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2021年11月05日

コロナ後の鉄道業界は? 苦境続くも「環境にやさしい」は追い風【業界研究ニュース】

運輸

 コロナ禍がおさまり人の動きが出てきていますが、鉄道業界にはまだはっきりとした明るさは見えません。コロナの第6波を警戒しながらの人々の活動再開なので、旅客の戻りはゆっくりとしています。JR各社は2021年4~9月決算を発表しましたが、依然赤字が続いています。期初には各社とも2022年3月期は黒字に転換すると予想していましたが、各社とも見通しを下方修正し、通期でも赤字を見込んでいます。テレワークが定着し、定期券の売り上げが落ちていたり出張が減っていたりすることが大きく足を引っ張っています。予想より減収が長引いているため、対策として料金の引き上げやダイヤの見直しを進める動きが出ています。リニア中央新幹線に莫大な投資をしているJR東海は、工事の遅れも重なり、他社以上に先行きの不透明感が強まっています。ただ鉄道はほかの乗り物に比べて運ぶ人や貨物あたりの二酸化炭素の排出量が少なく、地球環境にやさしい乗り物としてヨーロッパなどで見直されています。コロナ後の鉄道事業については、テレワークの定着という逆風とともに、環境にやさしいという追い風がどれくらい強まるかにも注目しましょう。

(写真は、東海道新幹線の「N700S」=JR東海提供)

全国に245社、大手は21社

 日本の鉄道事業者は、モノレール路面電車なども含めて全国に245社あります。うち大手とよばれているのが21社です。2021年3月期の売り上げ順に並べると、JR東日本東急JR西日本、JR東海、近鉄阪急阪神東武名鉄小田急西鉄西武京王東京メトロJR九州京阪京急相鉄京成南海JR北海道JR四国になります。JR東日本の1兆7645億円からJR四国の277億円まで大手といえども大きな差があります。

JR3社は今期300億~1600億円の赤字予想

 JR東日本、JR西日本、JR東海の3社の2021年9月中間決算では、いずれも前年同期より増収だったものの最終的なもうけを示す純損益は大幅な赤字が続いています。2022年3月期決算でも純損益は300億~1600億円の赤字を見込んでいます。出張や旅行での新幹線利用が落ち込んでいるうえ、テレワークの普及による通勤客の減少も痛手となっています。

JR各社の人気は50位以下に落ちる

 鉄道業界は、最近の大学生の就職人気をみると比較的高い業界でした。2021年卒までの学情就職人気企業ランキングではJR東日本、JR東海、JR西日本あたりは50以内の常連でした。鉄道好きの学生だけでなく、業績が安定していることや資産を多く持っていることも評価されての人気だったとみられています。しかし、コロナ禍で苦境となり、2022年卒のランキングでは45位に近鉄が入っていますが、JR各社は50位以下に落ちています。

あさがくナビ就職人気企業ランキング(2022年卒学生対象)はこちら

(写真は、乗降客数日本一の新宿駅=東京都渋谷区の小田急ホテルセンチュリーサザンタワーから撮影)

運賃値上げとコスト削減

 長引く売り上げ減少への対策として、各社とも運賃の改定を検討しています。JR東日本は来年春から指定席料金の変動幅を600円に増やし、お盆休みなどの最繁忙期には400円値上げします。閑散期には値下げをするため、総収入では変わらないそうですが、料金の変動制を定着させて将来の増収につなげる狙いが見えます。JR東海、JR西日本、JR九州なども同じような特急料金の変動制を検討しています。また、私鉄でも運賃値上げの動きが出ています。西日本鉄道(福岡市)は2021年3月から一部区間の値上げを実施しました。東急電鉄なども運賃改定の検討を始めています。一方、減便によるコスト削減も行われています。JR西日本は2021年10月から127本の減便を実施しました。ほかにも減便や終電の繰り上げを実施している鉄道会社は多く、コスト削減への取り組みが本格化しています。

ホテルやレジャー施設は助けにならず

 鉄道会社は近年、ホテルやレジャー施設の建設・運営、駅ナカでの物品販売、ビルや住宅の販売や賃貸をする不動産事業など、鉄道以外の事業にも力を入れてきました。不動産事業は比較的順調に利益を出しているところが多いのですが、ホテルやレジャー施設、駅ナカの物品販売は人流が減ることで鉄道同様に落ち込んでおり、本業の助けになっていません。ホテルやレジャー施設に強い西武鉄道がほかの私鉄に比べて赤字が大きくなっているのはそのためです。

速くて快適を伸ばせるか

 鉄道事業は社会のインフラとしてなくてはならない事業です。しかも、土地などの豊富な資産があり、少々の赤字で経営が傾くことはなく、比較的安定した事業というのは今も変わりません。ただ、人口が減っている日本で売り上げを伸ばすのはもともと難しいところに、テレワークが進むという逆風が予想されます。海外進出は容易でない業界ですので、国内で航空機やバスなどとの競争に勝つことが重要になります。環境にやさしいことに加え、速くて快適という乗り物本来のよさを伸ばすことに力をいれなければなりません。

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