コンビニエンス業界はコロナ禍で売り上げを落としました。人流の抑制によりビジネス街や観光地に立地している店舗が不振となったためです。しかし、今年になって落ち込みも徐々に解消され、再び成長に向けて動き出しています。ファミリーマートは「お母さん食堂」や「ファミリーマートコレクション」などの名称で展開していたプライベートブランドを「ファミマル」に統一すると発表しました。コンビニ業界では、巣ごもり需要によってプライベートブランド(PB)の食品が好調で、ファミリーマートはその分野で攻勢をかけようとしています。コンビニ業界はほかにも、無人店舗を増やしたり、海外進出に力を入れたり、ほかの業界と提携したり、ネット宅配に力を入れたり、ここにきて様々な動きを見せています。コンビニが日本にできてから50年近くがたち、国内の店舗数は約5万6000にまで増えました。ここまでくると国内に好立地の場所は少なくなり、国内店舗数としては飽和状態になっています。だからこそ新たな成長のためにあの手この手を繰り出しているのです。スーパーマーケットやネット通販との競争はこれからますます熾烈になると思いますが、コンビニは私たちの生活のインフラになっていますので、やり方次第ではまだまだ成長できる余地はありそうです。
(写真は、ファミリーマートの新PB「ファミマル」の発表会=2021年10月18日、東京都港区)
日常に近づき売り上げが盛り返す
日本フランチャイズチェーン協会によると、2020年のコンビニエンスストア大手7社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、セイコーマート、デイリーヤマザキ、ポプラ)の売上高合計は10兆6608億円で、2019年に比べて4.5%減りました。前年を下回るのは、比較できる2005年以降では初めてでした。コンビニ大手3社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)の2021年2月期決算では3社とも減収となり、ファミリーマートは赤字に転落しました。しかしその後、じりじりと売り上げは増え、2021年8月中間決算では3社とも増収となり、営業利益も3社とも増えました。コロナ禍での巣ごもり生活を反映して総菜、冷凍食品、牛乳や卵などの食品が好調になっています。コロナ禍で人出がピタッと止まった2020年前半に比べると、ビジネス街や観光地にも少しずつ人が戻り、かつての日常に近づいたことが盛り返しにつながったようです。
コンビニのいきおいをネット通販が奪う
コンビニ業界は2019年まで一貫して売り上げを伸ばしてきました。流通業界の中で見ると、2008年には売上高で初めて百貨店を抜き、スーパーに次ぐ2位になりました。スーパーにはまだ追いつけていませんが、差は縮まっています。ただ、最近はネット通販の伸びが著しく、経済産業省の調査によると2020年の物販系の電子商取引は12兆円を超えており、コンビニの売上高を抜いています。かつてのコンビニのいきおいは、ネット通販に奪われた格好です。
セブンは国内より海外のほうが多い
国内で店舗数を増やすのは限界に近づいていますので、各社は海外進出に力を入れています。セブン-イレブンは今でも海外16カ国・地域に約5万店を展開していますが、2026年2月期までに海外店舗を6万5000とする計画を立てています。国内の店舗数が2万1210店(2021年9月末)なので、国内を大きく上回る海外店舗数となります。セブン-イレブンは北米に強いのが特徴で、2021年上期には米コンビニ大手のスピードウェイを買収し、さらなる強化に努めています。ファミリーマートは台湾、中国を中心としたアジアに8300店余りを展開しています。ローソンは中国を中心に3500店余りを展開しています。ミニストップは韓国に重点的に展開していて、店舗数は日本より韓国のほうが多くなっています。
(大手3社店舗数のグラフは、セブンは2019年末、他の2社は2020年1月末時点)
レジの無人化で狭くても出店
店舗やレジの無人化も進めています。ファミリーマートでは商品棚の重量センサーや店内カメラの映像情報を組み合わせて、どの客がどんな商品を持ち歩いているかを把握。客が決済エリアに立つだけで支払総額が表示される仕組みです。ローソンは客が自分で商品のバーコードの読み取り操作をして精算する仕組みを進めています。こうした店舗はバックヤードに店員を配置するので完全な無人ではありませんが、レジを無人化すると店員を減らせるうえ、レジ空間を小さくできるので、これまでより狭い立地でも出店できるようになります。これからは完全な無人店舗も増えていきそうです。ファミリーマートは日本郵政グループと提携して、全国の郵便局内に無人のコンビニを設置する計画を立てていると報道されています。商品の補充などは近隣のコンビニ店員が担当する計画です。セブン-イレブンはネット宅配に力を入れています。1000円以上の買い物が必要で配達料もかかりますが、スマホで注文すると最短30分で配達されるという便利さから、今後伸びるとみているようです。
(写真はファミリーマートの無人決済店舗。入退場ゲートから入店後は天井のカメラで位置情報を追跡し個人を識別する=2021年8月、東京都新宿区)
大胆な発想や魅力的なアイデア
ここ数年、「コンビニの曲がり角」が言われてきました。国内市場の飽和や過重労働に耐えかねたオーナーたちが24時間営業の見直しなどを訴え始めたためです。そこにコロナ禍がきて、業界は国内の店舗数が増えなくても成長できるビジネスモデルをつくることに本気になったようです。そのためにはコンビニの最大の売りである便利さにプラスする価値が欲しいところです。転換期だけに社員には新たな価値を生み出す大胆な発想や魅力的なアイデアが求められます。コンビニ業界を志望する人は、10年後、20年後のコンビニの姿について考えるようにしてみてください。
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