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2021年10月08日

印刷2強の凸版と大日本、「脱印刷」を加速【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 印刷や印刷に関係した仕事をしている会社は全国で2万を超します。中小企業がひしめく印刷業界ですが、圧倒的に大きな会社が2社あります。凸版印刷大日本印刷です。両社は古くからのライバルで、企業規模も肩を並べています。ただ、この2社は今や印刷会社と言っていいのかと思うほど多角化しています。デジタル社会が進み、紙に文字や写真やイラストなどを大量に写していく昔ながらの印刷の仕事が減っているためです。代わりに印刷に関わるテクノロジーを生かして、幅広く先端分野に進出しています。大日本印刷がNTT東西と共同で大学の教科書を電子化して配信する会社をつくるのも、そうした「脱印刷」を急ぐ動きの一環です。将来性が評価されているのか、2社は就活生の人気も高くなっています。ただ、すべての印刷会社が両社のように脱印刷をうまく進めているわけではありません。昔ながらの印刷事業が先細りになり、将来が危ぶまれる会社も少なくありません。印刷業界といっても、ひとくくりにできない業界になっています。

(写真は、大日本印刷を取り上げた「人事のホンネ2021シーズン」の記事)

凸版と大日本がとびぬけて大きい

 経済産業省の工業統計によると、2019年時点で印刷・同関連業界の事業者数は2万強もあります。出荷額は5兆円弱です。2021年3月期の連結売上高が最も大きいのは凸版印刷で、1兆4669億円です。2位が大日本印刷で1兆3354億円です。3位はNISSHA(旧日本写真印刷)で1800億円(2020年12月期)、4位はTOMOWEL(共同印刷)で910億円(2021年3月期)でした。凸版印刷と大日本印刷が3位以下を大きく引き離しています。両社の売上高を合計すると、業界全体の出荷額の半分を上回り、この2社が業界で抜きんでて大きいということがわかると思います。この2社は就職人気も高く、あさがくナビの2022年新卒者就職人気企業ランキングでは、大日本印刷が7位、凸版印刷が44位に入っています。

デジタルの先端分野にも強み

 印刷は、雑誌などの出版印刷、ポスターなどの商業印刷、パッケージなどの包装印刷、伝票などの事務用印刷、証券類の証券印刷などに分かれます。しかし、いずれも電子化されつつあり、印刷・同関連業界の出荷額は21世紀になってから減少傾向が続いています。こうした傾向を見越して、凸版印刷も大日本印刷も20世紀後半から紙への印刷以外の分野に進出してきました。21世紀になってその動きは加速し、今や半導体関連製品やバーチャルリアリティー(VR)などデジタル社会の先端分野にも強みを発揮しています。

(写真は、「朝日地球会議」で凸版印刷のVR技術について説明する同社の幹部=2017年10月、東京都千代田区)

2社の事業構成はよく似ている

 凸版印刷と大日本印刷の事業分野の分け方は基本的に同じです。凸版印刷は情報コミュニケーション事業分野、生活・産業事業分野、エレクトロニクス事業分野、その他という分け方になっています。大日本印刷もほぼ同じで、子会社の北海道コカ・コーラボトリングの飲料事業が加わる点が違うだけです。情報コミュニケーション分野には昔からの印刷事業が含まれているほか、他企業へのデジタルトランスフォーメーション(DX)支援などが入っています。凸版印刷はこの分野が売上高の60%あり、大日本印刷は54%です。生活・産業事業分野は包装、住宅などの内外装材、電池の部材などですが、凸版印刷は29%で大日本印刷は28%です。エレクトロニクス事業分野はディスプレー関連や電子デバイス関連が入っていて、凸版は13%、大日本は15%となっています。両社とも情報コミュニケーション分野は少しずつシェアを落としていて、生活・産業事業分野とエレクトロニクス事業分野は少しずつシェアを増やす傾向にあります。

2社は海外勤務が増える傾向

 グローバル展開についても両社は力を入れています。人口減少の日本市場だけでなく、成長する世界の市場を取り込もうという狙いです。特に包装材や建物の内外装に使う建装材を中心に世界での生産と販売に力を入れる方針です。すでに海外企業の買収を進めており、大日本印刷は全体に占める海外での売上比率は18%にまで上がっています。また、凸版印刷は2025年度には海外生活系事業で営業利益を全体の15%以上にする目標を立てています。拠点は両社ともアメリカ、ヨーロッパ、アジアの各地に置いており、海外勤務が増える傾向にあります。

変化に適応して生き残る

 社会の変化のスピードは上がっています。長年やってきた主力製品がなくなってしまうこともあります。21世紀初めには、カメラのデジタル化によって写真フィルムがほぼなくなりました。写真フィルムの製造を主力としていた富士フイルムはフィルム製造で培った技術をもとに製薬、化粧品、医療機器などの分野に進出し、見事に転換に成功しました。印刷業はなくなるわけではありませんが、紙への印刷はデジタルに置き換えられて減り続けています。印刷2社も富士フイルムのように培ってきた技術を生かして、今や何をしている会社かわからないほど多くの分野で商品やサービスを展開しています。グローバル化やデジタル化が急速に進み、変化に対応できない企業は生き残れない時代です。印刷業界全体が変化にうまく適応できるわけではありませんが、少なくとも2強は変化にうまく適応しつつあるとみていいと思います。

●2021シーズンの「人事のホンネ 大日本印刷(DNP)」
富士フイルムもキリン「ヘルス」の会社? 企業の変化を調べよう【イチ押しニュース】
も読んでみてください。
編集長動画 ココが就活ポイント!「企業人事部・編集長対談」凸版印刷採用担当に聞く!
もぜひご覧ください。

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