラスチックでなければならない製品でなければ、ほかの材料に置き換えたり、形状を変えたり、使い方を変えたりして脱プラスチックを図ることは可能です。

(写真は、カネカの生分解性プラスチックを使った製品=同社ホームページから)

ピンチをチャンスに変えた自動車業界

 規制というピンチをチャンスに変えた例として有名なのは、日本の自動車メーカーです。1970年代に排気ガスによる公害問題が起き、アメリカで自動車の排気ガスを大幅に減らす規制が導入されました。途方に暮れる自動車会社が多かった中、ホンダを先頭に日本の自動車メーカーは排気ガスを減らしても性能がほとんど落ちない新型エンジンを開発しました。日本車が世界でトップシェアを競うまでに成長したのは、この排気ガス対策がきっかけと言われています。日本のモノづくりは20世紀後半をピークに徐々に評判を落としていますが、それでもまだ高いレベルにあるはずです。プラスチックに代わる環境にやさしい製品を開発して、ピンチをチャンスに変えることを化学業界には期待したいと思います。

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