2024年11月、日本テレビ系列の札幌テレビ放送、中京テレビ放送、読売テレビ放送、福岡放送の4社が共同で「読売中京FSホールディングス(略称:FYCSHD フィックスホールディングス)」を、2025年4月1日付で設立すると発表しました。地方テレビ局の中核的存在だった4社が経営統合するということです。その背景にあるのは「テレビ離れ」です。
情報も娯楽もインターネットを通じて得る人が増え、テレビを視聴する人が減っています。にもかかわらず、テレビ局には放送がデジタル化したことにより、大きな設備投資が必要となっています。このため、経営基盤の弱い地方局(ローカル局)は業績が厳しくなっているのです。今回の経営統合は、そうした環境を基盤強化で乗り切ろうとする試みです。ほかのテレビ局の系列も環境は同じで、これから経営統合の動きはさらに出てくるでしょう。テレビ局は今、テレビ離れをネットへの進出でカバーしようという動きを見せています。テレビ局にはドラマやバラエティーなどのコンテンツを制作する力は健在で、すでに持っているキャラクターなどの権利もあります。蓄積した財産を生かして、環境の変化を乗り切ろうとしているのです。
(写真・読売テレビ放送=大阪市中央区/朝日新聞社)
新規参入は難しい業界
日本のテレビ放送業界は、公共放送である日本放送協会(NHK)と東京に本社を置くキー局といわれる民間放送(民放)5社=日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビが中心となっています。大阪には、近畿地方を主なエリアとする準キー局といわれる放送局があり、キー局とは系列関係となっています(日本テレビ系列=読売テレビ、テレビ朝日系列=朝日放送、TBS系列=毎日放送、フジテレビ系列=関西テレビ)。また、各都道府県にはローカル局があり、キー局の系列となっていることが多いです。キー局は多くの番組を制作しており、準キー局も独自番組を多く制作していますが、ローカル局の独自制作番組はニュースなど一部です。テレビ放送は国からの免許がなければできないため、特に視聴者数が多いこれら「地上波」の放送局については、新規参入は非常に難しいとみられる業界です。ただ、地上波以外には衛星放送のチャンネルもあり、さらに近年話題のドラマを多数送り出したNetflix(ネットフリックス)など、インターネットをプラットフォームにして動画コンテンツを配信するサービスも増えてきています。
(写真・NHK放送センター=東京都渋谷区/朝日新聞社)
公共性の高いNHK、娯楽性の強い民放
NHKと民放は経営形態が違います。NHKはテレビの保有者から受信料を徴収することで成り立っていますが、民放は番組の間に放送するコマーシャル(CM)によるスポンサー収入で成り立っています。NHKは公共放送のため、予算や決算は国会で承認されなければなりません。そのため番組には公共性が求められ、ニュースや災害情報などに強みがあります。民放も限られた公共の電波を使うということで公共性は求められますが、NHKに比べるとその程度は低く、娯楽性が高くなっています。
制作、技術、営業など仕事はいろいろ
テレビ局にはいろいろな仕事があります。大きく分けると番組制作の仕事、機材や電波に関わる技術の仕事、営業や事務の仕事の3つです。番組制作の仕事のなかでも、制作を指揮するプロデューサー、制作に携わるディレクター、報道記者、アナウンサー、カメラマンといったさまざまな職種があります。さらに番組を制作してテレビ局に納めたり、下請けとしてテレビ局に入って一緒に制作したりする制作会社(プロダクション)がテレビ局とは別に存在しています。番組の時間枠や並び順などを決める「編成」も番組制作の仕上げの仕事として重要です。
(写真・会見する岸田文雄首相(当時)を中継するテレビカメラ=2023年2月/朝日新聞社)
視聴率の低下傾向は続く
テレビ局が今競合しているのは、インターネットです。特に若い人はYouTubeやSNSに時間を使うようになっています。テレビ視聴率はかつて世帯視聴率を指標にしていて、20%を超える視聴率の番組がいくつもあったのですが、今は10%を超えると高視聴率と言われるようになっています。また、世帯視聴率は高齢者が視聴する番組が高くなる傾向があるということで、今は若い人の視聴率もわかる個人視聴率が業界で重視されるようになっています。その個人視聴率も低下傾向にあり、若者のテレビ離れが進んでいるのは間違いなさそうです。
ネット配信に積極的に取り組む
テレビ局はインターネットによる配信に力を入れるようになっています。「TVer」、「U-NEXT」、「NHKプラス」などは、地上波で放送した番組をネットでも見ることができるサービスです。テレビ朝日がサイバーエージェントと組んで展開しているウェブサービス「ABEMA」はネット独自の番組を配信しています。さらに、テレビ局はネットフリックスなどのネット配信専業のプラットフォームにもドラマなどの番組を提供しています。テレビ局はかつてネットを敵視していましたが、今はネット事業に積極的に取り組むようになっています。こうした取り組みやテレビ以外のビジネス展開により、テレビ離れが進んでもキー局全体の業績は今のところ堅調に推移しています。
(写真はiStock)
「やりたいことがある」という人は挑戦を
業界の当面の課題は、ローカル局の経営が厳しくなっていることです。テレビ離れだけでなく、人口減少によって視聴者やスポンサーが減っていること、デジタル化で設備投資が増えていること、独自のコンテンツがなくネット展開ができないことなどが原因です。そうしたことから、今後さらにローカル局の統合やキー局との系列強化の動きが出てくることが予想されます。ただ、現段階でこの動きがキー局や準キー局の再編にまで及ぶと考えている人はまだ多くはありません。まだしばらくは、主要メディアとしてのテレビの地位は変わらないと思われます。テレビ局の仕事は時間が不規則だったり勝ち負けがはっきりしていたりする厳しい仕事です。ただ、人々の心を動かせるやりがいのあるクリエイティブな仕事でもあります。「テレビ局に入ってやりたいことがある」という強い気持ちを持っている人は、ぜひ挑戦してみてください。
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