半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスが2024年12月、東京証券取引所プライム市場に株式上場しました。キオクシアは東芝が2017年に「虎の子」のメモリー事業を分社化し、翌年にアメリカの投資ファンドが率いる日米韓の企業連合が買収して誕生した会社です。東芝から分かれて7年で上場にこぎつけました。
最近、半導体業界の前向きなニュースをよく見かけます。政府が巨額の補助金を出して誘致した台湾の半導体受託製造会社のTSMC(台湾積体電路製造)熊本工場が完成し、第2工場の建設もまもなく始まります。北海道千歳市には政府や大手企業が出資して最先端半導体の生産を目指す「ラピダス」が急ピッチで工場の建設を進めています。政府は次世代半導体の開発に関連する費用として12月に成立した補正予算に1兆5千億円を計上するなど、まだまだ後押しを続ける構えです。1980年代には日本の半導体生産は世界の半分以上のシェアを占めていましたが、今は1割に満たなくなっています。半導体はかつて「産業のコメ」と言われるほど重要部品に位置づけられており、今では「半導体を制する者は世界を制する」とまで言われるような最重要産業になっています。出遅れてしまった日本がどこまで巻き返せるか、多くの人が注目する業界になっています。
(写真・東京証券取引所プライム市場に上場し、記念撮影に臨むキオクシアの早坂伸夫社長(前列中央)ら=2024年12月18日/写真はすべて朝日新聞社)
エヌビディアとインテルにみる浮き沈み
半導体はデジタル社会になくてはならないものです。パソコンやスマートフォンはもちろん、家電や自動車など多くの製品に半導体は使われています。今後、人工知能(AI)や電気自動車(EV)がもっと普及すれば、半導体の需要はさらに強くなることが予想されます。こうした半導体産業に吹く追い風を象徴するのが、アメリカの半導体メーカーであるエヌビディアです。エヌビディアは画像処理に必要な半導体を得意とするメーカーで、AIになくてはならないものとして大きな利益をあげ、株式時価総額の世界一を争う企業にまで成長しました。一方、これまでパソコン向け半導体を主力として世界一の半導体メーカーだったアメリカのインテルはここにきて伸び悩み、赤字に転落しました。半導体産業とひとことで言っても、伸びる分野と伸びない分野があり、時代の変化とともに浮き沈みが激しい業界と言えます。
(写真・エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)=2024年11月13日)
日本は半導体関連分野に強み
半導体業界を大きく分けると、半導体そのものを製造する会社と、半導体を製造するための機械や材料を製造する会社のふたつがあります。その半導体メーカーと半導体関連メーカーの中でも、つくるモノによって業界はさらに細分化されています。ざっくりと言えば、日本は半導体そのものの製造についてはアメリカや韓国や台湾のメーカーに後れを取っていますが、製造装置や材料などの関連分野では世界をリードしている会社が少なくありません。
キオクシアは記憶媒体としての半導体で世界3位
半導体そのものの製造では、キオクシアが大手です。「NAND型フラッシュメモリー」という、スマホやパソコンの記憶媒体として使われる半導体を得意としています。この分野の世界シェアでは、韓国のサムソン電子、SKハイニックスに続いて3位で、18%(2023年、売上高ベース)あります。また、電流、電圧をコントロールする半導体であるパワー半導体の分野の世界シェアでは、三菱電機が4位、富士電機が5位に入っています。自動車用半導体分野ではルネサスエレクトロニクスが国内で強く、レンズから取り込んだ光を電気信号に変える半導体であるイメージセンサーの分野ではソニーが世界トップのシェアを持っています。
信越化学工業が基板製造で世界トップ
半導体の製造装置の分野も細かく分かれますが、大きな会社としては東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENホールディングスなどがあります。また、半導体の基盤となるシリコンウェハーに強いのは信越化学工業で世界トップのシェアを持ち、次いでSUMCOも高いシェアを持っています。回路を基盤に焼き付けるために必要な薬剤であるフォトレジストは、日本が世界のトップであり、JSRや東京応化工業が高いシェアを持っています。回路に焼き付ける露光装置では、オランダのASMLが圧倒的に強いのですが、日本のニコンとキヤノンもあります。
働き盛りの人材が決定的に不足
復活を目指す日本の半導体産業が直面している課題は人材不足です。日本が大きくシェアを落とす課程で、多くの電機メーカーが半導体製造から撤退したため、働き盛りの人材が決定的に不足しています。TSMCが生産を開始する九州では、年間で1千人程度の人材が不足するとみられています。このため、九州の経済関係者は大学生、高専生、高校生に半導体産業の実際や魅力を知ってもらう取り組みを強めています。また、半導体業界は「男性社会」という実態があり、女性に向けたアピールもあちこちでおこなわれています。
(写真・台湾積体電路製造(TSMC)の第1工場=2024年2月)
企業の将来は見通せないが、需要の高まりは確実
政府が巨額の資金を投じるなどして旗を振っても、人材がいなければ実を結ぶことはありません。日本の半導体産業の復活は人材確保にかかっていると言っても言い過ぎではありません。理科系で電気や化学などを学んだ人はもちろん、ふつうの会社と同じように文科系の人が担う仕事もありますし、入社してから学ぶこともできます。世界的な激しい競争が起きている分野なので、企業の将来は見通せませんが、世界の需要が今後も高まっていくのは間違いありません。「むずかしそうな仕事だ」と敬遠しないで、研究してみるといいと思います。
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