業界研究ニュース 略歴

2021年09月24日

家電量販店のカギは通販と非家電 家具店・ホームセンターと競う【業界研究ニュース】

流通

 家電を買いたくなったときに、みなさんはどうしますか。なじみの「町の電器屋さん」に行くという人は今ほとんどいないと思います。近くの家電量販店に行く人が多いと思いますが、インターネット通販のサイトを開いてみるという人もいるでしょう。家電は規格が統一されているので比較がしやすい商品です。その分、価格競争に走りがちで、家電販売はとても競争が激しい世界です。家電量販店は業界内で競争を繰り広げてきましたが、最近ではネット通販とも競争を強いられています。厚生労働省は茨城県内の大型家電量販店に正社員の年間休日数を最低でも111日にしないといけないという決定を出しました。「ある会社の労働組合が会社と決めた労働条件が同じ地域の同じような会社すべてに適用される」という労働協約にもとづいたもので、とても珍しい決定でした。競争の激しい家電量販店業界は労働条件が悪化しているという見方が決定の背景にあったようです。とはいえ、人口減の国内では家電の大きな伸びは期待できず、ネット通販の伸びは止まりそうにありません。家電量販店は家電以外の分野に出て行ったり自らネット通販に力を入れたりして、これからも激しい競争を勝ち抜いていくしかありません。前向きに見れば、新しいことに挑戦する機会の多いおもしろい業界とも言えます。

(写真は、ヤマダホールディングスの店舗=2021年9月20日、茨城県)

2020年度は業績好調、今期は?

 家電量販店業界は、コロナ禍の2020年度は業績が好調でした。自宅にいることが増え、エアコンを買い替えたり、パソコンやゲーム機などを買う人が増えたりしたためです。1人10万円の定額給付金が配られたことも追い風になりました。ただ、2021年度になって巣ごもり需要も一段落し、今期は減益になるという見通しを明らかにする企業が増えています。

(写真は、コジマ×ビックカメラ高崎店=2018年12月、群馬県高崎市)

発祥の地を中心に地域的な強みあり

 家電量販店業界の直近の決算から売り上げトップ10をみると、
ヤマダデンキのヤマダホールディングス ②ビックカメラ ③ケーズデンキのケースホールディングスエディオン ⑤ヨドバシカメラ ⑥ノジマ上新電機コジマベスト電器ラオックス
の順になります。

 トップのヤマダホールディングスは2位のビックカメラのほぼ倍の売上高があり、断トツです。各社は発祥の地が様々で、強い地域が違うという特徴があります。ヤマダデンキは群馬県が発祥で北関東から全国に店を広げ、今や47都道府県すべてに店があります。ビックカメラはカメラ販売店として群馬県で創業し、その後家電に力を入れました。関東に強みがあります。ケーズデンキは茨城県の発祥で、関東のほか東北、北海道にも多くの店を持っています。エディオンは中部地方の量販店と中国地方の量販店が経営統合してできた経緯があるため、中部から近畿、中国、四国に手厚く展開しています。ヨドバシカメラはカメラ販売店として東京でスタートしており、今も東日本が中心です。ノジマは神奈川県発祥の会社で、首都圏中心に展開しています。上新電機は大阪の電気街である日本橋で創業しており、今も近畿地方で強さを発揮しています。コジマは栃木県の発祥で、今はビックカメラの傘下に入っており、ビックカメラとの共同出店などで全国展開しています。ベスト電器は福岡発祥で、今はヤマダホールディングスの傘下に入っています。九州に強みがあります。ラオックスは2009年、中国の家電量販大手「蘇寧(そねい)電器」の傘下に入りました。

(写真は、ケーズホールディングスの店舗=2021年9月20日、茨城県水戸市)

ヨドバシカメラはネット通販伸ばす

 家電の販売ルートとしては、ここにきてネット通販が伸びています。経済産業省の「電子商取引における市場調査」によると、生活家電、AV機器、パソコンとその周辺機器は、2020年には販売額全体の37%がネット通販です。経産省が調査した品目全体のネット通販比率は8%なので、その高さが際立っています。電気製品は規格が統一されているので性能、仕様、価格などを比べやすく、ネット通販になじみやすい商品と言われます。また、店頭で販売員に特定のメーカーの製品をすすめられたり、販売員と価格交渉の駆け引きをしたりするのを嫌がる人がネット通販に流れるという面もあるようです。こうした流れがあることから家電量販店各社はネット通販にも力を入れ始めていて、先行するヨドバシカメラは「全品どこでも送料無料」をうたい、売り上げを伸ばしています。

(写真は、仙台駅東口に建設される商業ビルのイメージ=ヨドバシホールディングス提供)

ニトリ、イケア、カインズもライバル

 家電量販店は非家電化も進めつつあります。ヤマダホールディングスは家具、雑貨、日用品といった非家電分野を強化する方針で、新しく出店する大型店では売り場の約半分を非家電とすることにしています。人口が減る中、家電だけでは先細りだということで、非家電分野を大きくして成長を持続させる考えです。しかし、一方でニトリイケア、カインズといった家具販売店やホームセンターが家電販売に力を入れる動きがあります。ファミリー向けの安い白物家電プライベートブランド(PB)で販売しています。家電量販店と家具販売店やホームセンターが互いの分野に攻め込もうとしているわけで、業界間の競争に発展しつつあります。

(写真は、ニトリホールディングスと島忠の初の融合店舗「ニトリホームズ宮原店」=2021年6月、さいたま市)

競争は続き、安泰とはならず

 家電量販店は20世紀後半に全国各地で生まれ、安さと品ぞろえで「街の電器屋さん」にとってかわりました。そうした成長期を経て、21世紀になって経営統合子会社化が進み、業界内競争はやや落ち着きを見せています。ただ、ネット通販との競争や異業種との陣取り合戦が本格的になりつつあります。「このあたりで安泰」とならないところが、業界の宿命かもしれません。家電商品に限らずこれからどういう商品がどういうところで必要になり、どういう売り方、買い方が好まれるのか。こういったことを考え、実行に移すことに興味がある人が向いていると思います。

(写真は、エディオンなんば本店の東京五輪特設売り場=2021年7月、大阪市中央区)

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